FC2ブログ
自作小説を掲載したり、興味のあることを語ったりするブログです。
2015/08«│ 2015/09| 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 »2015/10
00:00:00
ブログ開設。

大樹の木陰で涼むような、居心地の良いブログになりますように。

注意!
当ブログは著作権を放棄しておりません。
くれぐれも無断転載の無いようお願い致します。

(あまり堅いことを言う気はありませんので、常識の範囲内でお願いしますね)

リンクはフリーです。

※ 作品をご覧になる際には、カテゴリ『シリーズ目録』が便利です。
スポンサーサイト
[PR]

人生一度、不倫をしましょう・・・欲求不満妻が大集合
「数ある出会い系サイトを実際に使ってみた結果……」
人生一度、不倫をしましょう・・・欲求不満妻が大集合
「数ある出会い系サイトを実際に使ってみた結果……」

11:07:09
※ 一部にアナル・スカトロ的な表現あり。ご注意。

その週の金曜、土曜はまさに地獄だった。
行動を起こすと決意したのが木曜。決行が日曜。
つまりその間は、心にマグマのような怒りを煮やしつつも、表面上は平静を装わなきゃいけない。
ぎこちない会話。ぎこちない視線。微妙な距離。
和紗は、僕の異変に気付いているような気がする。でも確実にそうと言えるわけでもない。
息苦しい。
昔は和紗といる時が一番癒されたのに、今は彼女といる時が一番落ち着かない。
最愛の女性であることは変わっていないっていうのに。
「和紗」
意味もなく妻の名を呼んでみる。
「……なに?」
和紗はくるりとした瞳で僕を見上げた。でもそれだって、前とは違う。
僕が呼びかけた瞬間に目を瞬かせ、かろうじて繕った仮面だ。
「ううん……何でもないよ」
僕もそういって仮面を作る。引き攣った笑顔の仮面を。
これが仮面夫婦という奴か。僕らに限って、こんな事はないと思ってたのに。
テレビで倦怠期の夫婦を見て、僕らはこうはならないよね、と笑いあった仲なのに。
もう、こんな状況は嫌だ。頭がおかしくなりそうだ。
今かろうじて正気を保てているのは、日曜という希望があるからに他ならない。
和紗の現状を暴き、全身全霊を賭けて救い出す。そしてまた、元の僕らに戻る。
僕はそれだけを心の灯りとして、真っ暗闇の週末を乗り切った。

そして、日曜日。
「…………じゃあ、行ってくるね」
いつものように、和紗は暗く沈んだ表情で告げた。もう用件さえ口にしない。
格好は相も変わらず扇情的だ。
白いフリルシャツに、ごく薄い鼠色のパーカー。チェックのミニスカートと、膝上丈の白いニーソックス。
12月の外着とはとても思えない。
薄着なせいか、いつにも増して胸に目が奪われる。やけに柔らかそうだ。
清楚そうなフリルシャツを巨乳が押し上げ、前を開いたパーカーがそのバストラインを横断する様は、やたらと性を意識させる。
ミニスカートにしたって、今にもショーツが覗きそうなギリギリの丈。ニーソックスとの間に覗く太ももが眩しい。
ひどい精神状態の僕でさえ、思わずムラッとくるコーディネート。

 ――そんな格好で行くのか。

思わずその言葉が喉まで出かけ、かろうじて押し殺す。
今日だけはダメだ。不自然さを感じさせず、いつも通りに送りだなさいと。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
僕はそう言った。なるべく柔和な表情を意識して。
和紗は、

和紗は、なぜかこんな日に限って、何でもない表情を歪めた。
一歩距離を詰め、僕の肩を掴んで、目を真っ直ぐに覗き込んでくる。
思わずはっとするような気迫で。
「…………ねぇ、壮介。私、今でも壮介が大々々好きだよ。
 子供がお腹の中にいた頃から、ずぅっと変わらずに大好き。それだけは信じてね」
その言葉を聞いて、僕は確信した。
やっぱり和紗は、ここ数日の僕の異変に気がついていたんだ。
だから僕の信用をなくしたんじゃないかと思って、こんなに必死に訴えてきてる。
「大丈夫。僕も和紗を愛してるよ。昔と何も変わらない」
和紗の必死さに対して、僕は本心で応えた。
和紗を大切に思う気持ちは変わらない。だからこそ、僕はこの淀んだ状況を打開しに行く。
もう一日だって、和紗が表情を歪ませなくても済むように。




案の定、和紗は道行く人間の注目の的だった。
和紗の胸を、太腿を、何十という男の視線が舐めていく。
誰もがダウンやファーコートで厚着するこの季節に、スタイル抜群の女が薄着でいれば目立つのも無理はない。
和紗はパーカーの襟元を頻繁に直し、スカートのお尻を鞄で押さえながら歩いている。
どうやら、好き好んであんな痴女っぽい格好をしている訳でもないらしい。
僕はその事実に安心する。そして同時に、その格好を強要しているだろう石山達への恨みが燃え上がった。

和紗はいくつもの曲がり角を曲がり、横断歩道を渡って歩き続ける。
それをストーキングするのも楽じゃない。一応変装しているとはいえ、念のため電柱などに隠れながら、つかず離れずでついていく。
ただでさえターゲットは場の注目を集めている和紗だ。
傍目から見れば完全に変質者で、いつ通報されてもおかしくないな。
そんな恐怖と戦いながら、和紗を追って曲がり角を曲がろうとした瞬間。
「ちょっと待ちなよ、オニーさん」
ガラの悪そうな5人が、いきなり僕の行く手を遮ってくる。
サッ、と血の気が引いた。
ただでさえ虐められていた頃の記憶がフラッシュバックする状況。
おまけに今、和紗を見失う訳にはいかない。こんな所で面倒に巻き込まれている場合じゃないんだ。
「どいてくれ。いま君らに構ってられないんだ」
僕は和紗に聴こえないよう声のトーンを落としつつ、5人に告げた。
でも僕は知っている。こういう連中にとっては、声が小さくて弱腰の人間こそ最高のカモなんだ。
「は? どかねーし。つーかオマエよ、さっきからあの姉ちゃんケツ追っかけ回してんだろ」
一人にそう言われ、僕はギクリとする。
否定しようとも思ったけど、この連中も何かの確証があって言ってるんだろう。なら。
「ああ、そうだ。でも興味本位じゃない。僕は彼女の配偶者だ!」
あえてそう明言する。
すると5人は一瞬言葉を途切れさせ、次に大口を開けて笑い始めた。
何だ、何がおかしいんだ。まさかストーカー特有の脳内妄想だとでも思ってるのか。
僕が憤りつつ言葉を続けようとした瞬間、いきなり背後から腕が伸びてきた。
腕は僕を羽交い絞めにし、片足を持ち上げてあっという間に僕の抵抗を封じてしまう。
「な、何するんだっ!!」
そう叫ぶ間にも、僕の身に着けていた帽子やサングラスが取り去られる。
変装の解けた僕を見て、5人は歪んだ笑みを見せた。
「お、マジに“ショボ助”じゃん。やりィ!」
「だな。こーりゃ後で美味ぇぞ。……オウお前ら、石山クンに知らせとけ!」
ショボ助という仇名。そして石山クンという名前。
その2つを聞いて、僕はすぐにピンと来た。こいつら、石山の取り巻き連中だ。
偶然か網を張っていたのか、僕が和紗の後をつけているのを嗅ぎつけたんだ。
「は、離せぇっ!!」
僕は必死にもがいた。でもどれだけ力を込めたって、複数人のチンピラに押さえ込まれたらどうしようもない。
裏路地に引き摺りこまれたせいで、もう和紗の姿は見えない。代わりに、路地の前をサラリーマンらしき人が通りかかる。
「た、助けてくださいっ!!」
僕は縋るような気持ちで彼に呼びかけた。彼がこっちを向き、目を見張る。
「ふざけんなよこのストーカー野郎が!!」
「観念しろや。このままサツんとこ引きずり出してやっからよ!!」
でも僕の声を掻き消すようにヤンキー達が騒ぐせいで、せっかくの希望の星も怪訝な顔で立ち去ってしまう。
彼の目には、僕が往生際の悪い犯罪者に映ったはずだ。
それにたとえ僕の言葉を信じたって、この刺青だらけの不良5人を敵に回そうという人がどれだけいるだろう。
「畜生、離せよォ畜生っ!!!」
僕は必死に叫ぶけど、状況を打開するきっかけにはなりえない。
ただ猿轡を噛まされ、後ろ手に縛られ、頭から袋を被せられて、真っ暗闇の中でどこかへ運ばれていくばかりだ。
『全身全霊を賭けて和紗を救い出す』
そんな僕の一世一代の覚悟も、悪意の前に呆気なく踏み潰されてしまった。
命を賭ける覚悟さえしてこのザマか。
悔しい。でも、まだ諦めない。まだ死に物狂いになるチャンスはあるはずだ。
いくら世の中が理不尽だったって、希望が一つもない訳がない。
きっと、きっと。





気がつけば、僕は椅子に腰掛けたまま体を拘束されていた。
無機質な部屋だ。割れた窓やひび割れたコンクリート壁から見て、廃ビルの一室って所だろう。
その荒れた環境に似つかわしい連中が、僕を取り囲むようにして座り込んでいる。
見える範囲だけで大体10人ちょっと。揃いも揃って、まさに『ガンを飛ばす』という感じの品のない目つきだ。
ただその口元には、妙な薄笑みが浮かんでもいる。
「よぉ、目ぇ覚めたかよショボ助」
真っ黒に日焼けした一人が僕に近寄り、馴れ馴れしく肩に手を置いてきた。
僕は無意識にそいつを睨みあげる。
「おー怖ぇ怖ぇ、完全にキめてるヤツの目だわ。つっても、喧嘩して負ける気は1パーもしねぇけどな」
色黒は完全に僕を侮った様子で、周囲の笑いを誘っていた。
どこまで心が捻じ曲がれば、この状況でそんな事ができるんだろう。

「……ここはどこだ。僕をこんな所に閉じ込めて、どうするつもりだ!」
僕は腹の底からの恨みを込めて言う。
普通この声色を出されれば、相手は何らかの異常を感じ取るはずだ。
でもここの連中は、大勢で群がっている強気からか、それとも僕という人間を虫のようにしか思っていないのか、余裕の笑みを絶やさない。
「あのさーショボ助、ちっとは言葉選んだ方がいいぜ。これ、一応忠告だから。
 オマエ今、石山クンにガチ切れされてんだよ。ちっとは俺らに媚売っとかねーと、マジで死ぬって」
ここで集団の笑みが少し変わる。可哀想に、と他人事で憐れむような顔だ。
よっぽど石山というバックが心強いらしい。でも今の僕にとっては、まさにそれがNGワードだ。
「石山? 一体アイツが、僕に何を怒るっていうんだ……頭に来てるのはこっちだっっ!!」
声を限りに叫ぶ。ビルの壁に僕自身の声が反響する。
これには流石に一瞬場の空気が凍りついた。でも、一瞬だけだ。
「っせーし。死ねよオマエ」
「いやいや落ち着けって。今死なれたら面白くねーだろ」
「お、そういやそーか。もうそろそろじゃね?」
何人かがそんな会話を交わした後、意味深な笑みを浮かべる。その笑みは、それまでのどんな顔よりも僕を不安にさせた。
「な、何だよ……何があるっていうんだよ!」
耐え切れず、僕はその数人に問う。すると連中は顔を見合わせ、噴き出した。
「いや、何っつーかさ。お前がチョロチョロ変な事してっから、石山クンがブチ切れてんだよ。
 そろそろお前のカミさんが石山クンとこ着く頃だけどよ、キッツい事されんぜー多分」
「!!!」
色黒の言葉が心に刺さった。息が急に苦しくなる。
和紗……そうだ、和紗が!
僕自身に暴力が来るのなら、いくらだって耐える覚悟はある。でも、和紗が虐げられるのは我慢ならない。
「ひっ…………や、やめてくれ!!やめっ、させてくれっ!!!」
僕はしゃっくり混じりに哀願する。自分より年下だろう不良達に、不自由な頭を下げて。
でもその必死な哀願は、周囲の笑いを買うばかり。
そしてそんな中、不良の一人のポケットから音楽が鳴り響く。
そいつはポケットからスマートフォンを取り出し、満面の笑みを浮かべた。
「あららー残念だわショボ助くん。もう奥さん到着しちゃったって!」
そう言いながら僕に向けられた画面には、ある映像が流れていた。

どこかのマンションの一室をぐるりと映した映像。
一目でわかる巨体の石山が腕組みをし、それを取り囲むようにして厳つい連中が並んでいる。
その中には、明らかにネットの動画で見た体格の人間が何人もいた。
中には本格的なビデオカメラを構えている人間もいて、いよいよAVの撮影現場という風だ。
そしてカメラが振り返り、入り口付近を映す。
一人がドアを開けて招き入れたのは…………紛う事なき、今朝見たままの格好の和紗だった。



和紗は部屋に入るなり、ビデオカメラに気付いたんだろう、やや不機嫌な顔をする。

『…………今日も撮るの?』
『おう。つっても最近は毎回撮ってんだろ』

答えたのは石山だ。元々極端にガラの悪い声なせいで、機嫌の程は判らない。
和紗はひとつ溜め息を吐いた。

『まぁ気にすんな。いつも言ってるが、身内で楽しむ用だからよ』

石山の声がそう続ける。
その瞬間僕は、頭にカッと血が上るのを感じた。
あれだけ大量の動画をネットに流しておいて、よくもそんなウソを。
可哀想に和紗は、その事実を知らないからあんな映像を撮らせてたんだ。やっぱり騙されてたんだ!
思わず奥歯を鳴らす。周りの連中から笑いが起きるが、どうだっていい。
朝から胸に渦巻いていたドス黒いものが、さらに濃さを増していく。

映像の中で、和紗がベッドに腰掛けた。ただし、普通にじゃない。
和紗の背後に日焼けした男が滑り込み、自分の足の上へ和紗の腿を乗せるようにさせる。
男に背を預けた大股開き。ミニスカートだから、当然ショーツが丸見えになってしまう。
まるで西洋の娼婦が穿くような、レース入りの黒いショーツ。家の洗濯物としては見かけたことのない代物だ。
男は遠慮なく、その黒ョーツを指で撫で上げる。

『んっ……』

和紗から、鼻を抜けるような吐息が漏れた。感じたのか。まさか、あれだけで?
とても信じられない。でも、男のもう片方の手がブラウス越しに乳房を弄りだすと、表情までが妖しくなりはじめる。

『っは、やらけー。つかマジでノーブラのまま来たんだ?』

男はそう言った。ノーブラ、と。
まさか。そう思う僕に見せ付けるように、男の手がブラウスをたくし上げていく。
その下から現れた乳白色の肌には……確かに、隠すものはない。彼女自身の乳房が、豊かに実っているだけだ。
今朝彼女を見たとき、やけに胸がやわらかそうに思えたのはこういう訳か。

『ナマチチのまま出歩くのって、どんな感じだった? ノーパンの時とどっちが興奮した?』

男は愛撫を続けながら、さらに衝撃的な発言を繰り返す。

『……寒いだけ。興奮なんか、する訳ないでしょ』

和紗は顔を横向けながら、吐き捨てるように言う。僕は少し安心する。
でも直後の男の言動が、すぐにそれを打ち消した。
『んー、本当かなぁ。なんか乳首の先勃ってるっぽいんだけど。こっちも……どうかな?』
男は和紗の右乳首を弄びつつ、ショーツの中にまで手を入れる。
ショーツに凹凸を作りながら、繊細に動き回る指。明らかに僕なんかとはスキルが違う。
和紗の太腿がピクピクと反応するのも、表情がたまに強張るのも、仕方がないと思えるほどに。
十分に待つ必要すらなく、映像の中に水音がしはじめる。
くちゅ、くちゅっ……という水音。発生源は明らかだ。

『ほーら、もうこんなに濡れちゃってる。やっぱりオッパイ丸出しで興奮してたんでしょ?』
『ち、違……う…………!』
『へぇー、違うんだ。じゃあこれって、フツーに俺の指で感じてるってこと? それはそれでヤバくねぇ?』
『…………っ!!』

男は慣れた様子で、和紗に言葉責めを掛けていく。和紗はそれに一々正直な反応を示し、翻弄されていく。
らしくない。居酒屋で酔っ払いに絡まれていた時には、当意即妙に答えていた彼女なのに。
すっかり場に呑まれているんだろうか。それとも、感じてしまって余裕がないんだろうか。
いずれにせよ今の彼女は、蟻地獄でもがく蟻のようにしか見えない。

やがて男は、和紗のパーカーとフリルシャツを器用に脱がせ、両脚を揃えさせてからスカートも脱がせきった。
最後にすらりとした脚の間を黒ショーツが滑り降りれば、和紗の身体を隠すものは何もなくなってしまう。
ひゅう、と僕の周りの連中が口笛を吹く。
改めて映像の中で真正面に捉えられるのは、毛の綺麗に剃り上げられた和紗の秘部だ。
今度はモザイクなし。
実に半年ぶりに目にする妻のアソコは、かなり印象が違っていた。
見惚れるぐらい鮮やかなピンク。それが僕の持つイメージだ。
でも今見えているそこは、内側こそピンクではあるけれど、陰唇の色素沈着がすっかり進んでしまっている。
明らかに『使い込まれている』。当然、僕以外の誰かによって……。

映像が引きに戻ると、いつの間にか責め役が2人に増えていた。
さっきの男は背後から和紗の乳房を揉みしだく事に専念し、また別の一人が和紗の秘部に触れていく。

『今日もまた綺麗に剃ってきてんなー。これ、ダンナに何か言われないの?』
『あっ……はぁっ…………あ、あの人とは、もう、ずっとしてないから…………』
『えっマジで?こんなエロい身体した嫁と!? うーわ勿体ねー』

男の質問に喘ぎながら答える和紗。その表情が辛そうなのが、せめてもの救いだ。
交わされている会話の内容そのものは、胸をひどく抉るけれど。

『そういや最初にココ剃った時さ、よく見えるようになったからっつって、クリで散々イカせまくったよな。
 アレ、何回イッたか覚えてる?』

男が指先でクリトリスを弄びながら問う。和紗はゾクッと肩を震えさせた。

『うっ、あ……!! あ、あ、えっと…………よ、よんじゅう、いっかい…………』
『お、スゲー覚えてんじゃん。ま、イく時には絶対言えっつって、一々イッた回数カウントさせてたもんな。そりゃ覚えてっか』
『なんか凄かったもんなー。最後の方は、脚攣らせながらイグゥーイグゥーつって、すンげー顔なってたし。
 あれ録画失敗してたのはマジ痛かったわ』
『おー、あのローターやらマッサージ器やらメンソールやら電動歯ブラシやら、ゴソッと用意した時な。あん時ゃ凄かった!』

恐ろしい話が流れるように出てくる。
和紗がクリトリスで連続絶頂…………
凄い顔…………。
ネットの映像にすらなかったそれを、こいつら皆が見ていたのか。夫である僕を差し置いて。
また、ドス黒いものがこみ上げる。しばられた手が震える。
「ははっ、ショボ助キレてやんの」
「ヨメが他所の男に延々クリ逝きさせられてましたーなんて聞かされたら、そりゃ頭に来るわな。カワイソー旦那様」
スマートフォンを構える一人とその他が、僕を見下ろしながら嘲り笑う。

映像内での愛撫は続く。
和紗の背後にいる男は、乳房を丹念に刺激していた。
乳房を下から揉み上げ、尖ってきた乳首を捻り潰す。すると出産を経験した和紗の胸からは、白い母乳が噴き出した。
本来なら、僕らの子供に与えるはずだった母乳。男はそれを面白がって絞り続ける。

『はぁ、はぁっ…………やめて、無駄に絞らないで…………』
『バーカ。こんな揉みごたえのあるデカパイ、放っとくかっつーの』

和紗が何度非難しても、男に聞き入れる様子はない。
母乳は和紗自身の意に反して次々に飛沫き、お腹のラインを細かい粒として伝い落ちていく。
一方、和紗の正面に陣取った男は、クリトリスと秘裂の両方を同時に責めていた。
クリトリスを柔らかに転がしつつ、膣内に差し入れた指をコリコリと動かす。

『あっ……あっ、ああっ!…………あっ、は、ん…………あっ、あっああ……あ………!!』

和紗は唇を噛んで快感に耐えつつも、時々口を開いて堪らなさそうに喘ぐ。
責めが長引くにつれ、その頻度は逆転していった。舌が覗くほど開いた口からは、今にも涎が垂れそうだ。
もうそれほどに、和紗の表情は蕩けてしまっている。

『オラ和紗、そろそろイキてぇんだろ。いつもみてぇにおねだりしてみろ!』

石山のがなり声がする。和紗はその方向を一瞥した後、また視線を下に落とす。
そして唇を噛みつつ、たまらないといった様子で喘ぎ続ける。

『んんんっ……ぁはぁっはーっ……くぁあ、あっああっ……ん゛っ、ふんんん゛っっあああ………………!!!』
『何だよ、今日はまたやけに頑張るじゃねぇか。不甲斐ねぇダンナに操でも立ててきたか!?』

石山がさらに茶化し、場に笑いが起きる。
僕だけは、唇を噛みすぎて血が出るほどだったけれど。

和紗はよく我慢していた。
何度も何度もシーツの上を足指で掻き、内腿を痙攣させて。
僕の周りから、スゲーな、という呟きが漏れるぐらいに。
ただそれでも、いつか限界は来る。仕方ない。映像内の連中は、僕でもわかるくらい女の扱いが巧みだ。
男の指が膣の上側――たぶんGスポットの辺り――を押さえるたび、腰どころか全身がガクガクと痙攣する。そんな状態が普通なわけない。

『…………はぁっ、はっ……も、もう、焦らさないで、頭がヘンになっちゃう…………』
『そ。なら、おねだりだろ。ホラ、いつもみてぇに言ってみろ』
『っ…………!!』

ずっと俯き通しだった和紗が、ここでようやく顔を上げる。
ほとんど泣きかけのその顔は、彼女がどれだけの無理を重ねたのかを物語っていた。

『………お願い、します…………おまんこに入れてください。
 ………………私のおまんこを、いっぱい犯して…………ぐちゃぐちゃにして下さい』

挿入を乞う言葉にも迷いはなく、過去に何度もその屈辱的な宣言を繰り返してきた事が窺える。

『ふー、ようやくかよ。もうミルクやらマン汁やらでシーツグチョグチョじゃん。マンコからもすっげー牝の匂いしてっし』
『ケンジとリュウト2人がかりで責められてここまで耐える女とか、久々見たんだけど』
『だな。まぁそん代わり、クリがもう角みてぇになってっけど。さっきまでの反応だと、Gスポも思っきり目覚めてるっぽいし。
 ここまで温めてから突っ込みゃ、まーたスゲェ声出んぞー?』
『っしゃあ、派手にヤっちまえテメェら!!』

石山の怒号をきっかけとして、映像内の連中が次々に立ち上がる。勃起しきった立派な物を扱きつつ。
まさに逞しい雄の群れだ。その雄の群れは、我先にと力の抜けた雌に群がっていく。
弱った一頭のシマウマが、ライオンの群れに食い荒らされる動画――
ふと、それが脳裏に甦った。




ベッドに引き締まった体付きの男が横たわり、その上に数人の手で和紗が乗せられる。
大きく開かれた股座に怒張の先が宛がわれ、和紗自身の自重でずぶずぶと入り込んでいく。
僕にはそのあまりに衝撃的な光景が、スローモーションで見えていた。
妻が、別の男に挿入されているんだ。
ようやくにしてそう認識した瞬間、体中に怖気が走る。

「――――やめろぉおっ!!!」

僕は縛られた身を捩り、力の限り叫んだ。
「おい、汚ねーな。画面にツバ飛ばしてんじゃねーよショボ助!」
「ヨメが目の前で突っ込まれてテンパってるわけ? でも正直、お前なんかよりシンゴの方がよっぽどお似合いだから」
周りにいる人間が口々に僕を詰る。でも、そんなことは些細な問題だ。
ショックなのは、和紗が別の男に挿入されたという事実。
ネットの映像にも、和紗と男優が性交しているシーンはあった。でもそれは所詮、モザイクに塗れた過去の記録だ。
でも今見ている映像には、一切モザイクがない。嫌でも和紗本人だと理解できてしまう。
そして何より、この映像はライブ映像だ。和紗は今まさに、どこかのマンションで犯されているんだ。
そう考えると、胸がざわついて止まらない。
でも僕にできるのは、画面を見ながら『やめろ、やめろ』と叫ぶ事だけ。
そんな僕を嘲笑うかのように、画面の中では激しいセックスが行われている。

『あ……あっ、あ…………あ、あ…………あっ…………』

和紗は天を仰ぎ、汗まみれで喘いでいた。その背中は弓なりに反り、腰は男のごつい手で鷲掴みにされている。
下になった男は、手に血管を浮かせながら力強く和紗の腰を引きつけ、同時に腰を打ちつけてもいるようだ。
ギシッ、ギシッ、ギシッ、と凄い音でベッドが軋む。
僕の遠慮がちなそれとはまったく違う、獣のような荒々しいセックス。
よく慣れた男からそれをされれば、さぞかし気持ちいいだろう。他ならぬ和紗の余裕のない表情が、その推測を裏打ちしている。

『ああ、いい。この女のマンコ、マジで病み付きだわ』

突き上げる男が感想を漏らした。女慣れしていそうな彼にとっても、和紗の中は良いらしい。
でもその事実だって、到底喜ぶ気になんてなれなかった。本当なら、そこは世界中で僕だけが占有できるものなんだ。

『そうか、ならもっと激しくやってやれ。後ろもオラ、空いてんだろうがよ。誰か突っ込めや!』

監督気取りなのか、石山のがなり声がまた部屋に響く。
その一声で何人かの男が薄笑いを浮かべ、和紗を取り囲んだ。
一人が和紗の背中を押し、下になった男に覆い被さる格好を取らせる。当然、和紗からは小さな悲鳴。
でも彼女にしてみれば、押されたことより、今からされる事の方が恐怖だろう。
映像がややアップになり、和紗の肛門を接写する。
かなり“使われた”らしく、肛門は平時でも小指の先ほどの大きさに開いていた。
そこに男の指がワセリンを塗りこめ、その手前では別の一人がコンドームを嵌めて準備を整えている。
そして男の怒張がついに肛門へと宛がわれた瞬間、和紗の腰は小さく震えた。

『やめて…………お、お尻は、もう………………っ!!』
『よく言うぜ、あんだけ散々尻の穴でイッといてよ。今日はハードな撮影するって決まってんだ、観念しろや』

和紗の哀願を聞き届ける人間はいない。
一度肛門に宛がわれた亀頭は、何の遠慮もなく奥へと入り込んでいく。膣の時よりずっとスムーズだ。

『へっ、何がやめてだ、こんなにあっさり咥え込みやがって。
 ああぁしっかしヤベェ、マジ締まる…………最高だぜこいつのアナル!』

男は挿入を深めながら呟いた。心から気持ちいいという風で。
カメラが引かれ、和紗の全身を映す距離で止まる。
和紗は前後の穴に男を迎え入れながら、苦しげに背後を振り返っていた。
背中といい額といい、身体中にじっとりと汗を掻いているのが光具合で見て取れた。
何より僕の心を抉るのは、その手。
皺だらけのシーツを掴むその左手薬指には、小さな小さなダイヤの指輪が光っている。
それは、“犯されているのはお前の妻なんだぞ”と念押しするかのようだ。
悔しい。
恨めしい。
いっそ人目も憚らず泣いてしまいたい。
でもそんな気分にも関わらず、なぜか僕の分身には血が巡り始めていた。
スタイルのいい男女の絡み……それを頭のどこかが客観的に見て、興奮に変えてしまっているらしい。
そしてそんな僕の変化は、当然周りに見つかってしまう。
「お、オイオイオイショボ助よぉ、お前なに勃たさせてんだよ!?」
一人が僕の下半身を見て大袈裟に騒ぎ、他の連中もそれに追随する。
「うわマジだ、引くわー。嫁がやられてんの見て勃起とか、マジ最低じゃん!」
「あの嫁も可愛そうだよな、守ってくれるはずのダンナがこんなんじゃあよ!」
口々に好き勝手を言ってくる。僕は周りを睨みつけた。
「最低だと!? こんな事してるお前らなんかに、そんな事言われる筋合いはないっ!!」
声を限りに叫んでも、連中の嘲笑は止まらない。
悔しさのあまり暴れようとするも、椅子に縛り付けられた手足はうっ血するばかりで少しも動かない。
そしてアドレナリンを出した影響か、余計に勃起が激しくなってしまう。

「まーまーまー、落ち着きなって。そんなに出したいなら、せめて手でしたげるからさ」
その声と共に、背後から一人の女が姿を現した。
笑い声から女がいる事はわかってたけど、こうして目の前に来られると、やけに羞恥心が煽られる。
改めて顔を見て……僕は、また別の意味で表情を強張らせた。
こいつ、木曜に見た映像の中で、和紗を弄んでいた女だ。
「うわ、すっごい睨まれてる私。言っとくけど、アンタなんかにヤらせないからね。手でするだけ」
女は勘違い顔で嘲笑いつつ、僕の勃起したものを握り締める。
「うっ!!」
女の手は柔らかく、それだけでかなりの快感が来た。
アレの周りを生暖かい柔肉でくるまれている……その状況が、目の前の映像とリンクするのがまた危険だ。
女の手がゆるゆると扱きを始めると、つい和紗の中へ挿入しているような錯覚に陥ってしまう。
そして悪いことに、今の映像はちょうど、和紗の肛門を犯す男に近い視点だ。
「ほぉーら、奥さんのお尻の中に挿れてるみたいっしょ。あ、それだとしっくり来ないかな?
 アンタみたいなクソ真面目そうなタイプって、アナルセックスしなさそうだもんね」
女は毒を吐きながら、僕の逸物を刺激し続ける。
「やめろ! やめてくれ!!」
僕はそう叫びつつも、刻一刻と興奮が高まっていくのを感じていた。
「何言ってんの。アタシの手の中でギチギチに大きくしちゃってるクセに。
 アンタ、ヒョロい見た目の割にはそこそこ大きいね。ま、石山には一瞬で上書きされるサイズだけど。
 うわっ、とか言ってるうちに先走り出てきたし」
女は僕を詰りつつ、鈴口から少し漏れた汁を亀頭全体に塗りこめてくる。
「うあ!!」
その刺激はかなりのもので、僕は思わず腰を跳ねさせた。
「はは、レイナお前やっぱすげーわ。そんな奴にまで奉仕するとか」
「完全に風俗嬢の貫禄だな。まぁ石山ガールズもお水も、似たようなもんか」
「は?うっせーし。それ本人の前で言ってみろっつーの」
ざわつきながらも、縛られた僕への嬲りは終わらない。
この女はかなり性的なサービスに慣れているにもかかわらず、あえてギリギリ達さない程度に刺激しているらしい。
生殺し、という奴だ。
もっとも僕の情けない姿を見て楽しむのが目的だろうから、それが当然ともいえる。

僕は居たたまれなくなり、視線を正面……スマートフォンに映る映像へと戻す。
映像内ではいつの間にか、前後の穴のみならず、口にまで咥えさせられる三穴責めが始まっていた。
今まさに、口から逸物が一旦引き抜かれたところだ。
濃厚な唾液の線が、和紗の赤い舌と赤黒いペニスの先を繋いでいる。
和紗は眉を垂れ下げ、目を閉じたまま口だけを控えめに開いていた。明らかに弱りきったような表情だ。
でもその力ない表情も、二穴を男に突き上げられると一変する。
目を見開き、口も『あ』の字に大きく開いて。
下になっている男の顔は見えないが、背後から肛門を貫く男の顔ははっきりと映っていた。
まさに獲物を捕食する獣のような、ギラついた笑みだ。
この男は上腕の筋肉も凄まじい。そんな彼から渾身の熱意を込めて肛門を穿たれれば、和紗がたまらない表情をするのも無理はない。
勿論、下から膣を突く男の動きも半端じゃない。
プロのAV男優さながらに、力強く、そしてリズミカルに子宮を突き上げているのが見て取れる。
さらに言えば、前後の男の動きに一切の不自然さはない。
薄皮一枚を隔てて、絶妙なコンビネーションで絶え間なく前後の穴を責め立てる……これはさぞきついだろう。
でも和紗には、悲鳴を上げる暇さえない。

『ふむ゛ぅっ!?』

叫ぼうとした和紗の口に、また一本のペニスがねじ込まれる。
そして頭頂部を大きな手の平で押さえ込まれたまま、強引にイラマチオに従事させられる。
延々とその繰り返し。思いやりなんて欠片もない、完全な陵辱現場だ。
「うわー、奥さんカワイソー。あんなガンガン突っ込まれたら、アタシだって参るわ。
 なんか、『助けてぇー』って心の声が聴こえてくるみたいじゃん?
 これはショボ助くん、責任重大だよー。奥さんがあんなハードな撮影させられてんの、アンタが石山キレさせたせいだかんね。
 こんな、くっさい先走りドロドロ出してる場合じゃないと思うんですけどぉ?」
女にそう囁かれ、僕の脳裏でまた一本の血管が切れる。
「うるさい、黙れぇっっ!!!」
今まで出した事もない声が出た。喉を潰されながら絞り出した声みたいだ。
実際今の僕は、ほとんどまともな呼吸ができていない。心臓の鼓動もまともじゃない。
ストレスと怒りで、頭がどうにかなりそうな状況なんだ。
それでも、男としての本能だけは普段と変わらない。女に生殺しを続けられた僕の逸物は、いよいよはち切れんばかりになっている。
おまけに映像の中の光景も、いよいよ激しさを増してきていた。

今、和紗は屈曲位で、入れ替わり立ち代わり色んな男に犯されている。
モザイクがないから、赤黒いペニスが和紗の中に入っているところが丸見えだ。
抜群にスタイルのいい和紗の身体が、腰から半分に折れ曲がり、男に圧し掛かられている姿。
深く突きこまれるたびに強張る足指。
熱に浮かされたような顔。
映像はそれを余す所なく映していく。僕に見せ付けるかのように。
「あはっ、すーごい暴れだしてきた。奥さんの感じてるキモチが、伝わってきちゃった?」
女が嘲笑う。確かに僕の分身は、彼女の手の中で焼けた棒のようになっていた。
興奮してるんだ……犯される和紗を見て。
そう思うとはらわたが煮えくり返り、でもその興奮がまた、僕の勃起をより痛々しいものに変える。
情けなくて、涙が抑えきれなくなる。
「オイオイ、泣くなってショボ助!」
「嫁のレイプシーン見ながらJKに扱かれてギャン泣きかよ。ホント情けねー野郎だなマジで。
 俺がもしンな状況になったら、せめて目ぇクッと見開いて耐えるぜ?」
「フツーそうだろ。こいつがショボいだけってハナシ。だからショボ助」
「なーる。石山クンのネーミングセンス、パねぇな」
四方八方から侮蔑の言葉が降ってくる。どいつもこいつも、ガムを噛みつつのだらけきった顔。
同じ空間にいるのに、地獄の業火に焼かれるような僕とはまるっきり違う。
思い出した。これがイジメだ。『群がった弱者』が『群がれない弱者』を食い物にする、この世でもっとも深い闇だ。
イジメを受けるだけなら慣れている。
僕が虐められる事で何かが改善するなら、それも仕方ないと許容もできる。
でも…………そのイジメの為に、和紗をダシに使う事だけは許せない。
「畜生…………!!!」
僕は奥歯を噛み合せながら恨みの声を漏らす。
そうして僕が感情を爆発させればさせるほど、映像の向こうはひどい事になっていく。

『オウ、そろそろ代われ!』

映像内に石山の声が響く。その瞬間、和紗に群がっていた連中は素早く身を引いた。
続いて画面に映りこむのは、見事な力士体型をした猿山のボスだ。
奴はベッドに悲鳴を上げさせながら和紗に近寄り、乱暴に脚を払いのける。
和紗の顔が強張った。石山みたいな奴にセックスを求められれば、誰だってそうなる。
石山が何かを呟きながら、和紗の腰を掴んだ。そして、次の瞬間。

『う゛っ……!!』

和紗から低い呻きが漏れる。かなり苦しそうだ。
石山はその声を聞いて逆に機嫌を良くし、欲望のままに腰を使い始める。
他の連中とはまるで違う、異常なセックスだ。
まず絵面がひどい。細身の和紗の上に猪のような巨体が圧し掛かっている様は、それだけで心配になる。
そして石山が腰を動かすたび、木製のベッドはギチュウイッ、ギチュゥイッ、と聞いた事もない軋みを上げた。揺れ方もいつ壊れるかと思うレベルだ。
その震源地には和紗がいる。深く眉を顰め、苦しそうな口を形をした和紗が。

『ぁあっ、ああっ…………ふ、太……い…………!!』

よく聞けば和紗は、掠れ声で何度もそう言っているみたいだ。でも石山の出す音が大きすぎて、ほとんど聴こえない。
動きも声も封殺し、ただ男側の欲を満たす為だけに行われる性行為。これをレイプでなくて何だろう。
でも和紗は……僕の妻は、そのレイプで感じさせられているみたいだった。
上半身は万歳をする格好で、頭上に腕を投げ出している。
下半身は石山の巨体に覆い隠されて見えない。
その断片的な情報だけでも、和紗が絶頂へと押し上げられつつある事が伝わってくる。
上下に弾む母乳まみれの乳房。
たまらないという様子でシーツを掻き毟る手足の指。
ビクビクと痙攣する身体。
映像はそれらを舐めるようにクローズアップし、僕の心を散々に掻き乱す。
そして、ついに。

『 い く ………… 』

和紗がその言葉を発した。その瞬間……僕の中で限界が訪れる。
すでに動きを止めていた女の手の中で、僕の逸物は盛大に跳ねた。
2度、3度と跳ねた後、自分でも驚くほど大量の精液を撒き散らしはじめる。
「う、うわっ! あはっやだ、すっごい量!!」
女は慌てつつも笑顔を崩さず、どこか面白そうに僕の逸物を扱く。
その快感が駄目押しとなって、さらに大量の精液が溢れ出ていく。
薄目で見る映像の中では、和紗もちょうど達したところらしかった。
背中を弓反りにし、顔を横向けたまま、細かに痙攣を続けている。
それを押さえつける石山の体も脈打っており、まさに和紗の中に射精している最中だとわかる。
僕はただ、その光景をぼんやりと眺めていた。全てが終わったような気分で。

でも、それは間違いだった。


『はぁっ、はぁっ…………』

ようやく石山の拘束から開放された和紗は、汗と精液に塗れたままベッドを降りようとする。
ところが、その和紗の腕を石山が掴んだ。

『待て。誰が終わりっつったよコラ!』

ドスの利いた声がした、その直後。石山は和紗の顔を鷲掴みにし、無理矢理に逸物を咥え込ませる。

『むぐっ!?』

当然、和紗は混乱していた。目を見開き、何が起こったのかと顔中で訴えている。
でもあの石山に頭を鷲掴みにされては、押しのけるなんて夢のまた夢だ。

『ちょうど催しててよ。ザーメンの次は、小便を飲ませてやる』

下腹に和紗の顔を押し付けたまま、石山は言った。
僕は思わず耳を疑う。きっと和紗も。
でも言葉の意味を理解する時間すら、僕らにはない。

『うっ、出るぜ!!』

その一言と同時に、石山の腹部がやや凹むのが見えた。そして直後、和紗の様子が変わる。

『っ!? ごっ、ごぼっ…………げごっ、ごぼっ…………!!!』

その声と共に、苦しそうに悶え始める。さらに三秒後、その桜色の唇からは、黄色い液体が大量に溢れ始めた。
あからさまに不健康そうな、まるでドリンク剤のような黄色。それが和紗の喉に流し込まれている。
動画の中では笑いが起きていた。
「くひひっ。出た出た、石山クンの変態シュミ」
「可愛いコ見つけるたびに、あーいう事すっからなぁ石山クンは。可哀想だねーあのコも」
「ま、わざわざ石山クンに近づくような真似した罰っしょ」
僕の周りでも、何人かが平然とした顔で噂しあっている。
こいつらはなぜ、ここまで異常な物を見て笑ったり、平然とした態度でいられるんだ。

『がはっ……! げほげほっ、ぅがはっえほっ…………!!!』

映像の中では、ようやく開放された和紗が盛大に尿を吐き戻していた。

『おーおーおー、オマエ何吐いてんだよ。ベッドこんなに汚しやがってよ。
 それともまさかそういうシュミか? だったら、そっち方面でやってもいいぜ。
 どっちにしろ今日はハードな撮影にするつもりだったしよ。
 オウお前ら、イチジクと洗面器…………あと“アレ”、出して来いや!!』

和紗の髪を掴みあげながら、石山が怒声を上げる。
僕はいよいよ怪しくなっていく雲行きを前に、裸のまま、ただ呆然と座っているしかなかった。




何分が経っただろう。
一旦映像の途切れたスマートフォンから音が聴こえ、僕は顔を上げた。
画面に映っているのは、口の開いた青い箱と、真ん中を潰されたイチジク型の容器。
たしかイチジク浣腸というものだ。便秘の時なんかに使うそれが6個、床に転がっている。
すでに使用済み……じゃあその中身は、何処へ行ったのか。
最悪な想像が頭を巡る。
映像はしばらくイチジクの空容器を、こちらに見せ付けるようにして撮影していた。
それを背景に、何か水音のようなものがしている。
ちゅぱっ、ちゅぱっ、という音だ。僕は、直感的にフェラチオの音だと理解した。
その答え合わせとばかりに、ここでようやく映像が動く。
カメラが上に振られた先、マンションの廊下らしき所に、和紗の姿が映し出される。

僕は息を呑んだ。
和紗は中腰よりもっと深い、相撲でいう蹲踞のような格好で、仁王立ちした男の物を咥え込んでいる。
上半身は丸裸。
下半身にはショーツが穿かされ、一点だけ突き出した肛門部分では、紫色のバイブが唸りを上げていた。
潰れた6つのイチジク浣腸と、栓の様な肛門バイブ……僕の中で、疑惑の点がつながっていく。
和紗は浣腸を施されたまま、ああしてフェラチオを強要されているんだ。
何人かを口でイカせたら出させてやる、というところだろう。いかにも石山が考えそうな嫌がらせだ。
声を聞く限り、場はそれなりに盛り上がっているようだった。
遊ぶ人間の側は楽しくても、やらされる和紗の方は堪ったものじゃない。
和紗の表情は苦しそうだ。
喉まで咥え込まされる苦しさもあるだろうけど、表情が歪むタイミングは、腹部からの腹鳴りに呼応している。
ぐるる、ぐぉるるる……という、明らかに余裕のなさそうな音だ。
自分に置き換えて考えるなら、あんな音がしている段階はもう、ひたすら内股になってトイレの事しか考えられない。

『うも゛ぉううっ!!』

仁王立ちの男に後頭部を押さえ込まれ、和紗の口から呻きが漏れる。
男はそれを楽しむように、髪を掴んで何度か喉奥までのイラマチオを強要した。
和紗がようやくペニスを吐き出すと、その表面にはべっとりと唾液の膜が纏いついている。
でも和紗は、その汚らしいペニスを迷いもなく握り締める。

『おねがい…………はやく、はやくイって…………!!!』

震える声で哀願しながら、必死に手でペニスを扱き上げはじめた。
表情は今にも泣き出しそうで、余裕のなさが切実に伝わってくる。
でもそうした涙ぐましい努力も、男には興奮のタネにしかならない。

『早くったってよぉ、ついさっきお前のマンコで抜いたばっかだぜ? そうポンポン何発も出るかっつの』

のらりくらりとそんな事を言いながら、和紗の表情を歪ませる。
そして自分本位に和紗に奉仕させた後、ようやくにして射精に至った。
この時点で和紗は、いよいよ腹鳴りもひどく、全身に水を浴びたような汗を掻いている状態だ。
蹲踞の姿勢さえもう怪しく、膝がガクガクと震えてしまっている。
けれども、これで開放という訳でもないらしい。また別の一人が、ニヤケ顔で和紗の鼻先にペニスを押し付ける。
和紗は一瞬弱りきったような眉をしたものの、すぐに唇を開いて咥え込んだ。
そこからまた、じゅぷっ、じゅぽっ、という水音が繰り返されはじめる。

『ん゛っ……んんん゛っ、んむ゛ぅ、ぉむ゛っ…………!!』

鼻から吐く和紗の息遣いは、刻一刻と荒くなっていく。
昔、畑仕事で根を詰め過ぎていた頃だって、ここまで息を切らした彼女は見た事がない。そこまで苦しいんだ。
そのうち脚の震えもいよいよひどくなって、蹲踞の姿勢を保てなくなる。
床にぺたりと尻餅をつき、目の前の男に半ば縋りつくような格好での奉仕になる。
肛門のバイブが床に当たり、ジジジジと耳障りな音を立て始めた。
「すんげぇカッコ。チンポ欲しいっておねだりしてるみてぇ」
「黙ってりゃ、どこのアイドルか女優かって感じなのにな。
 こんなのが浣腸ぶっ込まれてアナル栓されてるとか、改めて考えっとスゲェわ」
「でもって、それ全部撮られてるっつうね」
僕を囲む連中が笑い混じりに言う。僕は目を剥いて睨むけど、誰一人として反応はしなかった。
思わず手足に力が籠もる。何度もそうしているせいで、縛られている部分はもう痛みの感覚さえない。

『おおお、いいぜ。ホントよく仕込まれたもんだよな。…………くうっ…………そろそろ出そうだ』

奉仕されている男が、顎を浮かせながら呻いた。それを聞いて、和紗は必死にスパートをかける。
両手で竿を扱きつつ、窄めた唇でカリ首から上を素早く刺激して。
その甲斐あって、男はついに射精に至った。
さも心地良さそうな声と共に、腰を震えさせる男。その精液をしっかりと口で受け止めてから、和紗は口を離す。

『はっ、はぁっ…………ほら、10人イカせたでしょ。約束よね、早くトイレに行かせて!』

汗まみれの顔をカメラよりやや左側に向け、必死に叫ぶ和紗。
その間にも、腹部の鳴りはひどい事になっている。

『お、もう10人だったか。悪いな、数えてなかったぜ』

石山は意地の悪い声で言い、和紗の表情を引き攣らせる。

『冗談だ、したけりゃさせてやる。オイ、置いてやれ』

その言葉が続き、画面外から一人が洗面器を持って現れた。そいつは和紗の真後ろに洗面器を設置する。
和紗はひどく震えながら腰を上げ、後ろを振り向きながら洗面器を跨ごうとし……
そこで固まった。

『どうした? したいんじゃなかったのかよ』

笑いを隠せない様子の石山の声。何人もの嘲笑。何かがおかしい。

『こ、こんな…………ひどい! ひどすぎるっ!!!』

和紗は、それまで動画内で見せたこともない鋭い瞳で石山の方を睨んだ。
どうしたっていうんだ。あのありふれた洗面器の中に、一体何があるんだ。

『今さらなにカマトトぶってんだ、肉便器が。
 んなにイヤなのか、不甲斐ねぇダンナの写真にクソ引っ掛けンのがよ?』

不甲斐ないダンナの写真。石山は今、確かにそう言った。
そうか。あの洗面器の中にあるのは、和紗の表情を凍りつかせたのは…………僕の影か。
 ――気にするな、楽になれ和紗!
カメラ越しでさえなければ、彼女にそう言ってやれるのに。
彼女を、極限の便意と罪悪感の狭間で苦しませなくて済むのに。

和紗は洗面器に跨ったまま、真っ青な顔で耐えていた。何度も何度も唇を噛み、首を振って何かを紛らわせようとする。
でも、原始的な生理現象にいつまでも抗えるわけがない。

『あっ!? やっ、やめてぇっ!!』

男の一人が和紗のショーツをずり下ろし、肛門のバイブを揺さぶった時。それがトドメとなって、とうとう和紗は限界を迎える。
聞くに堪えないほどの汚辱の音。破裂音。洗面器に液状のものが叩きつけられる音。
それらに混じって、かすかな泣き声が聴こえてくる。それは間違いなく、膝に埋めた和紗の顔から漏れ聴こえている。
ビデオの中でも、僕の周りでも、この恥辱のショーへの喝采が沸き起こった。
その喧騒の中でも、なお和紗の泣き声が聴こえている。

「畜生…………畜生、畜生………………ちくしょう……………………」

気付けば僕は、うわ言のようにそう繰り返していた。
不思議な気分だ。胸に穴が空いたような、あるいはドロドロとしたタール状の何かが溜まっているような、よく判らない気分だ。
「うひひ、ご愁傷様ーショボ助クン。見てよこれ」
一人がそう言って、僕の鼻先にスマートフォンを近づけてくる。
画面の中には傾けられた洗面器がアップで映されていた。直視に耐えない汚物と、それに塗れた僕の笑顔の写真。
ただそれを見ても、僕の感情はおかしかった。
 ――ああ、この頃の僕は笑えてたんだ。
怒りや悲しみよりも先に、そんな他人事のような感情が沸いてくる。
たぶん今の僕の目からは、さっきまでのギラギラした敵意は消えているはずだ。
代わりに、淀んだような瞳になっている。傍目からは、絶望に沈む廃人のようにしか見えない瞳に。
「ハーイ旦那さん、縄解いてあげんよー……っと、あらら、なんか壊れちゃったっぽい?」
「あっこまでされたらな。ま、予定通りって奴じゃね」
「ショボ助さぁ。一応忠告だけど、これ以上奥さんの事に首突っ込まない方がいいよ?
 石山クンって独占欲強いからさ。気に入った女がいると、その周りの男全員ツブしてくんだよね。
 今回のはあくまで忠告。軽いジャブだよ。
 でももしこの後も嗅ぎまわるようなら、俺ら全員で追い込みかける事になっから」
縄が切られながら何か言われたみたいだけど、頭が意味を繋げてくれない。
僕の心に宿るのは、たった1つ。


石山への、はっきりとした敵意。


隠さず言えば、僕はこの後身柄を開放されてからの数時間、自分が何をしたかの記憶がない。
確からしい事はいくつかある。
家には戻っていないこと。
どこかでかなり刃渡りのあるナイフを調達したこと。
何らかの手段で石山の居場所を探り当てたこと。
記憶がはっきりするのは、石山の巨大な後姿を見つけた瞬間からだ。
かなり酒が入っているのか、石山は千鳥足だった。取り巻きの姿もない。
この千載一遇のチャンスを逃す手はなかった。
僕は奴に走り寄り、全力の悪意を込めてナイフを突き出す。
ナイフの刃は思った以上にするどく、分厚い脂肪を簡単に貫き通した。
「ぐぉおおおおっ!!?」
石山は悲鳴を上げる。刺した直後の事で、思った以上に反応は早い。
石山が振り向く動作で、僕は後ろに吹き飛ばされた。
「てっ、テメェ………………!!!」
敵意を剥き出しにして凄む石山。荒くれとしての意地か、すぐに顔を殴り返してきたけど、覚悟していたほど痛くない。
背中を刺された痛みは想像以上らしい。
僕は煮えたぎる怒りのままに、石山の脚を刈って地面に引き倒した。そして、すかさず顔面を殴りつける。

「いい゛ぉあっ!!!」
一瞬にして石山の顔が歪んだ。でも、その程度で収まる怒りじゃない。
和紗を何ヶ月にも渡って虐げてきた人間だと思うと、自然に痛いほどの拳骨ができてしまう。
その拳を振り上げ、何度も何度も顔面に振り下ろす。石山の奥歯が欠けてアスファルトを転がっても、まだ。
「なんで和紗を襲った!答えろッ!!」
拳が血まみれになった頃、僕は石山の襟首を掴み上げて問う。
顔を真っ赤に染めた石山は、こっちを睨みつつも、僕の豹変振りに困惑しきっている様子だ。
「グブッ、クソッ…………俺じゃねぇよ。あ、あの女から誘ってきたんだ。
 つまんねー旦那に愛想が尽きたから、変わったやり方で抱いて欲しいっつってよ!」
石山のその答えに、また僕の中のマグマが噴き上がる。
「ウソをつくなッ!!」
思わずそう叫び、石山の頭を殴りつける。ガグッ、という鈍い音がアスファルトに響いた。
「何、なん、だよチクショウ…………ウソじゃ、ねえっつ…………の…………」
石山はそう言い残し、グルリと白目を剥いたまま気を失った。
僕はその胸倉を掴みながら、ただ肩で息をする。
ウソじゃない? それこそウソだろう。
和紗が本当にそんな事を言ったなら、家を出る朝に決まって見せた、あの寂しそうな表情は何だっていうんだ。
こいつの言う事は何もかも嘘っぱちだ。僕の狂気に恐れをなして、自分の保身の為に適当な事を言っただけだろう。
どこまで、どこまで卑怯な奴なんだ!!
僕は完全に伸びた石山を前に、やり場のない怒りを燻らせる。
そんな僕を正気に戻したのは、通行人の甲高い悲鳴だ。
そしてその少し後、いくつもの足跡が近づき、強烈なライトが僕を照らす。
「動くな!!」
思わず身の竦むような怒号。
眩いライトの向こうに見えるのは、青い服に身を包んだ警察の人達だった。






裁判の結果、僕には実刑が下った。
初犯で情状酌量の余地もあるとはいえ、傷害の程度が重く、懲役1年8ヶ月。立派な前科者だ。
有罪判決が出て数日後、会社からは解雇通知が届いた。
ショックではあったけど、反論の余地はない。
只でさえここ数ヶ月ほど言動がおかしかった上、とうとう人を刺したんだ。そんな人間を雇っておくメリットなんてないだろう。
ただ1つの朗報は、石山にも罰が下った事だ。
奴は入院先の警察病院で、『今後一切和紗と接触しない』という誓約書を書かされたらしい。
さらには未成年淫行や本人の了承を得ない映像の流出なんかも明らかになって、別途余罪を追及される予定だそうだ。
僕の人生も破綻したわけだけど、とりあえずは痛み分けというところだろう。
そして僕は、2人の人間に頭を下げなくちゃいけない。
最愛の嫁と、自慢の親友。この世で最も大切にしたかった2人に。

「………………この、バカヤローが」
面会室の椅子に座った瞬間、英児は僕に言った。目が完全に怒っている。
彼と付き合いだしてから8年強、ここまで睨まれたのは初めてだ。
でも、当然だった。彼が任せろと言ってくれた以上、そうすべきだったんだ。
結局僕がやったのは、玉砕覚悟の特攻のようなもの。
石山に釘を刺すぐらいの効果はあっただろうけど、よくよく考えれば、その取り巻き達に報復の口実を与えたって事でもある。
僕自身は勿論、和紗の身にも危険が及ぶ可能性が依然として残ってしまっている。
たとえ時間をかけてでも、外堀から丁寧に埋めていくべき問題だったんだ。
「ごめん」
僕は、ただ精一杯に頭を下げる。でも英児は、腕組みをしたまま動かない。
さすがに愛想を尽かされたみたいだ。まったく僕はバカヤローだ。
「顔、上げろよ」
ふと掛けられたその言葉で、僕は英児の顔に視線を戻す。
そこには…………依然としてこっちを睨みつつも、少し口元を歪ませた笑みがあった。
「いくらバカでもよ。お前は、俺の親友だ。和紗ちゃんの事ぁ、今度こそ俺に任せとけ。
 お前がいない間、俺が責任もって面倒みてやる。厄介払いも兼ねてな。
 今日は、それ伝えに来たんだ」
耳を疑う。
許してくれるっていうのか。おまけに、和紗の面倒まで?
申し訳ない気持ちで一杯になる。でも今は、その厚意があまりにもありがたい。彼以上に頼れる相手が思いつかない。
「あ、ありがとう…………ありがとう!」
僕は無二の親友に向けて、また深々と頭を下げた。謝罪じゃなく、純粋な感謝の気持ちを込めて。
「いいからお前は、とっととコッチ戻って来い。ビールでも奢れって約束はチャラじゃねーぞ?」
そう言いつつ、ハリウッドスターのような爽やかな笑みを見せる英児。
本当に、彼と親友で良かった。彼こそは僕の恩人だ。

次は、和紗。
事件の当事者だけに取り調べなんかもあったみたいで、英児から遅れること数日の面会になった。
面会室に現れた時の表情も、明らかに元気がない。
「壮介は、私と石山とのこと…………もう全部、知ってるんだよね」
全部。
彼女が石山に調教されていたこと。SMめいたプレイを強要されていたこと。そしてそれを撮影され、ネットに流されていたこと、か。
「うん」
僕は頷く。和紗は視線をやや下げた。
「まさか、ネットにまで流されてたなんて。あんな奴の言うこと真に受けてた自分が、恨めしいよ」
「…………和紗」
僕は思わず妻の名を呼んだ。彼女の声色は、今にも自殺してしまいそうだったから。
無理もなかった。英児によれば、『ダイセキザン@番長』の動画はもう全て削除されているらしいけど、流出したという過去は消えない。
モザイクが掛かっていたとはいえ、自分の裸や痴態を何千という人間の慰み者にされたんだ。
「動画がネットに投稿されてたって知ったときは、正直、死のうかとも考えちゃった」
沈痛な和紗の言葉に、顔が強張る。
なんて声をかければいいんだろう。今この状況で、彼女に生きる気力を湧かせるには?
必死に考えを巡らせるけど、焦れば焦るほど、頭が真っ白になってしまう。
でも。それは杞憂だった。和紗はひとつ深呼吸をして、顔を上げる。
「――壮介がいなかったら、ね」
顔に浮かんでいたのは、聖母のような柔和な笑み。つらい状況だろうに、彼女はその笑みを僕にくれた。
「英児くんから聞いたの。壮介が、私の為に体を張って頑張ってくれてたんだって。
 そこまでしてもらったのに、肝心の私が死んじゃったら…………ヘンだよね」
「あ、いやっそれは…………と、当然っていうか。ホラ、これでも僕、君の夫だから!」
こういう時の咄嗟の反応が、僕は本当に下手だ。つい、しどろもどろになってしまう。
和紗はそんな僕を見て、くすりと笑った。
よく見れば、今日の彼女はすごく血色がいい。頬なんてまるでリンゴのように赤くて、少し前までの彼女とは別人だ。
「私、壮介の帰りを待ってるよ。つらいことがあっても、寂しくっても、ずっと待ってる。
 だから…………少しでも早く、戻ってきてね。」
和紗の笑顔を、これほど眩しいと感じたのはいつ以来だろう。
ああ、そうだ。初めて茶屋で彼女と出会った時…………あの時と同じなんだ。
彼女が僕の希望であることは、あの日から変わらない。彼女の為だったら、冷たい塀の中でも耐えられる。
模範囚として勤め上げて、なるべく早く彼女の元に戻ろう。そして、前みたいに2人で笑うんだ。
人生山あり谷あり。
苦難を乗り越えた僕らにはきっと、幸せな未来が待っているはずなんだから。



                              続く



22:26:46
 ――俺に任せて大人しくしとけ。

僕の頼れる親友はそう言った。
多分、それが利口なんだろう。僕なんかより遥かに頭が回り、経験豊かで、顔も広い英児。
僕が思わず頭を抱えるような窮地も、彼は涼しい顔で打破してしまう。
俺に任せろ、と彼が請け負ってくれた事で、上手くいかなかった事なんて一度もない。
たぶん、思考の次元が違うんだ。
問題への対処法だけじゃなく、そもそもなぜ起きたのか、今後の予防策は。常にそこまで考えて動いている。
その彼が全力でサポートしてくれている以上、僕に出来ることはない。あったとしても、足を引っ張る事にしかならない。
英児と8年の付き合いになる僕は、それをよくよく理解している。
でも。頭では解っていても、心が納得しない。
休日は勿論、仕事中でさえ、周りの目を盗んで英児に教わったアダルトサイトを確認してしまう。
そして、木曜日。
僕はとうとう、『ダイセキザン@番長』が新しい動画を投稿する瞬間に出くわした。
11時過ぎに投稿されたばかりの動画。

『Fカップ美人妻 人間燭台』

タイトルはそれで、サムネイルはいわゆる“まんぐり返し”の格好を取る女性の姿だ。
性器と目の辺りには粗いモザイクが掛かっている。
でも、シミひとつないピンク肌や見事なスタイルから、和紗である事はハッキリしている。
「またか…………!」
僕は頭を抱えた。胸が締め付けられるように苦しい。
数分おきにページを更新するたび、動画の閲覧数やコメント数はみるみる増えていっていた。
そんなに過激な内容なのか。でも確かに、この“まんぐり返し”の格好や、“人間燭台”という言葉の響きは普通じゃない。
一刻も早く確認したい……僕の頭にはもう、それしかなかった。
とても仕事ができる状態じゃないから、課長に頭を下げて早上がりさせてもらう。
最近の僕は、周りから心配されるぐらいにやつれているみたいで、課長も特に引きとめてはこなかった。



飛び込んだ駅前のネットカフェで、例のページにアクセスする。
検索にかかる僅かな時間すらもどかしい。貧乏揺すりが止まらない。
ページが開きざま、あの動画を検索……するまでもなかった。
『Fカップ美人妻 人間燭台』は、早くもデイリーランキングの一番上に来ていたから。
コメントの数は80を超えている。
平日の昼だっていうのに、何なんだこの連中は。こんな、仕事もろくにしていないような連中相手に、僕の妻が見世物にされているっていうのか!
僕は頭を掻き毟りながら、そんな怨嗟の言葉を思い浮かべた。
胸中の言葉とはいえ、僕も口が悪くなったものだ。この半年あまりで、すっかり心が荒んでしまったらしい。
それもこれも全部、この動画のせいだ。
僕は怒りに震える指で、動画の再生ボタンをクリックする。

動画は、サムネイルとほぼ同じ状態で始まった。
白い壁に背中をつけたまま、まんぐり返しの格好を取らされた和紗が映りこむ。
とはいえ画面は薄暗く、窓からの明かりに照らされて、かろうじてお尻や乳房の一部が白く浮かび上がっている状態だ。
よく目を凝らせば、和紗の下にビニールシートのような物が敷かれている事もかろうじて見て取れる。
と、画面の奥側から、かすかな笑い声がした。低い声に混じり、やや高い声も聴こえる。
まさかギャラリーには女がいるんだろうか。考えたくないことだ。こんな女性を辱めるような行為に、同性が加担してるなんて。
でも、その嫌な予感は的中してしまった。
画面手前側から、透明なボトルを持った女が姿を現す。
そう、女。かなりチャラついた雰囲気ではあるけど、都会の街中じゃよく見かけるタイプだ。
彼女は和紗から一歩離れた場所で立ち止まり、視線を下げる。
モザイクのせいではっきりとは解らないけど、和紗の姿を観察してるんだろう。
一方の和紗も目元は判らないものの、唇を引き結ぶ瞬間が映っていた。
あられもない姿を間近で観察されてるんだから当然だ。特にそれが同性となれば、恥ずかしさもまた違うだろう。
『んふっ』
女は明らかに一度鼻で笑い、和紗の頭の近くにしゃがみこむ。
座り方は完全にヤンキーのそれで、立っている時よりも下品さが露骨になった気がする。
女の細い指が透明なボトルの蓋を摘み、『ぎゅぽっ』という粘っこい空気音と共にねじり開いた。
蓋の裏から伸びる半透明な糸からして、どうやらローションのボトルらしい。
女はそのボトルの中に指を突っ込み、たっぷりと粘液を掬い取る。そしてそれを、おもむろに和紗の秘部に近づけた。
モザイク越しにも解る無遠慮さでピンク色の部分を掻き分け、中にまで指を入れる。
『!!』
息の詰まるような声と共に、和紗の足がビクンと震えた。
お尻が上にせり上がるような大きな動き。でも膝裏の位置は変わらない。画面から見切れた足首を、何らかの方法で固定されているんだろうか。
『へーぇ。アイツに散々ヤられてる癖に、まだこんなキツいんだ?』
女の嘲るような声がする。
アイツって、石山の事か。並みより太さのある石山のペニスを咥え込んでいるんだから、普通はもっと緩くなってるはずだ、って意味なのか。
そう理解した瞬間、吐き気がこみ上げる。イジメを受けていた時代の、胸が詰まる感じにそっくりだ。
いや……どうもそれよりタチが悪い。あの時は涙が出たけど、今はそれすらない。
激しい痛みじゃなく、心臓に凧糸を結び付けられて、静かに引き絞られているような苦しさだ。本当に苦しいのに、これじゃ泣けない。
代わりに呼吸が苦しくなる。犬のように激しく喘いでいるのが自分でもわかる。
ドン、と壁から音がした。隣の個室の人間が、うるさいと抗議してきてるらしい。
少し前の僕ならこれで萎縮しきって、必死に音を立てないようにしたはずだ。でも今は、そんな余裕なんてない。
胸の苦しさに耐えて、映像に意識を戻す。

画面の中では、女の指が和紗のお尻の穴に入り込んでいるところだった。
最初、蕾を浅く弄繰り回していた人差し指は、そのうち中指を添えてかなり深くまで潜り込みはじめる。
そして挙句には、もう一方の手も合わせた4本指で肛門そのものを押し拡げてしまう。
『いやっ!!』
和紗は悲鳴を上げた。でも不自由な姿勢の彼女に、肛門の開きを止める手段はない。
肛門にはモザイクはなく、くっぱりと拡げられた内部が丸見えになってしまっていた。
赤くヒクつく腸。あれが、あの可愛い和紗の消化器官なのか。
『おー、拡がる拡がる。でも勿体無いよねー。アンタみたいな美人が、こんなマニアな趣味持ちなんてさ。
 聞いたよ。今じゃ、ケツだけでアクメ極められんだって?』
心無い言葉で詰りつつ、女の指が和紗の肛門をひらいては閉じる。
和紗は黙っていた。かけられる言葉に否定も肯定もせず、口を噤んでいた。
なぜだ。まさか本当に和紗自身が、こんな歪んだ性癖の持ち主なのか?
ありえない。ありえるもんか。僕とのセックスじゃ、あそこを見られる事さえ恥ずかしがるほどの奥手だったじゃないか。
ラブホテルでローターを使ってみようと提案した時だって、2、3回は拒否された覚えがある。
和紗は快活なイメージとは裏腹に、改まった場ではすごく繊細な女性なんだ。そのはずなんだ。

『よーしよし、充分ほぐれたよね。じゃ、イクよ?』
女はそう言って、上の方に手を伸ばす。するとその手に画面外から火のついた蝋燭が渡された。
それを持ち直し、和紗の秘裂に近づけていく女。
まさか。僕はいやな予感を抱きつつ、ふと動画のタイトルを思い出す。

 ――人間燭台。

女の左手が秘裂を押しひらき、右手が垂直に持った蝋燭を宛がう。
そしてそのままずぶずぶと、ピンク色のモザイクの中へと沈めていく。
「そんな……!!」
僕は思わず呻いた。隣からまた壁を叩く音がしたけど、気にしていられない。
火のついた蝋燭を、性器に立てるだなんて。たとえSM用の低温蝋燭だったとしても危険じゃないか。
その道何十年の熟練者ならともかく、素人がやっていいプレイじゃない筈だ。
そんな僕の思いをよそに、蝋燭は着実に長さを減らしていく。
少しずつ少しずつ。その間にも蝋は溶け、和紗の乳房の合間に白く飛び散った。
『熱いっ!!』
可哀想に、和紗は悲鳴を上げた。ひどく真に迫った声。
台所で天ぷらを作ってくれていた時、油が手にはねた際の悲鳴と響きが同じだ。
僕は思わず歯軋りし、拳を握りこんだ。
和紗を……僕の最愛の人を嬲り者にしやがって!
「オイ、さっきからうるせぇぞ!!」
後ろから声がする。たぶん壁を叩いてきていた隣の利用者だろう。
僕は、さすがに申し訳なくなって後ろを振り向いた。
ドアの上の隙間に、中年男の顔が見える。でも僕が後ろを向ききった瞬間、怒りに満ちたその顔が一変した。
「うっ!」
ヤバイ物を見た顔、っていうんだろうか。男は目を見開いたまま、大急ぎでドアから離れていく。
もっとも、最近じゃよくあることだ。普通の表情をしようとすればするほど、他人を怖がらせてしまう。
一時期は警察の事情聴取をかなり受けたけど、最近はそれすらない。


映像に目を戻すと、肛門にも蝋燭が立てられるところだった。
やっぱりモザイクはない。桜色をした肛門を無理矢理に開いて、白い蝋燭が押し込まれていく。
『ぅ……ぁあ…………ぅああ、あうあ…………っ!!』
和紗は太腿と膝裏に深い筋を刻みながら、何か呻いているらしかった。
言葉にならない言葉。相当に苦しいんだろう。
でも女の手つきに情はない。明らかに楽しみながら、蝋燭を半ばまで埋め込んでしまう。
『さーて。人間燭台の出来上がりっ、と』
女はそう言って笑い、膝に手を置いた。また観察を始めたんだ。
和紗の2穴に挿された蝋燭が、薄暗い部屋を黄色く照らす。
床のシートに映った影から、女の他にも何人かいる事が見て取れた。肩幅からして男だろう。
それだけでも充分に衝撃的だったけど、もっとショックなのは、窓の外の光景だった。
雪が降っている。それも、かなりの酷さで。
記録的な暖冬といわれている今年は、12月に入ってからも雪がほとんど降らない。
最近でかなり降ったのは、今週の水曜日…………昨日だけだ。
つまりこの映像が撮られたのは、昨日、という事になる。
てっきり週末だけの事だと思っていたけど、甘かった。和紗はこの数ヶ月、僕が会社に行っている間にも嬲られていたんだ。
『ひっ、あぁっ、熱いっ! 熱いーーっ!!』
蝋が溶け落ちるたび、和紗は身体を揺らして叫ぶ。その動きがまた蝋を垂らす結果になり、叫びを呼ぶ。
『ふーん、そう。だったら、おしっこで火ィ消しちゃいなよ。得意なんでしょ、潮吹き』
女が嘲り、男の笑い声が続く。場の全員が和紗を笑い者にしている。
これが、昨日なんだ。
昨日といえば朝から寒くて、起き抜けに身体がガタガタ震えるほどだった。
和紗はそんな僕を心配して、ハチミツのたっぷり入った生姜湯を作ってくれたっけ。
『ほら、これ飲んで。あったまるよ』
カップを差し出す柔らかい笑顔は、甘味処で初めて会った彼女を思わせる。
人の世話を焼いている時の彼女は、本当にいい顔をするんだ。
いいお母さん――そうなるはずだった女性。映像の中で笑い者にされている僕の妻は、そんな人なんだ。
悔しい。
どうして。何の資格があって、こいつらは和紗を笑うんだ。和紗を弄ぶんだ。

映像は、『人間燭台』となった和紗を淡々と映し続ける。
和紗は身体中に蝋を浴びながら、熱い、熱い、と叫んでいた。そしてその悲鳴に呼応して、何人もの笑い声が起きた。
そして5分ぐらい後、女が和紗の身体に触れ始める。
震え上がる和紗のお尻から太腿にかけてを撫で回したり。乳首をひねったり。
挙句には膣よりももっと前、多分クリトリスを弄びはじめる。
『くぁっ!!』
クリトリスといえば、女性の体で一番敏感な部位だ。当然和紗の反応も大きい。
『ほぅーら、どう? 恥ずかしい格好でクリちゃんイジられて、感じるんでしょ変態女』
女は詰りながら指を蠢かせる。そのたび激しく和紗の身体が揺らめき、次々に蝋が滴っていく。
クリトリスの辺りにも当然モザイクが掛かっているから、行為自体ははっきり見えない。
でもその部分を凝視していると、何か違和感があった。
本来クリトリスの辺りには、モザイク越しでも多少は陰毛の黒さが見えるはずだ。
でも今は、それが全くない。肌色と白、そしてピンクが見えるだけだ。
『ってか、ほんとに毛ェ剃ったツルマンなんだね。イジりやすーい』
女のこの一言で、僕の疑惑は核心に変わった。
やっぱり和紗は、毛を剃られていたんだ。恥ずかしい部分を隠す筈の毛を……。

女は、和紗の二穴に刺さった蝋燭をゆるく抜き差ししつつ、乳首をクリトリスを弄び続けた。
そして蝋燭が半分近く溶けたあたりで、ようやく引き抜く。
モザイク越しにでも、和紗の膣と肛門がぽっかりと口を開けているのがわかった。当然、場の人間には丸見えだろう。
『あははっ、すーごい開いちゃってる。ヒクヒクしてるね、熱かったの?』
女は笑いつつ、画面外から何かを受け取る。どうやら、ガラスボウルに入った大量の氷らしい。
女の指がその中から一つを摘み上げ、和紗の秘裂に宛がった。
『ひゃっ!?』
冷たさからか、悲鳴を上げる和紗。
女はその悲鳴を楽しみつつ、次々に氷を手にとっては膣の中に送り込む。
『ウルサイなぁ。さっき熱い熱いって騒いでたから、冷やしてあげてんじゃん。ほぉーら、ケツにも入れたげるよ』
一つまた一つと、四角い氷が和紗の前後の穴に入り込んでいく。
相当な量だ。和紗の下唇を噛む様子から、冷たさや苦しさが伝わってくる。
そのうち、女の指が止まった。理由はひと目でわかる。
和紗のあそこはもう開きに開いて、これ以上は無理というぐらい氷がひしめき合っている状態なんだから。
『うぅ……くっ、苦しい…………!!』
和紗の唇が開いて、苦悶の声が漏れる。でも同情する人間はいない。
まんぐり返しの格好で、もじもじと腰や脚を蠢かせる和紗。
やがてその下腹や太腿を、透明な流れが伝い落ち始める。二穴の氷が溶けたものだろう。
それは和紗が身体中に掻いた汗を押し流しつつ、乳房の脇や膝裏から床のシートに広がっていく。
『あははっ。お漏らししてるみたい!』
女はどこまでも気楽な声で笑っていた。
同性を辱めるのが、そんなに面白いんだろうか。自分がされたら、なんて微塵も考えないんだろうか。
いや、考えないんだろうな。この女もたぶん石山の一派だ。あんな奴とつるむ連中に、人の情なんてあるわけがない。

氷がすっかり溶けたころ、女はバイブを手に取った。
そしてそれを和紗の二穴に一本ずつ挿し込み、唸りを上げて稼動させはじめる。
『ううぅ……あ…………ぁあうああっ…………!!』
和紗は呻く。苦しみからか、痛みからかは判らない。まさか気持ちいいなんて事はないだろうけど。
2本のバイブの尻が円を描くようにして、和紗の中を責め立てる。氷が溶けたばかりなせいか、チュクチュクという水音もする。
その様子がまたしばらく晒し者にされた。そしてその後、女の手がバイブを抜き差しし、同時にクリトリスを責め始める。
『ぅっ、っっくふぅううっ…………!!』
『あはっ、いい声。アンタ変態だから、こんなのでも感じちゃうんだ。
 ほーら今、クリでイキそうになったでしょ? わかるんだよー、同じ女なんだから』
和紗の堪らなそうな声と、女の粘つくような囁きが重なる。
僕はレズに全然知識がないけど、そんな僕でも、女の手つきがものすごく巧みなのは理解できた。
あんな事をされたら、感じない訳がない。そう思わせるような説得力が、ピアノを弾くような指遣いに込められている。
そして、何分か後。
『ぅっ!あぁ!』
小さな叫びと共に、和紗の秘裂から飛沫が吹き出た。潮吹きだ。
女を始めとする人間がそれを笑い、和紗は表情を強張らせる。でも、責め自体は全く緩まらない。
『ああ、出た出た。じゃ、このままあと10回はイカせたげる。
 ……ふふ、凄い顔。私みたいなガキにイカされまくるのが悔しいんだ? なら我慢してもいいよ。出来れば、だけど』
女はそう言って微笑を浮かべた。悪意の塊みたいな笑みだ。


それからしばらくして、動画は終わる。
改めて詳細ページを見ると、再生数は6000、コメント数は300を超えていた。
それほどの人間が視聴し、歪んだ欲望を満たしたということだ。
そして、それは今後も続く。
和紗はこれからも僕の知らない間に呼び出され、弄ばれ続ける。ネットを介した不特定多数の前で。

 ――限界だ。もうこれ以上は見過ごせない。
こんな辱めを受けて、和紗が平気な訳がない。近いうちに限界が来て、自殺を図ったっておかしくない。
そしてそれは、今日かも、明日かもしれないんだ。
事は一刻を争う。英児は慎重に調査を進めてくれているようだけど、とても待っていられない。
次だ。次に和紗が家を空けた時、その行き先を探って、僕自身の手で彼女を守る。
それしかない。

僕は心の中で親友に詫びながら、静かに拳を握りこんだ。


                           続く



02:27:42
※ ビデオ撮影内でのアナル調教シーンあり。


「大丈夫、大丈夫。」
いつの間にか、それが和紗の口癖になっていた。
元々は僕の口癖だった言葉だ。
転んで腕を擦り剥こうと、過労のあまり家に帰るなり鼻血を出して蹲ろうと、
妻を心配させたくない一心で、僕はその言葉を繰り返した。
でも和紗がそれで納得してくれる事はなくて、大丈夫じゃないでしょ、と世話を焼いてくれる。そこまでがワンセットだった。
もう、随分と懐かしい記憶だけど。
「ほんと、大丈夫だから」
今日もまた、和紗はそう口にした。
「そっか」
僕はなるべく自然に笑い、和紗の言葉で安心した風を装う。
自分でも解ってる。これは優しさじゃない。弱さだ。
本当はいつかの和紗のように、大丈夫じゃないだろ、と踏み込むべきなのかもしれない。
ただ、あえて自分を正当化するなら、僕は和紗を信じてるんだ。
もし本当に駄目な状況なら、和紗はきっと僕に相談してくれるはずだ。
それを待たず、彼女の考えを無視してまで介入するべきじゃない。
色々悩み抜いた末、僕はそう心に決めていた。
でも。
いくら心の中で筋道をつけても、実際に和紗を見守るうち、その信念は揺らいでいく。
だって和紗は、明らかにやつれていってるんだから。

「ねぇ、和紗。夜はちゃんと眠れてる? ご飯もしっかり食べなきゃダメだよ」
僕は朝食を摂りながら、正面の和紗に話しかけた。
和紗は、寝ぼけたような、あるいは濁ったような瞳をゆっくりとこっちに向ける。
「……え……? ああ、うん。平気平気……大丈夫だから」
まただ。申し訳なさそうな笑みと共に、和紗はその言葉を口にする。
なんだよ、その顔は。自分で気付いてないのか。
アナウンサーかスチュワーデスを思わせる笑顔。それは普段僕には向けないはずの、余所行きの笑顔じゃないか。
余所行きといえば、服もそうだ。
最近の和紗の服は、カジュアルを通り越して、完全に遊び歩いている女性のそれだ。
露出は多くて、変に性的で、香水までつけて。
どう考えても、喪に服している母親のする格好じゃない。
まさか……浮気?
当然、その考えが脳裏を過ぎる。でも、どうしても信じられない。
ありえない。彼女に限って。
上京して以来、僕に一途で居続けてくれた和紗。
美人でしっかり者だから、かなりの男から言い寄られていたみたいだけど、その皆が玉砕していた。
『あの子ノリはいいけど、意外に潔癖なんだよな』
大学の友達も、和紗の事をそう言ってたっけ。
だけど最近の和紗の色づきようは、男の影があるとしか思えない。
彼女自身にその気がなかったとしても、死産のショックで弱った心の隙を突かれて……という事もありえる。
そう思うと、いよいよ不安になってきた。
仕事も手につかず、つい和紗の事ばかり考えてしまう。
『洗脳』 『詐欺』 ………… 資料を作るフリをして、そういうワードを検索し、余計に不安を募らせていく。
これじゃダメだ。何とかして、この不安の種を解消しないと。


その日僕は、体調不良を理由に定時で帰宅した。ある行動に出るために。
「そういえば今日、職場の先輩にこんなの貰ったんだ。久しぶりに2人でどう?」
帰り際に買ってきた酒を、貰い物のように装って和紗に勧める。
「…………ん。じゃあ、貰おうかな」
ちょうど食器を洗い終えた和紗は、エプロンを外して僕の隣に腰掛けた。
流産から5ヵ月あまり。和紗のスタイルはすっかり昔の通りで、ドキッとするほど胸やお尻は大きく、腰は細い。
この体型にそそられて、粉をかける男も多いんだろうな。思わず、そんな事を思ってしまうほどに。

そこから僕は、久々に長く話した。
仕事上であった馬鹿話、ニュースでやっていた話。それを冗談交じりに語っては、笑いを取る。
「ぶふっ! もー、壮介ったら面白すぎ。職場でも可愛がられるでしょ?」
目尻に涙を溜めながら言う和紗。
その言葉を聞いて、胸の奥がチクリと痛む。
以前の和紗に言われたなら、その褒め言葉も素直に受け取れただろう。
でも今は、彼女の言葉すべてに裏があるように思えてしまう。
僕の会社での評価に言及するのは、自分が外で誰かと関係を持っている事を隠すためなんじゃないか?
浮気をしている人間に限って、パートナーの浮気を疑うという、アレなんじゃないのか?
疑心暗鬼になってそう考えてしまう。そして、そんな自分が堪らなく嫌だ。
「……どうかした?」
と、視界の中の和紗が、不思議そうに首を傾げた。
酒のおかげで程よく上気して、最近じゃ珍しく素直に可愛いと思える顔だ。
その姿を前にして、僕の中の何かが弾けた。
「きゃっ!!」
和紗の小さな悲鳴。思わず和紗を抱き寄せてしまったみたいだ。
でも、もう離さない。
柔らかい和紗の細身を抱きしめて、一杯の愛情を込めてキスを浴びせる。
つむじに、耳に、頬に、うなじに。
「ん、ふんんっ…………」
和紗は特に抵抗する事もなく、されるがままになっていた。
でも僕の手が乳房を揉みしだき、とうとう下半身に伸びようとしたところで、その手首を掴まれる。
「待って! い、今は、そんな事……しちゃ…………」
震えるような声。和紗のその声を聴いた瞬間、僕もたまらなくなる。
「ど、どうしてだよ!? 僕は夫…………僕らは、夫婦じゃないかっ!」
なるべく感情を押し殺したつもりだった。でも僕の口から発される言葉は、多分、和紗以上に震えてる。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも今は………………そんな気分に、なれない」
和紗は僕を見上げて言った。涙をボロボロと零しながら。
何だ、この状況は。彼女をいつも笑顔にしようと誓った僕が、どうしてその最愛の人を泣かせているんだ。
何一つ悪意なんてないのに。ないはずなのに。

 ――ごめんなさい。

    ――ごめんなさい。

一体何度の謝罪が、固まった僕の腕の中で繰り返された事だろう。
でも僕にはそれが、夢うつつで聴く声のように遠く感じられた。

明らかに普通じゃない。
和紗のおじいさん――僕にとっては実質的なお義父さん――に電話しようかとも考えた。
でも考えてみれば、僕はおじいさんに直通の電話番号を知らない。
親戚の家に身を寄せているあの人に連絡を取るには、間に和紗を通す必要がある。
それに、『和紗を頼む』と言われて送り出された手前、どうにも連絡しづらい。
となると、候補としてはもう一つ。
和紗が供養のために通っているはずの寺……そこに電話をしてみる手がある。
田舎の寺とはいえ、繁忙期には結構な人が来ていた場所だ。連絡先ぐらい、ネットを探せばあってもおかしくない。
「ちょっと、外に出てくるよ」
和紗にそう言い残して外出し、駅前のネットカフェで検索をかける。
すると、そう苦労もせず見つかった。『崇玄寺』という寺らしい。
いざ電話をかけようとした時、番号を押す手がひどく震えた。怖いんだ。もしこれで、寺の住職が知らないとなれば……。

「…………ああ、鵜久森さんところのお嬢さんか。懐かしいのぉ」
住職のその言葉を聞いた瞬間、僕は背筋が凍りつくように感じた。
「懐か、しい……?」
「ああ。もう何年も前に、東京さ出てってそれきりだ。
 ああ、いや。一度だけ、安産祈願のためっちゅうて、でっけぇハラ抱えて来た気もするの」
「それからは、見てないんですね?」
「そうじゃなぁ。またあの、元気一杯な姿を見てぇもんだ」
のんびりした住職の口調とは裏腹に、僕の動悸は激しくなっていく。
和紗が本当に水子供養に行っていたなら、こんな会話はありえない。
和紗はウソをついていたんだ。確かに僕は、向こうの土地と縁が浅い。だから隠し通せると思ったのか。
…………いや、今考えるべきはそっちじゃない。
大元はなんだ。なぜウソをつく必要があった。田舎に帰るといって、本当はどこに行っていた?
考えるうちに、頭が痛くなってくる。
和紗は、僕の知らないどこかで男と会っているのか。そう思うと、本当におかしくなりそうだ。
家に帰ってからも、まともに和紗の顔が見られない。
同じ空間にいて、同じテレビを観て、同じ料理を食べているのに、お互いがお互いの視線を避けようとしている。
限界だ。誰かに相談したい。頼りになって、信頼できる誰かに。
そう思った時、僕の脳裏には一人の姿が思い浮かんだ。





「よっ、久し振り。何かスゲー大変だったみてぇだけど、余裕できたのか?」
英児はドアを開けるなり、そう言って白い歯を覗かせた。
心なしか遠慮がちな笑顔だ。
僕らの子供の誕生を心待ちにしてくれていた彼には、流産した事実だけは伝えてある。
だから気を遣ってくれているんだろう。
「ごめん、急におしかけて」
「何言ってんだ、水臭ぇな。むしろ、こっちから招待しようと思ってたぐらいだぜ。遠慮なく上がれよ」
英児はそう言って、僕を部屋に招き入れた。
中はとにかく広い。リビングの一角はガラス張りになっていて、見渡す限りの山やビル群が一望できる。
僕が住んでいる所より、遥かにグレードの高そうなマンションだ。
さすが一流企業のサラリーマンは住む世界が違う。
「ま、実は結構無理してんだけどな。ダチ家に呼ぶなら、それなりに見得張らねーとさ」
僕が住まいを褒めると、英児は照れくさそうに笑った。
確かに英児は昔から、僕以外の人間には自分を完璧に見せようとする所がある。
実際には血の滲むような努力をしてるのに、外では涼しげに振舞ったり。
でもそのお陰で絶大なカリスマを得てるんだから、本当に大したものだと思う。

広いマンション内には、寝室が二つあった。
一方は、まだ引越しの時の荷物が散乱してるらしくて立ち入り禁止。
そしてもう片方には、可愛らしいベビーベッドが置いてある。
中を覗き込むと、やっぱり可愛らしい赤ん坊がいた。
幼いながらに、クッキリとした二重や、高い鼻が特徴的な外人顔だ。将来はさぞかし美形に育つ事だろう。
「俺に似てハンサムだろ?」
英児が同じくベビーベッドを覗き込みながら、茶目っ気たっぷりに言った。
ハリウッドスターのようなその笑顔を前にしては、否定のしようもない。
「うん、全くだ。でもこの子、いつ生まれたのさ。言ってくれればよかったのに」
僕は拗ねたフリをしながら言う。英児といると、少し気分が軽くなるようだ。
でも英児の次の一言で、僕は現実に引き戻された。
「ん、何言ってんだ? ちゃんとハガキ送ったろ、超気合入ったやつ」
「えっ!?」
僕は慌てた。そんなハガキを貰った記憶はない。
でも考えてみれば、流産の件以来、僕の頭には和紗の事しかなかった。だから多分、視界に入っても気付かなかったんだろう。
もしかすると、他の広告やチラシと一緒に捨ててしまったのかもしれない。
「ご、ごめん! 最近バタバタしてて、よく見てなかったよ」
「ハハッ、そういう事か。まあしゃあねぇって。こっちも新生活始めたばっかだからよ、ちっと面倒臭がるとすぐこの有様だ」
英児はそう言いながら、ベビーベッド脇に散乱した布のひとつを拾い上げる。
赤ちゃんがお漏らしでもしたんだろうか、その布はひどく濡れていた。
「嗅いでみるか? 可愛い顔の割に、結構キツいぜ」
英児は布の端を摘んだまま笑ってみせ、ビニール袋に放り込んでいく。
「あれ。そういえば、奥さんは?」
僕はふと気になって訊ねた。
女性用の化粧品はさっきからいくつも見えているから、同居してるのは間違いない。でも、日曜の昼にいないなんて……。
僕はそこまで考え、ウチの和紗もそうだと気付いて自嘲する。
和紗は今朝も、用事があると言って出て行ったんだから。
「ああアイツな、今は出掛けてんだ。俺なんかよりよっぽどの仕事人間でよ。
 っつーかまず、嫁ですらねーんだけどな。結婚まだだから」
「え、そうなの?」
「ああ。もしやるって決まったら、流石にお前にも直で電話するしさ」
「そっか。呼ばないと怒るぞ?」
「ははっ、怒るのか? それはそれで見てみてーな」
英児はそう言って笑い、つられて僕も笑ってしまう。本当に英児といると、清清しい気分になる。
でもだからといって、僕の悩みがすっかり消えてなくなるわけじゃない。
「…………それにしても、子供って……可愛いよね」
僕はベビーベッドで寝る赤ちゃんを今一度見つめながら、無意識にそう呟いていた。
「なんだよ、しんみりしちまって」
英児はそう言いつつも、僕に少し同情的な視線を向ける。
そして逞しい腕で赤ちゃんを抱き上げると、僕の方に差し出した。抱いてみろ、という事か。
その厚意に甘えて、僕は英児の子を抱きかかえる。
柔らかくて、暖かい。小さな見た目よりもずっしりと重い、始まったばかりの命。
うちの子もちゃんと生まれていれば、今はこの位だったんだろうか。
僕にそっくりな顔をした子供を、こうして抱き上げられたりしたんだろうか。
そんな事を考えると、つい、涙が零れた。
「う、く……く、くふぅっ……うっ…………」
いけないと思っても止められず、一筋また一筋涙を零し、ボロボロと泣いてしまう。
「あふぇ、ふぇへへぇ!!」
腕の中の赤ん坊は、そんな泣き虫の僕を指差して笑っていた。仮にもパパになるはずだった男が、情けない話だ。

気分が落ち着いてから、僕は英児にすべてを打ち明けた。
和紗が流産したこと。
ひどく落ち込んで、田舎の寺に水子供養に行くと言っていたこと。
でも最近は様子がおかしく、変に思って寺に電話したら、来ていないと言われたこと。
英児は時々相槌を打ちつつも、難しい顔を崩さない。
パッと解決策を提示してくれるかとも思ったけど、彼でさえ長考するほどの問題なんだ、と改めて感じる。
「それ、和紗ちゃん本人には確認したのか?」
しばらくの沈黙の後、英児はそう切り出した。僕は首を横に振る。
「してない。直接訊けばはっきりするのかもしれないけど、下手をしたら関係が壊れそうで、怖いんだ」
「ああ、俺もそれでいいと思う。デリケートな問題だからな、動くにしても慎重になった方がいいぜ。
 何しろ流産直後だ、和紗ちゃんも精神的に不安定になってるだろうし」
英児のお墨付きを得て、少し安心する。
でも、だからといって傍観しているのも限界だ。
なぜ和紗が僕にウソをついたのか。今どこで何をしているのか。それを考えないと。
「理由はいくつか考えられるな。いざ水子供養をしようとして思い直したとか、別の寺で供養することにしたとか。
 タチが悪ィのは、何かのトラブルに巻き込まれてる場合だ」
「トラブル?」
「例えばの話だが、カルトやら詐欺グループやらだ。
 ああいう類は、今の和紗ちゃんみてぇに心の弱ってる人間をカモるのが定石なんだよ」
「!!」
それを聞いて、僕ははっとする。まさに僕も昨日、その可能性に思い当たったところだから。
そんな僕を見て、英児はしまった、という表情をした。
「あ、悪い。不安にさせるつもりはねぇんだけどよ……」
「いや。僕もちょうど、その可能性を考えてたんだ。ありうるよ」
僕が同調すると、英児の表情も少し柔らかくなる。
「そか。まぁいずれにせよ、まずは探りを入れるっきゃねぇな。
 ちっと知り合いに調査依頼してみるわ。幸い俺は職場近いし、いざって時も動きやすい」
英児のこの提案は、かなり有り難い。
これから人事異動でますます忙しくなりそうな僕に、探偵の真似事をするのは正直厳しかった。
「ありがとう。君と友達で、本当によかった」
僕は英児の手を取り、心からそう言った。
「よせ、気が早ぇ。感謝すんのは、この問題にきっちりカタがついてからだ。
 そん時ゃ、お前と和紗ちゃんと2人並んで、ビールでも奢ってくれよ」
英児は朗らかに笑いながら、僕の肩をポンポンと叩く。
大きなその手は頼もしくて、ひどく安心できた。





それからしばらくは、少し精神的にも余裕を持てた。英児が動いてくれているからだ。
一時の感情で下手に動くより、まずは彼に任せよう。そう割り切れば、だいぶ気が楽になる。
そして、二週間後。携帯に英児からのメッセージが入った。

『進展アリ。日曜に家で話す。ウチのが出かける3時以降に来てくれ』

普段のおちゃらけた感じのない、硬い文面。
そしてわざわざ家の人がいない時間帯を指定する辺り、他人に聞かせられない話なんだろう。
その週僕は、焦れながら日曜を待った。
会社や家でこそ普通を装っていたけど、通勤途中なんかは色んな人に振り返られたものだ。
多分、相当顔が怖かったんだろう。よく『平和な顔』だって茶化された僕からすれば、大した変化だ。
でもその変化も、きっともうすぐ終わる。終わってくれ。
僕は心の中でそう祈りながら、英児の家のチャイムを鳴らした。


「…………正直、コレをお前に見せるべきか迷ったんだけどよ。
 隠してもしょうがねぇと思って、見せる事にした」

英児はいつになく厳しい表情で、僕にノートパソコンの画面を見せてくる。
正直この時点で嫌な予感がしていた。親友と2人きりなのに、空気がものすごく重い。
それでも生唾を飲み込み、強く3回瞬きをして、パソコン画面に目を向ける。
画面には、いくつもの動画のサムネイルが並び、さらに裸の女性のポップアップ広告がその周りを彩っていた。
典型的なエロ動画サイトだ。僕も大学生の頃までは、よくその類に世話になっていたから知っている。
でもどうしてそんなものが、今の会話の流れから出てくるんだ。
まさか、まさか。
僕は嫌な予感をいよいよ強めながら、サムネイルを追った。
アングラな雰囲気のあるサイトの割に、投稿頻度はかなり高いようだ。
今は『投稿の新しい順』に並んでいて、今日投稿された動画がすでに7つある事がわかる。
中には明らかにAVの切り抜きのような物もあるけれど、ほとんどは素人による個人撮影ものらしい。
ますます、心に暗雲が立ち込める。
「……え、えい、英児。ま、ままさかこの中に、か、和紗が…………?」
僕は震える声で英児に呼びかけた。でも英児は答えない。腕組みをしたまま、気まずそうに目を伏せている。
仕方なく動画に視線を戻す。
もしもこの中に和紗の動画があったなら、必ず大きな反響を呼んでいるはずだ。
何しろ彼女はスタイルがいい。若者の集まるプールサイドで、男の視線を釘付けにするほどなんだから。
意外に冷静な思考を組み立てた僕は、動画のランキングを確認する。
週ごとの視聴回数、および評価点数のトップ10が表示された欄だ。
それを上から確認する……までも、なかった。
今週の視聴回数1位。そのタイトルがすでに、僕の探している内容にドンピシャだったからだ。

『 Fカップ美人妻 ディープスロート調教 』

直感的に、これが和紗の事だと理解した。
巨乳の美人妻というワード。そして、サムネイルに映っている女性の纏う雰囲気。それに見覚えがありすぎる。
震える指でサムネイルをクリックすると、動画の詳細ページに飛んだ。

『11/4投稿。 個人撮影 / 流出 /人妻/マニアック。
 古い動画は順次、友人のみの限定公開化』

動画説明文にはそうあり、その下にはいくつものタグが並んでいる。
そしてさらにその下には、『コメント(172)』という文字が見えた。

『この方、よく調教されてますねー。最後のほう見る限り、相当長くて太いペ○スみたいですが……』
『これはマジで凄い動画。女子アナ級に美しすぎる女が、極太を根元まで咥えこんでる。
 しかも最後まで嘔吐は一切なし。まさに最上級のメス豚って感じ』
『この女性のシリーズ大好きです。このレベルの人が、こんなハードな調教を受けてるなんて信じられません!!』
『他の人らの言う通り、ハード系じゃ最高峰の女優さん。こんなエロが見れるなんて、いい時代になったもんだ』
『人生で一度だけ乗ったファーストクラスのスッチーが、ちょうどこんな感じの人だった。この動画で妄想して抜きまくった!』
・・・・
そういう、動画を賛美するコメントが延々と続いている。
 ――ふざけるな!
僕は、思わずそう叫びたくなった。人の妻を掴まえて、何を言ってるんだこの連中は。
でも同時に僕はまだ、そこに映っているのが和紗だと完全に信じてはいなかった。
ただ単に胸が大きくて、和紗に似た雰囲気の女性なのかもしれない。いや、きっとそうだ。
そう思って、動画の再生ボタンを押す。

動画は、裸の女性が毛深い男のものを咥え込んでいるシーンから始まった。
背景にソファや壁が映っていることから、場所はそう広くないどこかの部屋だと解る。
カメラはぶれず、視点も動かない。多分、棚の上かどこかに置いて、定点で撮影しているんだろう。
動画内でまず目に付くのは、奉仕させている男の体つき。
相当な肥満体だ。
その風船みたいに膨らんだ下腹からは、巨体に見合った極太の黒いペニスが突き出ている。
そして色黒なそれを、華奢な女性が大きなストロークで咥えていく。
手を一切使わず、完全な口だけでの奉仕。ペニスの暴力的なサイズも相まって、それはひどく犯罪的に見えた。
女性の目には薄いモザイクが掛かっているけれど、鼻筋の通り具合や顎のライン、鎖骨からバストにかけての線だけで、美人らしい事が見て取れる。
見れば見るほど、覚えがある。心臓が激しく脈打つ。
「……俺は席外すわ。何かあったら呼んでくれ」
英児はそう言い残して部屋から出て行く。僕はそれに空返事を返しただけだ。
もう、そっちに意識を向ける余裕さえなかったから。

固唾を呑んで動画を見守ること、5分弱。少し苦しくなったのか、映像の中で女性が姿勢を変えた。
身体の横にだらりと垂れていた腕が、男の太腿を押しのけるような動作をする。
その瞬間、僕は見てしまった。女性の左腋に、小さなホクロがあるのを。
和紗を初めて抱いた時に見つけた、可愛らしい目印。
これと大きな胸を目印にすれば、顔を見なくても彼女だと解りそうだと思ったものだ。
映像の中の女性と、頭の中の妻がはっきりと繋がっていく。
肌色も、肌の質感も、身体の大小のラインも、すべてに生々しい覚えがある。
「あ…………ああ…………ああああっっ!!!!」
気付けば、僕は叫んでいた。ノートパソコンの縁を掴み、叫びながら揺らした。
やがて息が切れた頃になって、ようやく冷静さを取り戻す。
騒いじゃいけない。英児に余計な心配をかける。
そう思い直し、何度か深呼吸を繰り返してから、画面に視線を戻した。

画面に映っているのが和紗だと確信してからは、映像の見え方も全く違ってくる。
黒人並みに巨大なペニスを咥え込む時の、大きく縦に開く唇。
それにあわせて深く溝ができる頬。
ペニスの先が喉奥を突くときの、う゛っと呻くような吐息。
ペニスが抜き差しされるたび、唇から流れ落ちていく透明な唾液。
それら全てを、漫然と見ていられなくなる。
「か、和紗っ!和紗っ!!」
無駄だとは知りつつも、つい画面の中の妻に呼びかけてしまう。
でも、答えが返ってくる事はない。顎と首元を接写された和紗は、ただ黙々と目の前の男に奉仕するばかり。
画面からは、カコッ、カコッ、というディープストートの音が小気味よく繰り返されていた。
男の物は咥え込むのに無理があるサイズだ。口元から喉へと垂れる粘っこい涎からも、容赦なく喉奥をかき回されている事は間違いない。
にもかかわらず、和紗がえづき上げる様子はなかった。
コメント欄にもあった通り、『よく調教されている』んだろう。
これが初めてじゃない。これまでに何度も何度も、太い物を喉奥まで咥え込めるよう調教されたんだろう。
僕の知らない間に。

『ああー……イイぜ。スゲェいい』
画面の中から、唐突に男の声がした。なぜか、ひどく聞き覚えのある声だ。
性根の悪さが滲み出た、威圧的な声。
忘れる訳もない。僕はこの声に7年近くの間、虐げられ続けてきたんだから。
石山だ。石山がこの映像の中で、和紗に奉仕させてるんだ。
その事実に気付いた時、僕は思わず凍りついた。
体が震える。腰が抜けそうだ。居酒屋での一件の時よりもさらにひどく。
あの時はかろうじて未遂だった。でも今は、決定的な瞬間を目にしてしまっている。
『さすがに上手くなったじゃねぇか。ええオイ?』
和紗の艶のある黒髪を撫でながら、石山の声が言う。
 ――やめてくれ!!
僕はガチガチと鳴る歯の奥で叫んだ。
よりにもよって石山。あのゲスの極みのような男が、和紗の髪に触れている。奉仕させている。
その事実が網膜を通して脳に突き刺さり、気が狂いそうになる。
でも映像内の状況は、そんな僕の想いに構わず先へ進む。
石山のゴツゴツとした大きな手が、和紗の後頭部を押さえつける。
そして微妙に角度をつけたまま、深々と腰へと押し付け始めた。
『おぐっ…………っァ、けぁオ゛っ…………!!!』
ここで初めて、女性……和紗がえづきを上げる。
そのえづき声にも聞き覚えがあった。つわりがひどかったころ、和紗はよくトイレに蹲ってその声を出していたから。
大きく縦に開いた唇周りが、さらに強張る。頬の筋は深さを増し、上唇は尖り下顎はぶるぶると痙攣して。
頬から上は画面上部に見切れているけれど、目を見開いているらしい事が伝わってくる。
『へっ、イイ面だな。そのままこっち見上げてろ』
石山は相手を軽んじる態度を隠しもせず、和紗に命じる。
そして後頭部を両手で挟み潰すようにしたまま、自分の思う通りにストロークを調節する。

『もごっ……オ、ォ゛ッ…………!! けォっ、あがっ…………あっ、えぁおっ………………!!』
画面には、とうとう低いえづき声が繰り返されはじめた。
喉の奥から漏れる音も、カコカコという乾いた音から、クチュクチュという水音に変わっている。
白い喉へ垂れるえづき汁の量も目に見えて増していて、いよいよ容赦のない状況なんだと見て取れる。
もう口で奉仕させているというより、ただ和紗の喉という筒を『使っている』ようなものだ。
無機質で、暴虐的。見ているだけの僕でもたまらない。
今、和紗の頬の線を伝い落ちた一筋は、汗か、それともまさか涙なのか。
実際、石山は悪意に満ちていた。
和紗の状態なんてまったく意に介さず、滅茶苦茶なタイミングで腰を前後させる。
そして和紗が余裕をなくし始めた頃を見計らい、一番深くまで咥え込ませたまま、グリグリと腰を押し付ける。
和紗はたまらず、ぶふっ、ぶほっとむせ返ってしまう。
数秒後にようやく後頭部から手が離されると、和紗は弾けるように後ろへ身を引きつつ、初めてペニスを吐き出した。
何本もの太い唾液の線が、亀頭と舌の間を繋ぐ。
それはすぐに自重に負けて垂れ下がり、画面下にビチビチと音を立てる。
画面中央に映るのは、はぁはぁと白い歯を覗かせて喘ぐ魅力的な唇。
そしてそこから少し離れた場所にそそり立つのは、暴力的なサイズを誇るペニス。
長さこそ僕のより少し長い程度だけど、太さが相当にある。和紗はよくこれを咥え込めていたものだ。
『・・・・・・・・・』
画面上部で、石山が何かをブツブツと呟いている。良くは聞き取れない。
そしてその意味が不明瞭なまま、動画はプツリと終わった。

僕は大きく息を吐く。絶望の溜め息かもしれないし、やっと悪夢の動画が終わったという安堵の溜め息かもしれない。
色々な意味で刺激的な動画だった。
客観視できる第三者として観れば、相当に興奮できるんだろう。
激しいセックスとは違うものの、生々しいエロスのようなものが凝縮されている。
鼻から下だけでも十分わかる女優の気品や優美さが、ますます被虐の興奮を高める事だろう。
そう、第三者として観れば。
でも僕にしてみれば、こんな動画は悪夢以外の何物でもない。
そして、その悪夢はまだまだ続く。
動画の投稿者名……『ダイセキザン@番長』をクリックすれば、投稿動画の一覧に飛ぶ。
サムネイルをざっと観ただけでも、和紗のものらしき動画がいくつもあった。
長い黒髪に、ピンク色の肌、そして目を見張るような抜群のスタイル。そんな条件の揃った素人なんて、そうはいない。
「くそったれ…………!!」
僕は奥歯を噛みしめながら、動画の一つをクリックした。




動画が始まってから、わずか数秒後。僕は、完全に言葉を失う。
映っていたのは、さっきよりも遥かに過激な責めだ。
この映像の中の和紗は、身体中に様々な拘束具を嵌められていた。
目隠しにボールギャグ、犬のような赤い首輪。
両腕は筒状の黒い革で後ろ手に拘束されている。
大股開きになった両脚は、太腿から脛にかけてベルト状の拘束具を巻かれ、膝を伸ばせないようにされている。
そして挙句には、両の乳首とクリトリスにまで銀色のクリップが取り付けられ、Vの字のチェーンで繋がれていた。
和紗はその状態で、柄の悪い男に真下から突き上げられているんだ。
『オラッどうだ、だんだんと善くなってきただろ、ァ゛!?』
『ふうう゛……ふぅむぅああ゛……っ…………あぁあふぁ…………』
男が容赦なく腰を打ちつけるたび、ボールギャグの奥から不明瞭な声が漏れる。
苦悶の呻きか、悦びの声かはわからない。
でも僕には、彼女が身体中でSOSを発しているようにしか見えなかった。
鎖骨の辺りから下腹までを、びっしりと覆う脂汗も。
ボールギャグから垂れる唾液も。
目隠しのすぐ下から流れる、汗とも涙ともつかない透明な雫も。
すべてが救いを求めるサインに思えてしまう。
けれども画面下部の男からは、一切の慈悲が感じられない。呻く和紗のお尻辺りを掴んで、延々と腰を使い続ける。

映像の中では、腰使いと同じペースのクッチ、クッチ、という水音と、乳房のチェーンの揺れる音だけが繰り返された。
そして、動画開始から5分20秒が経過した頃。男が体勢を変える。
垂直な騎乗位から、和紗の腰を少し前へ出させる形に。
『うむぅぅ…………』
ボールギャグから悩ましげな声が漏れる。
でも僕は、その声以上に衝撃的な事実を目の当たりにしていた。
体位を変えた事で、はっきり見えるようになった結合部。それは、今の今まで僕が想定していた『膣』じゃない。
ぱっくりと口を開いたあそこには何も挿入されておらず、そのやや後ろ……暗がりに赤黒い物が入り込んでいる。
なんだ、あの場所は?
膣の後ろ…………そこにあるのは、間違いない、排泄の穴だ。
その事実に気付き、僕は戦慄した。
もちろん、そういうプレイがある事は知っている。でもそれは、例えば“人の肉を食べる種族がいる”ぐらいに縁遠い話だ。
実際に排泄の穴をセックスに使おうと思ったことはない。
ましてや和紗にそんな事を申し入れれば、怪訝な顔で『熱でもあるのか』と詰問されるのがオチだろう。
僕らのセックス観はそんなレベルだった。少なくとも、僕が知る限りでは。
その和紗がどうして、お尻なんかでされているんだ。
いや、それともやっぱり見間違いか。微妙な位置だっただけで、実は膣の下の方に入っていたのかも。
僕はそう考えようとした。でもちょうどその瞬間、映像の中で男が絶頂に達する。
「う゛っああ゛、あああ゛っ…………いい、イイわこれ…………!!」
ひどく耳障りな声で呻きながら、体を震わせる男。
その震えが止まったあたりで和紗の脚が持ち上げられ、赤黒い逸物が結合部から抜ける。
まさか、まさか。
そう思う僕に答えを示すようなタイミングで、カメラが和紗の脚の間へと近づいた。
ペニスと同じ太さに開き、白濁を溢しながらヒクつく穴。
それはやっぱり、どれだけ目を凝らしても膣じゃない。その下の、肛門だ。
「ウソだ…………ウソだ」
僕は呟いた。普段あまり独り言をいうタイプじゃないのに、今だけは勝手に言葉が漏れていく。
周りを気にするような余裕がまるでない。
そんな余裕のない僕をよそに、映像の中の状況は進む。

さっきの男に代わって、また別のヤンキーっぽい男が和紗を抱え上げた。
チラッと見えたペニスは、さっきの男より大きい。
男はクチャクチャとガムを噛みながら、薄笑いを浮かべて和紗の首筋を眺めている。
そして胸板をぴったりと和紗の背後につけ、和紗が怯えたように肩を竦めた所で、一気に挿入を果たした。
位置的にはさっきと同じ。つまり、またアナルセックスだ。
『はもぅうううーーーっ!!』
突然で驚いたのか、それとも男の物が大きいせいなのか。和紗はギャグ越しに悲鳴を上げた。
男の笑いが深まる。
噛んでいたガムをプッと吐き捨て、和紗の細い二の腕を鷲掴みにして引き付け始める。
もちろん、腰も力強く突き上げて。
『うむっ、あむはぁあうっ!はぁう、あううぅまっっ…………!!』
和紗の口から次々と声が漏れる。
『ハハッ、いい声だなオイ。子宮の入り口らへんが擦れて、感じんだろ。
 コッチで逝けるようになるまで、徹底的に仕込んでやっからな?』
男はそう言いながら、リズミカルに腰を打ちつける。力強く、でもなめらかなグラインド。
それを妻が受けていると思っただけで、僕は気が触れそうになった。
「畜生、やめろよ畜生ォっっ!!!」
僕はつい、ノートパソコンを置いているガラステーブルに手を叩きつける。
ガイン、という鈍い音と、もっと鈍い痛み。それでやっと僕は正気を取り戻す。
仮にも英児の持ち物に、何て事を。
心配になってノートパソコンの画面を見る。すると、何かおかしい。
どうやら今の弾みで、動画の再生を停止させてしまったらしい。全70分あまりの中の、18分時点までしか観ていなかったのに。
でも今さらまた、あのシーンを見る気力はない。

僕は軽い後悔の念に駆られながら、コメント欄に視線を落とす。
圧倒的な高評価が並んでいた。
拘束具に彩られた和紗の肉体を賛美する声。
その和紗のアナルを犯せる事への、羨望の声。
またその逆で、厳しく拘束され、逞しい男から延々とアナルを嬲り者にされるシチュエーションを羨ましがる声。
和紗に同情的な意見はひとつとしてない。
むしろコメントを追っていけば、この動画の中盤以降、和紗は明らかに『感じている』様子を見せたらしい事が窺える。
49:02、奥まで入れたままグリグリと駄目押しされると同時に、ぴゅ、ぴゅ、ぴゅっと3連続の小さな潮吹き。
54:37、指で開かれたあそこがヌルヌルにテカっている。挿入時の内腿の強張りも、気持ちよさそう。
62:11、天を仰いだまま鎖骨を震わせる。誰が見ても明らかなアクメ。
大きな変化だけでもそんな内容。小さな変化は書き連ねられないほどらしい。
コメントを追ううち、涙で視界が滲む。でも、どうしても気になって読み進めてしまう。
その中で僕は、ある一点についての言及がやけに多い事に気づいた。
『やっぱりあの調教があったから、これだけアナルセックスでヨがれるんだね』
ほとんどのコメントが、どこかにそういう内容を含んでいる。
あの調教――。文脈からしてアナルの調教だろう。このコメント欄の住人が皆知っているという事は、そんな動画まであるのか。
僕は心臓に痛みを感じつつ、サイト内を探して回る。
見つかった。

『 Fカップ美人妻 アナル調教 』

タイトルにはそうある。でも残念ながら、こっちの動画は視聴期限切れだ。
詳細ページを開くと、動画の代わりに内容紹介のサンプル写真が並んでいる。
どの写真も、クリックして拡大する事ができた。
全部で20枚。それらを追っていくだけで、調教内容のおおよそが窺い知れる。

一枚目。何枚もバスタオルを重ねた上で、這う格好をしている丸裸の和紗。
背景にはフローリングと安物のカーテンが映っていて、どこかのマンションの一室だとわかる。
和紗の肛門には、水鉄砲のようなガラスの筒が押し込まれていて、男の太い指がそれを支えていた。
二枚目。さっきとほぼ同じ状況。
和紗は片手でお腹を押さえたまま、背後を振り返りつつ何かを叫ぶような口の形をしている。
三枚目。場所はお風呂場、洗面器に跨った和紗の接写。
両手をまっすぐ床のタイルに突き、腰を落とした騎乗位に近い格好で洗面器を跨いでいる。
首から上が見切れていて、表情は見えない。
洗面器もちょうど真横から撮るような状態で、中身までは見えない。
でもそれだけに、様々な想像が止まらない。
四枚目。五枚目。六枚目。七枚目。八枚目。
この辺りは全部、アナルへの指入れのシーンだ。
すらっとした両脚をくの字に揃えた状態で、アナルに男の指をねじ込まれ。
煎餅布団に寝転んで開脚したまま、膣とアナルを同時に指で責められ。
フェラチオをしつつ、背後からの指入れ。
バックスタイルで膣を責められつつ、後孔への指入れ。
背面騎乗位で責められつつ、指責め。
いずれのシーンでも、和紗の目にはモザイクが入っている。
でも、悩ましい眉根のより具合までは隠れていない。
そして、何より口元が雄弁だ。細く開いたそこを見ると、はぁはぁという喘ぎ声まで想像できる。
九枚目から十五枚目。
Mの字に脚を抱え込んだまま、肛門内で風船のようなものを膨らませているシーンでは、
いよいよ悩ましげな表情になってしまっている。
風船の小さいうちは、どこか期待するような表情。
少し膨らむと、何かを叫ぶような表情。
そして相当な大きさにまで膨らめば、クリトリスで3回ほど絶頂させた時と同じ表情をする。
十五枚目の、膨らみきった風船が勢いよく抜け出ているシーンでは、表情は映っていない。
でもその『筋肉の表情』とでもいうべきものが、深い快感を物語っていた。
十六枚目。
風船に代わり、真ん中の膨らんだ栓のようなものが、画面中央に晒されている。
その背景には、スレンダーな身体で四つん這いになった和紗。
十七枚目。
太い栓のようなものが、半ば以上和紗の尻肉の合間に入り込んでいる。
和紗は画面に尻を向ける格好だから、表情はまったく見えない。
でもその手の平は、シーツを握り締めて深い皺を作っている。
左手薬指だけを、薄暗い中で光らせながら。
十八枚目。
裸のまま高く尻を突き上げている和紗。
股座部分にはゴムの帯が走り、腰のベルトで引き絞られている。
十九枚目。
腰のベルトが外され、ゴムの帯が緩んだところ。
そのゴム帯に押し留められる形で、秘部から極太の、肛門からはやや細い張型がはみ出している。
太腿を伝う愛液の量はかなりすごい。
壁に縋りつくような和紗の表情もまた、歯を食い縛った余裕のないものだ。
そして、二十枚目。
煎餅布団に突っ伏したまま尻を上げ、背後から挿入される和紗。
挿入位置の高さから、膣に入っているんじゃない事は明らかだ。
布団へついた両腕へ顔を埋める形だから、顔は一切見えない。
でもその、全身にきしっと力の入った様子から、やっぱり相当な気持ちの良さが伝わってくる。
コメント欄でも、このシーンは高く評価されている。
『聴いてるだけで濡れるような声』。このシーンの和紗は、それを絶えず発しているらしい……。





僕は溜め息をつき、ソファに身を沈めた。倦怠感なんて表現じゃ足りないほど、心身がだるい。
今の映像は何だったんだ。
得体の知れない連中と和紗が、アブノーマルなプレイを楽しんでいる?
ありえない。何しろ男の中には、あの石山がいるんだ。あんな悪意しかないような男に、和紗が心を許すわけがない。
何かをネタに脅されて、不本意ながらビデオ撮影されている。そう考えるのが自然だろう。
じゃあ、そのネタって何だ。そもそもいつから、何がきっかけのネタなんだ。
考えがうまく纏まらない。あまりにもショックが大きすぎて、頭の中が混乱してしまっている。
「…………入って、いいか?」
控えめな声で、部屋のドアが開かれた。顔を覗かせたのは英児だ。
彼は何も言わず、テーブルに水の入ったコップを置く。
それを見た瞬間、僕は猛烈な喉の渇きを自覚した。喉の奥からは血の味さえする。
無意識に、喉が枯れるほど叫び、呻いてしまっていたらしい。
コップを取り、勢いよく喉に流し込む。でも胸が詰まったような状態では上手く飲めない。
「う……っうぐ、うふぁ……あ……っぐぐ…………!!!」
噎せ返り、鼻からも水が噴き出す。それをきっかけとして、僕の中から何かがあふれた。
号泣。まさにそういう感じで、声を出して泣く。
英児は僕の横に座ったまま、何も言わなかった。何も言わずにいてくれていた。

ひとしきり涙を出し終えると、いくらか気分が落ち着いた。
そうして改めて、悪夢じみた状況に真正面から向き合う事にする。

「…………動画の中に、石山が映ってた」
「ああ」
僕の言葉を、英児は苦々しい顔で肯定する。
「どうして、アイツが和紗といるんだ。アイツと和紗に接点なんて…………」
そこまで言葉に出して、僕はふと気がつく。
あったじゃないか、接点が。
あまりにもトラウマなせいで、無意識に記憶の隅に追いやってしまった出来事。
和紗が、居酒屋のバイトを辞めるきっかけになった事件。
和紗と石山の接点といえば、あそこ以外にない。
「教えてくれ、英児」
僕は、英児の目をまっすぐに見つめた。
「僕らが酔いつぶれた日、あっただろ。あの日、英児が僕らを助けてくれたとき…………どんな風だったのか」
あの夜、僕はいつの間にか酔い潰れ、そこから朝目覚めるまでの記憶がない。
和紗によれば、僕がずっと彼女を守り通したらしいけど、当時からどうもそれがしっくり来なかった。
酔いつぶれる間際のまどろみの中、石山の下品な笑いを聞いた気がしたから。
あの時はともかく無事だったんだからと、深く追求することもなかった違和感。
でも今にして思えば、そこは有耶無耶にしていい問題じゃなかったんだ。

英児は首筋を掻きつつ、一瞬僕から視線を外す。
いつもの彼らしくないその行為に、僕の胸がざわつき始める。
「あの時は、そうだな…………『なんとか間に合った』って…………そう、思った」
英児はそこで言葉を切って、僕の方に視線を戻す。
「店に入った瞬間、机に突っ伏してるお前が見えてよ。その奥で、和紗ちゃんがまさに石山に襲われてる感じだったんだ。
 けど一応パンツは穿いたまんまだったから、まだ“されてねぇ”んだって安心した」
「そ、そっか……」
確かにそうだ。傍若無人な石山が和紗をレイプしたなら、ショーツを戻すなんて事はしない。
やり終えたそのままの状態で放置しておくだろう。
でも実際に完遂まではされていなかったとしても、弱みを握る機会は十分あった、という事になる。
考えてみれば、店で同じく監禁されていた店長――佐野さんは、その一部始終を目撃していたはずだ。
だとすれば、あの事件直後の態度……あのすまなそうな顔も意味が違ってくる。
グアム旅行のペアチケットなんて妙に気前がいいと思ったけど、今考えれば身が凍る。
佐野さんはあの夜、和紗を襲った悲劇を『目撃して』、その自責の念からあれを奮発したんだろう。
筋が通ってしまった。問題の発端は、多分これで間違いない。
なら次に考えるべきは、今この現状をどうするかだ。

「この動画を証拠に、警察に行けば!」
僕は英児に言った。
『和紗の被虐映像』という動かぬ証拠が目の前にある。そして僕は、その主犯格らしき男を知っている。
でも英児は、すぐさま首を横に振る。
「ダメだ。俺も最初そう思って、法律に詳しいダチに訊いたんだけどよ。これを事件化すんのは、まだ難しいらしい」
「ど、どうして!」
「明らかにレイプされてるって内容ならともかく、ここにある動画は全部、あくまで“プレイ”の範疇だ。
 和紗ちゃん自身が嫌がってる素振りを見せてねぇ以上、合意の上って可能性が残る。
 警察ってのは民事不介入が基本だからな。この映像だけで動いてくれる可能性は、ほぼゼロらしい」
「合意な訳がない! 和紗に限って、そんな事あるもんか!!!
 それに、和紗は僕の妻だぞ。その妻とするなんて、そんなの、お、おかしいじゃないかっっ!!!」
僕は思わず叫んだ。
合意。その言葉で頭に血が上って、思いつくままに捲し立ててしまう。
「落ち着けって! 俺だって、勿論そう思ってる。和紗ちゃん、今時珍しいぐらいお前一筋だもんな。
 合意なんかじゃねぇ。何かしら弱みを握られてるに決まってる。だからこそ慎重に、だ。
 石山の馬鹿一人を殴って済むならいいが、この動画を見る限り、相手はグループだろ。
 下手に動きゃ、それこそ和紗ちゃんにとってヤベェ事になりかねねぇ」
英児に肩を掴まれて諭されると、少しずつ気分が落ち着いていく。
感情論ばかりの僕に比べて、彼の言葉は一々もっともだ。
「そう、だね…………ごめん」
「いいって。俺だって最初このサイトを教えられた時にゃ、さすがに目ェ疑ったしよ。当事者のお前なら尚更だろ。
 とりあえず、今は大人しくしとけ。俺の方で人割いて、もっと証拠固めとくからよ」
そう言って笑う英児は、いつも通りに頼もしく思えた。
そして同時に僕は、妻の窮地に何も出来ない自分を呪う。

これから家に帰って、和紗の前で普段通りの姿を演じられるだろうか?
いやそもそも、そんな状況に我慢ができるだろうか?



こんな僕が、本当に、和紗を守る立場の人間と言えるんだろうか…………?




                              続く


20:14:00
※ お  ま  た  せ
  地獄の始まりです



すんなりと大手の内定を取った英児に比べて、僕の就活は泥沼の戦いだった。
他人より優れていると主張するのが苦手な僕は、採用する側にもさぞダメそうに見えた事だろう。
それでも諦めず頑張り続けられたのは、偏に和紗のおかげだ。
『がんばれ パパ』。
白米に海苔でそう書かれた“愛妻弁当”を公園のベンチで広げれば、どんな疲れだって吹っ飛んでしまう。
そして我が家に帰った後は、日増しに膨らんでいく妻のお腹に耳を当てる。
「ふふ。生まれてくるの、楽しみだねぇ」
内職の編み物をしながら、和紗は笑う。外で見せる綺麗に整った笑顔とは違う、子供のように屈託のない笑顔で。
「うん……楽しみだ」
僕も満面の笑みを返す。
心の底から活力の湧いてくる、温かな時間だ。

そして、22歳の春。
僕は悪戦苦闘の末に、なんとか新社会人としての生活を送りはじめた。
給料は決していいとは言えず、入社2日目にしてサービス残業を強いられる。
とはいえ、和紗と2人で暮らすマンションの家賃補助ぐらいは出たし、何より不満を言える身分でもない。
僕はひたすら『良い歯車』になるべく、必死に仕事を覚えた。
もちろん、和紗との生活もないがしろにはしない。
和紗のお腹が目立ち始めた頃、2人で芳葉谷に帰った時のことは印象深い。
まずは和紗のお爺さんの所へ挨拶に伺い、その後で甘味処の跡地に立ち寄った。
廃業してから4年強。ボロボロに朽ちて蔦だらけになった店を眺めていると、僕でさえ物悲しい気持ちになったものだ。
和紗は何も言わなかったけれど、僕の手を握る強さから、その心情は読み取れた。
甘味処を後にしてしばらく歩けば、山の中の寺に辿り着く。
この芳葉谷で、僕が最初に辿り着いた南の寺だ。
安産祈願のこの寺こそ、この小旅行における一番の目的だ。
「元気な子が生まれますように」
2人して手を合わせ、心を込めて祈る。
かなり長く祈ったつもりではあったけど、僕が目をあけた時、隣の和紗はまだ祈っている最中だった。
祈りにかける想いで負けたような気がして、少し恥ずかしくなる。
それと同時に、僕は改めて和紗を真横から観察する機会を得てもいた。
妊娠っていうのは不思議だ。少し前までは驚くほどにスレンダーだった体型が、すっかり変わっている。
それもただ太ったわけじゃない。腕の細さはそのままに、お腹だけがぽっこりと突き出ている。
その中に僕と和紗の愛の結晶がいると思っただけで、嬉しいような恥ずかしいような、妙な気分になってしまう。
「なーによ壮介、ジロジロ見て」
と、和紗がいきなり片目を開けて、僕をジロリと睨み上げる。
「いやぁ、あはは…………!!」
僕はつい照れ笑いを浮かべた。
そう、この時は笑っていられた。少し先に待つ運命なんて知らなかったから。

 ――もう少しでも長く、もう少しでも真剣に祈っていたら、すべてが変わっていたかもしれない。

後に嫌というほどそう後悔するなんて、想像もしていなかったから。




和紗が産気づいたと連絡を受けたのは、仕事の昼休憩が終わる直前だった。
僕はすぐに上司に事情を説明し、病院に駆けつける。
周りから見ても相当な慌てぶりだったみたいで、上司からも病院の受付の人からも、落ち着いてと宥められてしまった。
「はぁっ……はぁっ、そ、そう…………すけ………………」
和紗は分娩台の上で、真っ青な顔をしながら僕を呼ぶ。
いつもの血色の良さがない。そのまま死んでしまうんじゃないかってぐらい、顔色が悪い。
「和紗、が、頑張って…………!!」
僕は愛する妻の手を握りながら、祈りを込めてそう言った。
僕らは予め、出産時に立会いはしないと決めている。僕が血が苦手なのもあるし、和紗も産む瞬間を見られたくないそうだから。
立ち会えない分、気持ちだけでも和紗の傍に置いておこうという気持ちで、僕は和紗を励まし続けた。
「はぁっ…………はーっはっ…………ううう゛っ!!」
和紗は最初こそ嬉しそうに笑ってくれたけれど、それもすぐに苦しそうな顔に変わる。
「出産の準備を始めますから、外に掛けてお待ち下さい」
助産婦さんにそう促されて、僕は入り口に向かう。
そして、扉を開けてまさに外へ出ようという瞬間、たまらずに振り返った。
和紗はそれに気付いて、苦しみの中でも僕に向けて笑顔を作ってくれる。心配しないで、と言うように。
なんて強くて、なんて優しい妻なんだろう。僕は改めて感動してしまう。
後は彼女自身の頑張りと、経験豊かな助産婦さんに任せるしかない。

廊下に置かれた長椅子に浅く腰掛けながら、僕はただ時を待った。
ドラマなんかで見飽きるほどに見た光景だけど、実際自分が経験してみると新鮮だ。
ほんの数秒がおそろしく長く思える。
分娩室の中で頑張っているだろう和紗にエールを送りつつ、子供が産まれた後の事を延々と想像したりもする。
一寸先への不安と、将来への期待が入り混じる時間。
椅子から立ち上がっては分娩室のドアを見つめ、窓の外に目をやり、また座っては貧乏揺すりして、の繰り返し。
その果てに、ふと、赤ん坊の声が聴こえた気がした。
「!!」
僕は弾かれたように顔を上げ、全神経を目の前の扉に集中させる。
確かに扉の向こうから泣き声がしているようだ。ただ、それが和紗の部屋からなのかがはっきりしない。
隣の部屋でも今まさに出産が行われているみたいで、そっちから聴こえてきているような気もする。
改めて周囲を見ると、僕と同じようにやきもきしている男の人が他に何人もいた。
どうも今日は、複数件の出産が重なっているみたいだ。
と、その時、僕の目の前の扉が開いた。
疲れた表情の助産婦さんが一人出てきて、後ろ手に扉を閉める。
「あ、あのっ、生まれたんですか!? 男の子ですか、女の子ですか!?」
僕は辛抱できずに助産婦さんに問いかけた。この時の僕は、多分半笑いだったはずだ。
心配こそしたけれど、心の底では無事生まれるものと決めてかかっていたんだろう。
『元気な男の子ですよ』
そんな声が今にも聞けるはずだと、僕は思っていた。
けれど。
「…………少し、お話よろしいですか」
助産婦さんは難しい顔のまま、部屋の一室に僕を招く。
「えっ?」
僕の喉からは、ただ間の抜けた声が出た。何かおかしい。何か変だ。その悪寒で、背中にじっとりと汗を掻きながら。


「…………つまり………………死産、って事ですか?」
僕がかろうじて搾り出したその問いに、助産婦さんは申し訳なさそうな顔で頷く。
その反応を見た瞬間、僕は思わず丸椅子の上でバランスを崩しそうになった。
腰が抜ける、というやつだろう。身体の芯がすっぽり抜け落ちたみたいに、一瞬座る姿勢を保てなくなったんだ。
「あまり、お気を落とされないよう……」
助産婦さんは必死に励ましの言葉をくれていた。でも、正直耳に入らない。
「か……和紗に、妻に会わせてください!!」
僕はそう乞うた。死産でショックなのは僕だけじゃない筈だ。まずは和紗の元へ駆け寄って励ましてやりたかった。
でも、助産婦さんは厳しい顔で首を振る。
「奥様も今、ひどく取り乱されています。今、混乱した状態の貴方がお会いになるのは危険です。
 しばらくは私共にお任せになって、まずは貴方ご自身がお気持ちを整理なさって下さい」
強い語気でそう言われると、もう何も言えなかった。
それに言われてみれば、今和紗に会うのが良い事とは限らない。
和紗のことだ。僕に申し訳ないと思う気持ちがまずあって、僕本人を前にした瞬間、その自責の念が爆発する可能性だってある。
「………………すみません、取り乱してしまって。妻を、よろしくお願いします」
僕は助産婦さんに深く頭を下げた。
助産婦さんも頭を下げ返し、申し訳なさそうな目で僕を見る。
その目と、現在の状況。どちらもが居たたまれない。
僕は逃げ出すように家に帰って、思わずソファに崩れ落ちた。
涙が頬を伝う。ソファからほのかに漂う和紗の匂いが鼻をくすぐって、また目の奥から涙があふれていく。

 ――どうして、どうして僕らなんだ!

その感情が胸に渦巻く。
僕も和紗も、悪いことをした覚えなんて一つもない。他人の悪口も言わなければ、困っている人の手助けを渋った事もない。
我ながら呆れるほど品行方正にやってきたつもりだ。和紗と出会ってからは、特に。
その僕と和紗の子供を、どうしてこの手に抱く事ができないんだ。
贅沢を望んだわけじゃない。過ぎた身分を求めたわけでもない。
僕らは、ただ一つの宝物…………愛の結晶が欲しかっただけなのに。
「畜生っ!!!」
僕は拳を振り上げて、ガラステーブルに叩き付けた。
冷たい感触の直後、手の骨の中にハンマーを打ち込まれたような鈍い痛みが襲ってくる。
小指が痺れて、曲がったまま戻らない。小指の付け根が、折れたみたいに痛い。
でもそんな刺激的な痛みでさえ、胸のそれを掻き消すには程遠かった。






「…………じゃあ、行ってくる」
和紗は僕を振り返り、笑みを浮かべた。
明らかに無理をした表情だ。やつれた顔に浮かぶ薄笑みは、むしろ痛々しくさえある。
喪服に近い黒のロングワンピースやパールのネックレスが、余計にその陰を増している。
ただ、僕はそれを非難しない。彼女なりに考えがあっての事だろうから。
「ご飯は、冷蔵庫に入ってるから。お肉もちゃんと食べてね。それから、火の元には気をつけて」
「うん。解ってるよ、大丈夫」
僕は苦笑する。和紗はいつもこうして、母親のように世話を焼くんだ。僕自身がかなり抜けているせいなんだけど。
ただ考えようによっては、普段の彼女に戻ったともいえる。いや、そう思いたい。
「ごめん……今度こそ、行くね」
和紗はそう言いながら、僕のおでこにキスをする。
「!」
突然の事に固まる僕。和紗はそんな僕を見て目を細めて、ドアを開く。肌寒い風が吹き込んでくる。
「…………大好きだよ、壮介。」
ドアに身を滑り込ませながら、和紗は囁いた。
そこには一瞬妙な感じがあったけれど、その正体をはっきりさせる暇もなく、鉄のドアが僕達の間を隔ててしまう。

和紗が向かったのは、僕達が安産祈願を行った寺だ。裏では水子供養も行っている所らしい。
僕らの安産祈願を聞き届けてくれなかった寺で、供養なんて。
僕は最初そう思った。でも逆に、だからこそ、という考え方もできる。
それにあの寺は、和紗の甘味処のすぐそばだ。つまり和紗にとっては馴染みの寺だったはずで、無碍にできる訳もない。
そういう事情があって、僕は水子供養のために帰郷する和紗を見送った。
もちろん、僕も一緒に供養したいのが本音だ。でも和紗はそれを許してくれない。
「これは私なりのけじめなの。心に整理がつくまでの。いつか必ず区切りをつけるから、待ってて。
 それにパパとママが両方神妙な顔してたら、あの子だって怖がっちゃうよ」
神妙な面持ちでそう言われたら、何も反論なんてできなかった。
ただでさえ精神的に不安定な状態なんだ。下手な事を言って、追い詰める結果になっちゃいけない。
それに僕自身、まだ新入社員の身であまり余裕もなかった。
休日も仕事をしないととても回らない。会社が遠いのもあって、毎日朝早く出て、帰りは遅い。
だから和紗の事を心配はしつつも、そっちにばかり構ってもいられなかったんだ。

とはいえ、大きな変化があれば流石に気付く。
例えば、それまで喪服のような地味な服だったのが、ある時から急にカジュアルな感じになったりすれば。
「あんまり暗い服ばっかりだと、かえって水子が成仏できないんだって」
僕が理由を訊くと、和紗はそう説明した。
なるほど一理ありそうだ。僕が祈られる側でも、遺族に毎日暗い服を着られたくない。
だからカジュアルな格好については、僕もそれほど気にはしなかった。
ただ、ちょうど和紗がそういう格好をし始めた頃から、妙に帰りが遅くなってきたのは引っ掛かる。

「行ってくるね」
ある土曜日。和紗はいつも通り、笑みを浮かべながらドアノブに手を掛ける。
そう、いつも通りの和紗だ。でも疑心暗鬼に陥った僕には、その笑顔さえ、どこか無理をしたものに思えてしまう。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
僕はほぼ無意識に、和紗を背後から抱きしめて囁いた。その瞬間、僕の腕の中で和紗が強張る。
やっぱりおかしい。以前の和紗なら、こうしても余裕綽々で僕の頭を撫でてきたのに。
「う、うん。気をつけるよ」
和紗はそれだけを言い残して、ドアの向こうに消える。
僕は、胸に靄が渦巻くような気分だった。
一体どうしたっていうんだ。死産がショックだったのは解る。でももう、あれから3ヵ月だ。
体型だってすっかり元に戻ったっていうのに、心の方は改善する気配がない。
いや、普段は割と普通なんだ。
まるで何もなかったかのように、僕と晩酌して談笑するし、先輩達から茶化されるぐらいの愛妻弁当だって作ってくれる。
セックスこそタブーな気がしてしていないけど、それ以外は新婚の頃のままだ。
ただ、今日のような日……寺に行く日だけは、急に表情が翳る。
もう寺に行くのを止めたほうがいいんじゃないか。
いくら亡くなった子供を思っての事だとしても、引き摺られすぎなんじゃないか。
それともそう思うのは、僕が出産に立ち会っていないからなのか。
僕は父親として、情が浅いのか。
アパートに一人いると、そんな事を悶々と考えてしまう。


気がつけば、窓の外には夕日が見えていた。
平日の疲れからか、知らないうちにリビングのソファで寝入ってしまっていたらしい。
「……和紗?」
寝室の方へ声を掛けてみるけれど、返事はない。トイレにも、風呂にも、和紗の姿はなかった。
今日も遅いのか。地元の知り合いと話し込んでいる内に、泊まる事になったのかもしれない。
僕はそんな事を考えながら、冷蔵庫を開ける。
中には、和紗が作ってくれたブリ大根が冷えていた。僕は素朴なこれが好きだ。
でも、何か物足りない。いくらレンジで温めても、どんなに美味しくても、一緒に食べる相手がいないと暖かみが感じられない。
「もう、呑むしかないな……」
寂しさを紛らわせようと、僕はテレビを見ながら一人で晩酌を始めた。
まるで家庭に居場所のないオヤジみたいだ。
ふとそんな事を考え、殆ど間違っていない事実に涙が出そうになる。
気分が落ち込んでいる時は、何もかもが不快だ。
和紗と並んで見ている時は楽しかったバラエティ番組も、今は笑える気さえしない。
起きていても不快なだけだ。
僕は速いペースで酒を進め、電気を消して、無理矢理に夢の世界に逃避する。

そして、しばらく後。
家の傍に一台の車が止まった音で、僕は眠りから醒めた。
時計を見ると12時を回っている。
和紗が帰ってきたのか、とも思ったけど、すぐにそうじゃない事に気がついた。
もし和紗が知り合いに送って貰ったんだとしても、マンションの正面に車を止めるはずだ。
でも、今車が止まったのは裏手の駐車場。
裏の駐車場はうちのマンションとは関係がなく、寂れた雰囲気の割に結構広い。
だから若者連中が、宿代を浮かすためにそこで車中泊する事もよくある。
ただ静かに寝てくれるならいいけど、大体は酒盛りやらを始めて騒ぐから、マンション側の人間としてはいい迷惑だ。
そして悪いことに、今日の来客もまた“そういう類”らしい。

車が止まってからしばらくは、何の音も聴こえてこなかった。
でも暇つぶしがてら窓辺で耳を澄ましていると、かすかに水音のようなものがし始める。
最初こそ控えめだったその水音は、ある時を境に大きくなった。
じゅるっ、じゅるっ、という生々しい音。和紗のフェラチオを思い出して、しばらくご無沙汰だった僕はそれだけで少し勃起してしまう。
そのうち聴いているだけじゃ物足りなくなって、僕は小さくカーテンを開けた。
草だらけの駐車場には、それらしいワゴンが一つ。
深夜の駐車場は暗く、ワゴン自体も若干死角にあるせいで、車内の様子までははっきり見えない。
それでも運転席に男が座っている事と、助手席の女がその股間に覆い被さっているらしい事は見て取れた。
女の背中は、薄暗い車内でも白く浮かび上がっていて、なんだか幻想的だ。
 ――和紗。
嫌でも、最愛の妻が脳裏に浮かぶ。
体目当てで付き合っていた訳じゃ断じてない。でも今の僕は、彼女の白い裸を思い出して勃起していた。

そして、しばらくした頃。それまで続いていた水音が、ふいに聴こえなくなる。
代わりにし始めたのは、ギッギッと車体の揺れる音。
何度かこの部屋でカーセックスの現場を見ているせいで、それが『行為』の音だとすぐに解った。
非常識だ。よりによって、こんな場所でするなんて。
僕は毎度のごとくそう思いつつも、誘惑に駆られて小さくカーテンを開けてしまう。
相変わらずはっきりとは見えない。
でも色白の女性が、誰かの上に跨っている事だけはわかる。
長い黒髪に、若い身体。今までにもカーセックス現場で何度となく見たタイプだ。
でも今は、その後姿が和紗にダブって見えてしまう。
男の首に手を回して、大きくお尻を上下させる黒髪女性……。
『あっ、あっ…………』
抑えがちな喘ぎ声まで、和紗に思えてしまう。
今の僕は異常だ。
自分の意思とは無関係にアレを握って、扱いている。漏れ聴こえる音と声をオカズにして。
「うう、和紗……ああ、あ、和紗ぁ………………っ!!!」
押し殺した声で呻きながら、僕は射精した。こんな時でも、外に聞こえないよう気を遣ってしまう自分が嫌だ。
「はぁっ、はあっ……はぁっ…………」
する事を済ませると、ひどい倦怠感が襲ってきた。
数週間分溜めた精液は、盛大に床やガラステーブルに飛び散っているみたいだ。
その片付けも億劫だけど、それ以上に後悔の念が強い。
見知らぬ女性を、和紗に見立てて慰めてしまった事。それが彼女へのひどい裏切りのような気がして、
僕は静かに泣いた。



                             続く


カウンター
プロフィール

Author:燻製ねこ
2chを名無しで彷徨う流浪の物書き。
百合とアナルが主食。
強い女と性拷問も大好き。

ゆっくりしていってね!

※当ブログはリンクフリーです。

mail : kunseneko@gmail.com

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

最新の記事
ありがたいコメント
カテゴリ
月別アーカイブ