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自作小説を掲載したり、興味のあることを語ったりするブログです。
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00:00:00
ブログ開設。

大樹の木陰で涼むような、居心地の良いブログになりますように。

注意!
当ブログは著作権を放棄しておりません。
くれぐれも無断転載の無いようお願い致します。

(あまり堅いことを言う気はありませんので、常識の範囲内でお願いしますね)

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人生一度、不倫をしましょう・・・欲求不満妻が大集合
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17:58:54
※初Hシーンアリ。エロはややあっさり気味。

高校も3年になると、就職組以外は大学受験一色になる。
英児は最難関私立へのスポーツ推薦がほぼ確定しているらしい。
僕が狙うのは、その2ランク下。とはいえ僕の学力じゃ、一年間必死に勉強しないと受かりっこないレベルだ。
当然、芳葉谷に行く機会は極端に減った。
だからといって、和紗との繋がりが切れた訳じゃない。
遊びに行けない代わりに、文通は週一度のペースで続けていた。
『遠くから、合格を祈ってるからね』
その言葉がありがたい。彼女に応援されているんだと思えば、自然と勉強にも身が入る。
たまに同封されている元気一杯な近況報告も、いい息抜きになった。

ただ、全部が全部気楽な報告だった訳でもない。
『最近、爺ちゃんがボケ始めてる。』
ある日の手紙にはそうあった。
前後の文脈は冗談めかしたものだったけど、なぜかその一文が気にかかる。
そういえばお爺さんも、もういい年だもんな。もし本当に痴呆が始まってるなら、和紗も大変だろうな。
勉強の合間に、ついそんな事を考えてしまう。
だからといって様子を見にはいけない。
寸暇を惜しんで勉強しなければならない状況で、往復4時間は遠すぎる。
それに、受験を意識しだしてからはバイトも辞めていたから、金銭的な意味でも苦しい。
結局僕が真偽を確かめに行けたのは、それから1年近くも後。
かろうじて合格をもぎ取った、という報告ついでの事だった。




ほんの1年見なかっただけなのに、芳葉谷の風景はひどく懐かしい。
昭和じみた町をしばし行くと、田んぼの中に見覚えのある子供達の姿が見えた。
「あ! あんちゃー!!」
彼らも僕に気付いて、泥だらけの足で駆け寄ってくる。
本当に足が早くて、3つ瞬きする間に四方を取り囲まれてしまう。
「あんちゃ、ゴウカクしたか!?」
開口一番にそう訊かれた。どうやら和紗は、こんな小さな子達にも触れ回っていたらしい。
「うん。おかげさまでね」
僕がそう答えた瞬間、子供達は一斉に目を輝かせ、満面の笑みで僕の腰を叩いてくる。
「やっだなぁ、あんちゃー!!」
「わっしら和姉ぇに言われて、毎日皆でお祈りしてたんだべ!?」
ある子は自分の事のようにはしゃぎ回り、ある子はポケットから学業お守りらしきものを覗かせ。
純真な彼らに運ばれるようにして、僕は甘味処に辿り着く。

「お、久し振りじゃの。よう来さった」
お爺さんは、僕を見るなり表情を綻ばせた。
「あんちゃ、でーがく受がったって!」
僕を押している子供の1人が言うと、お爺さんは一瞬驚いた表情をし、その後はさっき以上に笑い皺を深くする。
「おお、おお、そりゃあ良がったのぉ! 大したもんはねぇが、お祝いじゃ」
そう言って店の奥に姿を消すと、淹れたてのお茶や、色々なお菓子を載せた盆を出してくれる。
まるで、本当のおじいちゃんみたいに。
「すみません、わざわざ。頂きます」
感謝の気持ちを込めて、盆に載った草団子を手に取る。
噛むと、相変わらず本当に柔らかい。そして、団子も上の餡も、今までで一番美味しく感じる。
久し振りだから、だろうか?
お爺さんは子供達にも団子をやりながら、ゆっくりと縁側に腰を下ろす。
先入観があるせいだろうか。見た目も動き方も、前に見た時よりめっきり老け込んだようだ。
 ――『最近、爺ちゃんがボケ始めてる。』
和紗の手紙に書かれた一文が脳裏を過ぎる。

「しかし、本当に合格するとはの。あの子が聞いたら喜びそうじゃ。
 なんせ、近頃は毎日のように北の寺さ参って、一生懸命祈ってたんだがら」
お爺さんは笑いながら言った。
芳葉谷に4つある寺のうち、北の一つが学業成就の寺……そう和紗から聞いた覚えがある。
南の寺にほど近いここからは、一番遠くにある寺だ。
そんな場所に毎日通ってくれるなんて、何だか背中がむず痒くなってくる。
「そういえば、彼女はどこですか?」
何気なく僕が訊くと、おじいさんは大きく首を傾げた。
「ん? そういえば、出てこんのぉ。…………おーい和紗や、壮介君さ来たべよーー!! おーーい!!」
おじいさんが何度叫んでも、返事はない。
壁の震えるような大声なんだから、聴こえていないはずはないのに。
「まったく、何をやっとるんじゃ……」
やがて痺れを切らしたお爺さんは、草履を履きなおして店に入っていく。
そして、そこから数分。
変化のない状況に飽きた子供達が、僕に手を振って皆居なくなった頃。
さすがに不安になり、おじいさんの後を追おうかと思い始めた頃。
ようやくお爺さんが姿を現した。なぜか、バツが悪そうに毛の薄い頭を掻きながら。
「やぁ悪い悪い、すっかり忘れとったわ。あの子は今、ワシの代わりに山菜採りに出てくれとるんじゃ」
その言葉に、僕はホッとする。事件があった訳じゃなくて何よりだ。
でも、同時に別の心配事が杞憂では済まなくなった。
お爺さんがボケ始めている。どうやら、こっちは事実らしい。




縁側に戻ってから、お爺さんは最近の和紗の様子を聞かせてくれた。
僕の想像通り、和紗は手紙を書く間、緊張しっぱなしだったみたいだ。
まず手紙を書くと宣言してから1時間以上、腕組みをしたまま家中を歩き回る。
この間、お爺さんが落ち着けといくら声を掛けても耳に入らない。
そしていざ机に向かえば、目を見開いたまま顔を強張らせ、背筋をピンと伸ばして一心不乱に書き進める。
たっぷり2時間ほどかけて書き終えると、正座で足が痺れたと言って畳の上を転がる。
毎回これの繰り返しなんだそうだ。
お爺さんはそんな孫娘の様子を、思い出し笑いを挟みつつ楽しそうに語る。
でも、何故なんだろう。時々その目が、寂しそうな色を見せるのは。

「…………あん子は、壮介君の事さ大好ぎみでぇだ。
 元々人見知りなんぞする子じゃ無がったが、そんじも男に対しては、妙に身持ちの固ぇとこさあったんだべ。
 だげんじょ、あんちゃにだけはそうならなんだ」
色々な男の中で、僕だけが特別に和紗から好かれているらしい。
ありがたい話だ。夢じゃないかってぐらい、嬉しい。
お爺さんから、何かを訴えるような眼光を向けられていなかったら、もっと素直に喜べるのに。
「壮介君。」
お爺さんは、重々しい声で言う。
いつも柔和な笑みを浮かべている人と、同じ人物とは思えない。
「は、はい!」
思わず背筋を伸ばして返事をする。
「ワシはな、壮介君。じきに店を畳もうかと思うとる」
「えっ!?」
突然の宣言に、僕は驚くしかない。そんな僕をよそに、お爺さんは続けた。
「ワシも、もうすっかり耄碌しての。よう判らん事が多ぅなった。
 自分が今何しでだかも判らん。歩き慣れた道が、急に知らん道に思える事もある。
 壮介君が初めてこん店に来た時、店さ開けとったじゃろう。
 あれもな、すぐそこの山道で迷って、よう帰れんようになっとったんじゃ」
淡々としたお爺さんの語りに、僕は絶句する。
『ボケ始めている』どころじゃなく、本当に危ないじゃないか。
そうか。だから和紗は今、お爺さんに代わって山菜採りに出かけてるんだ。
それを察してお爺さんも、店を畳むことを決意したんだろう。
お互いがお互いを思っての行動なんだ。部外者の僕に挟む口はない。
ただ、お爺さんがわざわざこの話を僕にした事には意味がある。
そしてその意図に、僕は薄々勘付いていた。

「店ぇ畳んで親戚の家さ厄介になる話は、もう随分前からしとった。
 じゃが、和紗の身の置き場が決まらんでな。
 あん子は良ぇ子じゃ。両親を事故で亡くして以来、ワシの店を健気に手伝い続けてくれとる。
 和紗だけは幸せにしてやりたい。
 どうじゃろう、壮介君。あん子を、一緒に東京さ連れて行ってやってくれんか。
 畑仕事やら料理やらは一通りできる子じゃ、都会でも何かしらの働き口はあるじゃろう。
 今までは都会へ1人放り出すのが心配じゃったが、壮介君となら安心じゃ。
 …………頼む。どうか孫の面倒さ、見てやってくなんしょ!!」

お爺さんは哀願しつつ、薄くなった頭をフェルトに擦りつけた。
そんな事をされなくたって、とっくに僕の心は決まっている。
いずれは僕の方こそ、『娘さんを下さい』とお爺さんに頭を下げるつもりだったんだから。

「任せてください。僕が必ず、和紗さんを守ります。
 幸せにします!」

僕はお爺さんを前に、できるだけ強く言い切った。
大袈裟な言葉だとは思わない。これは、僕の本心だ。






こうして僕らは、東京で新生活を送る事になった。
大学入学を期に実家を出た僕は、大学近くのアパートに。和紗はその近くのマンションに。
最初は同棲しようかとも考えたけど、恥ずかしくて言い出せなかった。
お互いの着替えやお風呂上りの姿を日常的に目にするなんて、僕らにはまだ早いように思えたんだ。
今にして思えば、さすがに奥手すぎたけれど。

新生活を始めたばかりの頃は、お互いひたすらに忙しかった。
僕は昼に大学へ通いつつ、学費と生活費を稼ぐべく、受験で一時辞めていたコンビニバイトを再開する。
和紗も、近くの居酒屋でバイトを始めた。
僕らの街には、とにかく居酒屋が多い。
駅近くに巨大な問屋街があるせいで年間を通して人通りが多く、その客を絡めとるかのように、高架下から居酒屋の網が広がっている。
和紗が働き始めたのは、そんな居酒屋のメインストリートから少し離れた、小さな店だ。
決め手は主人である佐野さんの人柄だった。
少し気が弱そうではあるものの、いかにも人が良さそう。和紗は、僕の数十年後みたいって笑ってたっけ。
できれば僕もそこで一緒にバイトしたかったけど、小さな店だから1人雇うのが精一杯らしく、泣く泣く断念した。

新しい生活は、忙しいながらも楽しい。
僕は英児のいない大学でなんとか友達を作り、付き合い始めた。
高校の頃の僕なら、そんな勇気もなかっただろう。でも今は、少し自分に自信が持てている。
眼鏡をコンタクトに替え、美容院へ通うようになって以来、見た目のウケもそう悪くない。
もっともこれは、和紗と並んで歩いていても恥ずかしくないように、とした事なんだけど。
和紗の方は、店の看板娘として、週6日くらいで働いていた。
何しろ可愛くてスタイルがいいから、和紗狙いの客もそこそこ増えているらしい。
お爺さんの言う通り『人見知りしない』和紗は、酔った客からたまにセクハラを受けても、それを冗談っぽくイジり返して場を盛り上げていた。
田舎の出だけあって、明け透けなオヤジの扱いには慣れている。和紗はそう鼻を高くしていた。

そんな生活を続けているうち、また夏がやってくる。
和紗と初めて会ったのも暑い日だった。
それから2年後。僕らは、ようやく本当の意味でお互いを知ることになる。




何日も前から、その日の予定は決まっていた。昼はプール、夜は浴衣を着ての花火大会。
2人でプールに行くのは初めてだから、嫌でも興奮してしまう。
和紗の、水着姿……。
気温が上がるにつれて和紗も薄着が多くなり、そのスタイルの良さを改めて感じていたところだ。
まず、なんといっても胸が大きい。
英字のプリントされたシャツを着ると、胸元の文字だけが歪んでしまうぐらいに。
その一方で腰は細くて、胸の大きさを際立たせる。
胸と腰の落差でシャツに皺が寄っていたりすると、正直目のやり場に困ってしまう。
そんな彼女の水着姿は、どんなだろう。デートを翌日に控えた夜、僕は悶々としながら想像する。
そして、いざ当日。
女子更衣室から現れた実物は…………僕のどんな妄想をも超えていた。

水着はビキニタイプで、プール際で映えるエメラルド系の色だ。
トップスは首後ろで結ぶ、ホルターネックタイプの三角ビキニ。
これは、ただでさえボリュームのある胸がずっしりと強調されて、つい視線が釘付けになる。
ボトムはボトムで、骨盤の辺りにぴったり嵌まっていて、くびれた腰から太腿にかけてのラインを隠さない。
もちろん脚線も丸見えだった。
最近はあえて意識しないようにしてたけど、こうして水着姿を見せられると、もう誤魔化しが利かない。
僕が罪悪感に苛まれながらも、何度となくオカズにしてしまった脚。
田舎の垢抜けない子だったのがウソに思えるぐらい、すらっと伸びた美脚だ。

和紗がその美脚を前後させながら近づいてくるのを、僕はただ呆然と眺めていた。
誰だろう、このモデルみたいな美女は。
どうして近づいてくるんだろう。
あんまりにもじっと見すぎていたから、文句を言いにきたのかな。
そんな事を思わず考えてしまうぐらい、僕とはあまりにも不釣合いだ。
客観的に見ても、和紗は魅力的らしい。
プールサイドにいる色んな異性……よく日焼けしたサーファー風やホスト風の男、家族連れの父親、
そうした女性に耐性のありそうな人達でさえ、ほとんどが和紗を振り返って見ている。
「えへへ、お待たせ!」
その注目の的が、僕の前で笑顔を作るなんて。これは夢だ。夢に違いない。
僕は、和紗のやわらかい手が僕自身の手を握ってくる瞬間まで、ひたすらにそう考えていた。



女の子とプールで遊ぶのは初めてだ。
ビーチボールで遊んだり、ウォータースライダーをしたり、流れるプールで浮き輪に乗った彼女を引っ張ったり……。
それはとても楽しくて、常に大量の水を飲んでいるように、胸がドキドキする体験だった。
そしてふとした瞬間、つい彼女の胸に視線が吸い寄せられてしまう。
メロンが2つ並んだようなそこは、男子の目を引くのに十分すぎる。
和紗は午前中、ずっと屈託なく笑っていたけれど、その視線にはちゃんと気付いていたみたいだ。

「ねぇ、壮介。私の身体、何かついてる?」
昼のプール休憩中、ヤキソバを食べ終えた僕に和紗が言った。
くるりと向けられた背中には何もない。
うなじから胸へと降りるビキニ以外は、ただピンクに近い健康的な肌があるだけだ。
「別に。どこにも何もついてないよ」
「ホント? でも、なんか……周りからすごい視線感じるよ?
 店員さんに選んでもらったんだけど、この水着って、やっぱり変なのかなぁ」
和紗はバスト付近の生地を指で弾きながら言う。

僕には、注目の理由が解っていた。
何だかんだといっても、男は豊満なバストに目を奪われてしまう生き物なんだ。
少なくともEカップはある胸がホルターネックの水着で強調されてたら、それだけで注目されるのに十分。
おまけに和紗はスタイルが良い。くびれた腰とすらっとした脚はモデル並みだ。
髪は背中まで伸ばされた艶々のロングヘアで、顔立ちもすっぴんとは思えないほど可愛い。
これだけの条件が揃っていて、見られない訳がないんだ。
でもそういう細かい理由まではあえて言わず、僕はただシンプルに答える。
「見られるのは、和紗が可愛いからだよ」
僕が笑顔でそう言うと、なぜか和紗は頬を膨らませる。
「む。真剣に聞いてるんだから、冗談やめてよ。
 これだけスタイルが良くて可愛い人がいっぱい居るのに、私なんかが特別注目される訳ないでしょ。
 ……ねぇ、理由わかってるんなら教えてよ。カキ氷おごったげるから!」
拗ねた子供のような顔が目の前にある。
アナウンサーみたいなキレイな笑顔も魅力的だけど、僕はやっぱり、こういう自然な和紗の顔が好きだ。
この広いプール内でも、和紗の生の表情を見られるのは僕だけ。そう思うと、どうしても表情が緩んでしまう。
「うーん。本当に、可愛いからだと思うんだけど」
僕はそう言って頬を掻く。
「またぁ。そんな訳ないって!」
和紗はあくまで納得しない。
さてどうしたものか、と思った瞬間。
「や、オネーサンまじ可愛いっすよ!」
隣のテントから、高校生ぐらいに見える男達が声をかけてきた。
いかにも女子人気が高そうな、筋肉質で日焼けした3人。僕よりも明らかに英児寄りだ。
「そうそう。思わず見ちゃうぐらいカワイイっす!」
他の2人も同じ事を言って、照れたように笑いながらプールに走り出していく。
僕と和紗は、その後姿をみて呆然としていた。
今までなんとなく感じていた第三者からの評価を、はっきりと口に出された瞬間だ。
拗ねたような和紗の顔がみるみる赤くなって、俯く。

しばらくの無言。
こういう時にさっとフォローできない自分が恨めしい。

「………………本当に?」
和紗は上目遣いでそう言った。
「うん。可愛いよ、和紗は」
僕ははっきりと口に出す。すると和紗は、茹ったみたいに腰を抜かした。
そしてそのまま、照れ隠しのようにゴロンと横になる。
「ねぇ、壮介。オイル塗ってよ」
少し聞き取りづらい声。多分、組んだ腕に顔を埋めてるんだろう。
「いいよ」
僕はサンオイルのボトルを手に取る。
でもいざオイルを塗り込む段階になって、僕は息を呑んだ。
そういえば、和紗の身体をじっくりと触るのはこれが初めてだ。
手を繋いだ事はもう何度もあるけど、背中や太腿に触った事はない。
僕は固まったまま、うつ伏せになった和紗の後ろ姿を改めて見つめる。
健康的で血色のいい肌。
芳葉谷にいた頃は、ピンクよりもやや薄茶に近い肌色だったけど、こっちで暮らし始めてから白くなってきたみたいだ。
たぶん本来の彼女は、あんまり日焼けしないタイプなんだろう。
そして、変わったのは肌の色だけじゃない。
スタイルも、こっちで暮らし始めてから明らかに洗練されてきてる。
元々スタイルは良いほうだったけど、畑で雑草採りをやっていた頃は、そこまで腰がくびれてもいなかったはず。
彼女はどんどんキレイになっていく。
それは、彼女自身のため? それとももしかして、僕に見せるため?
「どうしたの?」
和紗の顔が横を向いて、不思議そうに僕を見上げる。
「あ、い、いや! 何でもないよ!」
僕は慌てて、和紗の背中にサンオイルを塗りつけた。
吸い付くようでな肌触り。でも押し込むと、柔らかいゴムみたいな反発がある。
これが、和紗の……そして、“鵜久森さん”の肌なのか。
そう思うと、それだけで僕自身が固くなってきた。もし今和紗が正面を向けば、海パンを盛り上げるものが丸見えだ。
ちょうどシートの横を通った女の子の二人連れが、僕の下半身に気付いてクスッと笑う。
その状況を誤魔化すように、僕は一心にオイルを塗りたくった。
背中から、肩。脇腹。そして太腿。
「んっ、んふっ……ちょっ、くすぐったいよぉ!!」
和紗は横顔で笑いながら身を捩る。
僕はつられて笑いながら、彼女と一緒に居られる幸せをひたすらに噛みしめた。




3時過ぎまでプールで過ごしてから、一度お互い家に帰る。
そして夜は花火大会だ。
生暖かい風の中、浴衣を着て和紗のマンションまで迎えに行く。
のんびり歩いても5分とかからない。
「はーい!」
呼び鈴を押すと、普段より1オクターブ高い余所行きの声がした。
そしてドアが開き、浴衣に身を包んだ和紗が現れる。
僕はまたしても息を呑む事になった。
髪を結って帯をつけた彼女は、昼ともまた雰囲気が違う。
甘味処で割烹着を来ていたせいだろうか、和装がやたらによく馴染んでいる。
薄い化粧のせいで、雰囲気そのものも大人っぽく変わっていた。
どうも彼女は、すごく化粧映えする顔みたいだ。
「わざわざ、ありがと」
そう言って自然に手を繋いでくる彼女は、一足早い花火みたいに眩かった。

電車の中も、それを降りてからの道も、人、人、人。
地元の小規模な花火大会とはいえ、こういう時だけは活気が凄い。
僕らははぐれないように気をつけながら、ようやく屋台の立ち並ぶ会場にまで辿り着いた。
「何が食べたい? 何でも奢るよ」
僕が訊くと、和紗はくるりとした瞳で辺りを見回す。
「えっと、じゃあ……りんご飴」
彼女はそう言って、可愛らしいお菓子を指差した。
でも、僕は見逃さない。今彼女の視線がもっと情熱的に捉えていたのは、別のもの。
例えば、『じゃがバター』や『ステーキ串』。『チヂミ』もかな。
本来彼女は、草食系な僕とは対照的に肉食系だ。
言動だけじゃなく、食べ物の好みも。
本音ではカロリーのある物に惹かれつつも、デート中の女の子として慎ましくしなくては、と思ってるんだろう。
その気持ちは正直嬉しい。でも僕は、彼女に遠慮なんてして欲しくなかった。
「そっか。じゃあ僕は…………なんだか、お腹減っちゃったな」
苦手な演技をしつつ、僕はさっき彼女が興味を示した物を買い漁る。
和紗が目を丸くしているのを横目に見ながら。

「壮介って、そんなに大食いだっけ……?」
僕がどっさりと手に抱えたパックを見て、和紗が問う。
僕はその和紗を観察した。僕を心配しつつも、時々涎を垂らしそうな感じで食べ物を見ている和紗を。
「うーん、調子に乗って買いすぎたかな。良かったら、半分こしようよ」
僕は石段に掛けながら誘う。
和紗はお尻の下に手拭いを敷きながら、隣に腰掛けた。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて貰おうかな」
そう言って柔らかな笑顔を見せる。化粧のせいで、その綺麗な笑顔はいよいよアナウンサーやスチュワーデスみたいだ。
高嶺の花も良いところ。でもすぐにその雰囲気は、いつもの彼女に戻る。
心の底から幸せそうに物を食べる様子は微笑ましい。僕は、そんな彼女の姿が大好きだ。
「美味しいね」
僕自身も、こうして食べる物の美味しさを噛みしめながら言った。
「うん」
和紗は短くそう答えてから、少し黙る。そして、
「…………壮介は、すごいね」
聴こえるかどうかの声でそう呟いた。
僕は一瞬その意味が解らず、そして理解できると、何だか照れ臭くなってしまう。

食べるものを食べると、和紗は普段の彼女に近くなった。
「よーし、やるぞー!!」
浴衣の袖を捲ってスーパーボールすくいに挑んだ彼女は、輝いていた。
早々に網を破った僕とは違い、次々にボールを救っていく。
それは他の客どころか、屋台のおじさんさえも賞賛するものだった。
それだけじゃなく、射的や輪投げでも僕じゃ相手にもならない。
田舎育ちだからか、和紗は体を使う遊び全般がものすごく上手かった。
そうして下町の姉御さながらに屋台を荒らした彼女も、いよいよ花火が始まると、また様子が変わる。

石段に腰掛けた僕へ、和紗は甘えるように寄りかかった。
肘の辺りに胸が当たっている。
空には六連の大玉が鳴り響いていて、心臓の高鳴りをいよいよ煽ってくる。
「私いま、ものすげぇ幸せだぁ……」
花火の轟音の合間に、小さくそう聴こえた。
彼女の素である方言。他の誰にも聴こえてはいないだろう。隣にいる僕にしか。
「僕もだよ」
自然と、その言葉が口をついた。
そして、どちらからともなく顔を見合わせ、そのままの流れで唇を合わせる。
ちょうど空に大きな華が咲いて、僕らの横顔を七色に染めた。






花火が終わった帰り道でも、僕らの火照りは止まらない。
プールでのジリジリとした日焼けが、今でも続いているみたいだ。
周りには、同じく熱を持ったようなカップルが何組もいて、肩を抱きながら脇に並ぶラブホテルへと消えていく。
僕らは、何件かのホテルを俯きながら通り過ぎた。
ホテルの前までくると、2人とも歩く速度が遅くなるから、多分考えは一緒なんだ。でも、勇気が足りない。
僕は勇気を出そう出そうと思ったけど、結局、先に切り出したのは和紗だった。
「ちょっと、歩くのに疲れちゃった。…………休憩してこ」
そう言って彼女は、すぐそばのホテルに目線を送る。
かなりお洒落な感じのホテルだ。見た目だけなら、ちゃんとしたシティホテルにも見える。
「…………そうだね。休んでいこっか」
僕はそう言いながら、自分の顔がものすごく強張っている事に気がついた。
でも、目の前の和紗の顔だって似たようなものだ。
2人してぎこちない動作でホテルに入る。
フロントの脇には、部屋の写真がずらっと並んでいた。部屋ごとに料金も設備も色々だ。
僕と和紗は、そのシステムに圧倒され、とりあえずそこそこの料金の部屋を選ぶ。
「部屋、4階の突き当たり」
愛想の欠片もないフロントの受付は、僕の顔さえ見ようとしない。
でも和紗が視界に入ると、僕と彼女を交互に仰ぎ見た。
やっぱり不釣合いなんだろうか。でも、今はそんな事は忘れよう。男としての自信を持とう。

部屋は広かった。
狭い個室のようなイメージとは全く違って、お洒落なマンションの部屋という感じだ。
洗面所にトイレ、テレビ、冷蔵庫なんかが揃っていて、十分に暮らしていけそう。
普通の家と違う所といえば、アダルトグッズの自販機と、プールのような豪華なバスタブ、そして大きなベッドぐらいか。
「うわぁー、すっごいねぇ!!」
和紗は部屋の豪華さに目を輝かせ、部屋の中を色々に見て回っていた。
好奇心旺盛なその姿は子供みたいだ。それを見ているだけで、思わず僕まで笑顔になってしまう。
でも、和紗がはしゃいでいたのも最初だけ。
横並びでベッドに座ってテレビを見ているうちに、すっかり『そういう雰囲気』になる。

「んっ、んむっ……はうっ」
キスの声が部屋に響く。
花火の時みたいな浅いキスじゃない。舌を深く入れて絡ませる、正真正銘、恋人のキス。
和紗の唾液は甘く感じた。
唇と唇で繋がりあいながら、お互いの浴衣を脱がしていく。
刻一刻と露わになっていく和紗の肌。プールでの水着焼けが妙にいやらしい。
すべて脱がしきるのを待てずに、僕は彼女への愛撫を始めた。
吸い込まれるように掴んだ乳房は、屋台で和紗に渡された水風船とよく似ている。
お湯をたっぷり入れた水風船という感じだ。
「ん、あ……っ」
でも水風船は、揉んだ時にこんな色っぽい声は出さない。
僕はその声に気をよくして、さらに彼女の身体中を知ろうとする。
身体にはシミ一つなかったけれど、ホクロはいくつかあった。
左腋の傍にあるホクロは肉眼でも見やすくて、これと大きな胸を目印にすれば、顔を見なくても彼女だと解りそうな気がする。

「…………はぁっ、ああ、んっ…………ふぁ、ああ、あっ…………!!」
僕の愛撫に対して、和紗は目を細めながら切なそうな声を漏らす。
それは、明らかにこういう刺激に慣れていない人間のする事に思えた。
ひょっとして、僕が初めての相手なんだろうか。
いや、有り得ない。こんなに魅力的な彼女が、高校を卒業するまで誰とも関係を持ってないなんて。
でも、万が一そうなら。
「もしかして、こういう事……初めて?」
僕はしばらく悩んだ末、意を決して尋ねる。
すると和紗は、やっぱり少し間を置いてから、小さく頷いた。
「う、うん……」
その答えを聞いて、僕はよっぽど驚いた顔をしたんだろう。
すぐに和紗は、顔の前で手を振る。
「あ、で、でも、する事は知ってるんだよ。
 ウチみたいな田舎じゃ、田んぼの裏で近所のおじさん達がしてたりとかするんだから。
 そういうの、何回か見てるから、する事は解るんだ」
「あ……そうなんだ」
「そうそう。田舎出身を舐めないでよね!」
大きな胸を張って自信満々な和紗。
でも、次に僕が何気なく漏らした一言で、その表情は一変する。
「最初は痛いって聞くけど、大丈夫なの?」
「………………え?」
虚を突かれた、という感じで固まる彼女。
僕はこの時点で、あやうい空気を感じ取ってしまった。
「いや、最初は大体、処女膜っていうのが破れて、血が出るって…………」
そう補足すると、さっと和紗の顔が青ざめていく。
「ま、膜……やぶれ………………ち、血………………??」
うわ言のように呟き、視線を宙に彷徨わせ始める。
その様子を見て、僕は決断した。このパニック状態じゃ、するのは無理だと。
「や、やっぱり今回はやめよっか。またその気になったら」
僕がそう言って和紗の身体を離そうとした瞬間。
彼女の手が僕の手を掴んだ。
「ダメ!」
「えっ……で、でも、大丈夫なの? 最初って事は、さっき言ったみたいに……」
「だから、だよ。どうせ最初はそうなっちゃうなら、壮介にしてほしい。
 壮介なら、優しくしてくれそうだし…………大好きな壮介となら、我慢できそうだから」
潤んだ瞳で訴えかけてくる和紗。こんな目をされたら、断れる訳がない。
僕もこういう事は初めてで、上手くリードできるかは不安だけど、ここはもうやるしかない。

僕はそれから、もっと熱心に愛撫を続けた。
頭の中の知識を総動員して、女性が“濡れる”ように刺激する。
向かい合ったまま、乳房をひたすらに揉み上げたり。
抱きしめたまま、クリトリスを指で刺激したり。
それを続けるうちに、和紗の息はますます荒くなって、肌には汗が伝い始める。
たぶん興奮してるんだろう。
そのうち和紗の瞳はとろんとして、熱に浮かされたようになった。
「ね、して…………」
その言葉は、普段の彼女のイメージとはあまりにも遠い。改めて、今僕らがしている事の特殊性を感じてしまう。

彼女自身の許しを得て、僕はトランクスから僕自身を解放した。
すでに興奮しきって、ギンギンだ。
「…………っ!!」
和紗が目を見開く。
多分、ここまで勃起した物を間近で見るのは初めてだろう。
そして、それを今から受け入れるんだという事も理解している筈だ。
少し、彼女が可哀想になる。でも、僕は彼女を傷つける為にセックスをするんじゃない。
これは、男女がより深く愛し合うための儀式なんだ。

恥ずかしそうな和紗の太腿に手を掛けて、柔らかく開く。
ごく薄い茂みと、その下に走る綺麗なピンク色の筋が見えた。
本やネットで何度も見たけど、実物の興奮はそんな比じゃない。
特にそれが、大好きな女の子のものなら尚更だ。
僕は大きく深呼吸を繰り返す。このまま突っ走ったら、たぶん心臓が破裂してしまう。
そうして決意を固めてから、僕はローションを手に取った。
少しでも和紗の負担を減らしてくれるよう祈りを込めて、アレに塗りたくる。
これでいよいよ、準備万端だ。
自分の物を片手で掴みながら、ピンクの裂け目に宛がう。
ゴクリ、と和紗の喉を慣らす音が聴こえる。
「じゃ、じゃあ、いくよ…………。痛かったら言ってね」
僕の声は緊張で強張っていた。
「うん……。もし痛くしたら、背中引っ掻くから」
和紗はぎこちない笑みを作りながら言う。
「う……努力します」
僕はつられて苦笑した。

固くなった亀頭部分を肉ビラに割り込ませ、ゆっくりと腰を進める。
亀頭が入り込むまではスムーズで、でもそこからさらに進もうとすると、抵抗が来る。
みっしりと合わさった襞の中を、切り裂いていくような感じだ。
湿り気のある襞がアレに隙間なく纏わりついてきて、僕の方は気持ちいい。
でも、身体の内部を切り裂かれるような和紗はどうなんだろう。ついその心配をしてしまう。
「う、くく……う…………」
和紗は、眉を顰めていた。目を固く閉じて、片手でシーツを掴んでいる。
絶対に痛いんだ。注射が10秒続いたって、あそこまでの反応はきっとしない。
「大丈夫? い、痛くない?」
僕はそう囁きかけた。心配でならない。
もう僕のアレは半分くらい入っている。処女膜という物が破れていてもおかしくない頃だ。
僕の問いかけが聴こえたのか、和紗は薄く目を開く。そこには余裕なんてものは感じられない。
僕は、しまった、と思った。
ひょっとして、この問いかけさえも迷惑なぐらい余裕がないんじゃないかって。
でも和紗は、目の端に涙を湛えたまま、ゆっくりと首を振る。
痛くない、という事なのか。
「ほ、ホントに……?」
「はぁっ、はぁっ…………背中、引っ掻いてないでしょ…………。だから、痛くない。つらく、ないよ…………」
和紗は、息も絶え絶えという様子で囁き返した。
太陽のようにエネルギッシュな彼女が、ここまで疲弊するなんて。
でも実際、彼女の手は、僕の背中を優しく抱きしめているだけだった。
僕は、それに安心する。
そして同時に、僕は堪らなくなった。
和紗の中は、とんでもなく気持ちがいい。うねるように纏わりつく膣壁が、僕の爆発寸前の物を刺激してくる。
動きたい。滅茶苦茶に前後に動いて、プールサイド以来、堪りに堪った興奮を発散したい。
そんな欲望が、頭の中を刺してくる。
「う、動いてもいいかな」
僕は訊いた。もう伺いを立てるのさえ精一杯だ。
「いいよ。好きに動いて」
和紗は、僕を背中ごと抱きしめながら頷いた。
僕はそれに感謝しながら、深く腰を沈める。
高校のクラスメイトにも、大学の知り合いにも、セックスの話ばかりしている奴がいる。
僕はそれを獣みたいだと内心で嫌ってたけど、今ならその気持ちも少しはわかる。
セックスって、気持ちがいい。
他の何もかもがどうでもよくなるぐらいに。脳味噌がドロドロに解けてしまうぐらいに。
パンッ、パンッ、パンッ、と腰を打ち付ける音が繰り返されていた。
よく耳を澄ませば、それに呼応する形で、ローションの攪拌されるぬっちょぐっちょという音もしていた。
僕が、和紗のより深い部分を抉る音。彼女を緩やかに傷つける音。
けれども、至福の音。
「すき…………すきだよ、壮介。壮介と、やっと一つになれた。嬉しい、すごく!!」
和紗も涙を溢しながら、強く僕の体を求めてくれる。
この瞬間、僕らは間違いなく、今までのどの瞬間よりも深くつながり合っていた。






身も心も重ねあった僕らは、充実した気持ちで新しい生活を満喫した。
僕は大学とコンビニバイト、和紗は居酒屋でのバイト。
それをお互い必死にこなしつつ、たまに空いた日が重なればデートする。
そして僕は、和紗の働く居酒屋に客として顔を出すことも多かった。
あくまで、『客として』だけど。
店のアイドルである和紗と僕が恋仲なんて知れたら、余計な面倒が起こりかねない。
だからあくまで、親しい客として遊びに行く。
それも一人でだと気まずいから、大学の友人を連れての事がほとんどだ。

そして、そんな状態が続いてから数ヶ月目のある日。僕はついに、英児をその居酒屋に連れて行った。
「あっ、あの時の!!」
英児は店で働く和紗を見て、すぐに駅前通りで会った時の事を思い出した。
女の顔は忘れない、と豪語しているのは、冗談ではないのかも。
「あっ、どうも!」
和紗も驚いて、とびきりの営業スマイルで頭を下げた。
僕経由で散々話は聞いてたものの、実際に会うのはこれで2回目だ。
居酒屋の主人である佐野さんは、そんな僕らの様子をにこやかに見ていた。
「鵜久森さん、今日の仕事はもう大丈夫だからさ。
 そちらのお二人さん、知り合いなんでしょ? 一緒に飲みなよ」
そう言って、瓶ビールを出してくれる。
僕と和紗の関係を知っている佐野さんは、他に客がいない時、よくこういう気遣いをしてくれた。
和紗はひたすらに恐縮していたものの、佐野さんは柔和な笑顔で、大丈夫、と繰り返す。
和紗のお爺さんもそうだったけど、まるで本当のお爺ちゃんみたいだ。

結局、僕と和紗、そして英児で、初めて酒の席を囲むことになる。
英児とは大学が分かれてからはメール連絡ばかりだったから、本当に嬉しい。
そしてこの日僕は、改めて英児の凄さを思い出す事になった。
空気を読む力が、完全に僕とは別格だ。
僕や和紗の望んだ事を、まさにドンピシャのタイミングでやってくれる事多数。
それどころか、一見何気なさそうな行動が実は重要で、数分遅れでやっと彼の行動の意味が理解できたりもする。
僕も和紗も、その手際の良さには感心しきりだった。
「や、こういう酒の席に慣れてるだけだって。慣れだよ慣れ」
本人はそう謙遜するけど、酒を飲めるようになって一年と経たずにここまで慣れるなんて、僕には無理だ。
単純な経験値だけじゃなく、それを最大限生かす頭の回転と、要領の良さ。
英児はそれを並外れて持っていて、おまけにそれを鼻に掛けない。
モテて当然だと改めて思う。同性の僕でさえ、男として惚れてしまうぐらいなんだから。
英児がいると話も弾んだ。
そしてその中で、話は間違い電話の事になる。和紗が僕の携帯を弄って、英児に電話してしまった事件だ。
思えばあの時すでに、僕ら3人の集まる運命は決まってたのかも。
そんな風に思えてしまう。

楽しい時間はすぐに過ぎて、あっという間に夜が更ける。
治安が良いともいえない飲み屋街だ。和紗がいる状態であまり遅くなってもと、飲みはお開きになる。
そして、帰り際に英児とトイレに立った時の会話が忘れられない。
「あの子、すげーいい子じゃん。大事にしろよ」
英児は赤ら顔でそう言ったあと、大きくしゃっくりをする。
そして笑う僕をしばらく眺めてから、再び口を開いた。
「なんつーか、アレだ。ホッとしたよ」
「えっ?」
言葉の意図が解らず、僕は訊き返す。英児の口の端が吊りあがった。
「こう言うのも何だけどよ。高校の頃のお前って、俺が中心のグループに寄ってくるばっかだったじゃんか」
まったくもってその通りだ。
僕の記憶にある限り、英児は常に人の輪の中心にいて、僕はお情けでその輪の中心近くに寄せてもらうだけだった。
高校までの僕のコミュニケーションはほぼすべて、そうして『経験させてもらった』ものだ。
「でも今日はその逆でよ。お前が中心になって回ってる所に、俺が呼ばれたんだぜ?
 なんつーかよ……しばらく見ねぇうちに、デカくなったよなぁ、お前も」
僕の肩をポンポンと叩きながら笑う英児。
相変わらず、同い年なのに背丈も風格も違いすぎて、いくつか年上の兄みたいだ。
でも、そんな英児に褒めて貰えるのは本当に嬉しい。
「君のおかげだよ」
僕は本心でそう言った。
変わったきっかけは和紗で、そのきっかけを掴むまで僕を守ってくれたのが英児だ。どっちがいなくても、今の僕はない。
「ん? ああ……ま、そーかもな!!」
英児はそう言っておどけてみせる。
この時には僕も酔いが回っていて、世界がゆっくりと回転するようだった。
元々酒が強いほうでもないのに、気をよくして呑み過ぎたみたいだ。
ふらつく僕を、英児ががっしりと抱きとめる。
「おら、大丈夫かよ相棒? 夜道であの子を送ってやるのはお前の役目だぜ?
 今は、お前の春だ。お前の時代だ!!!」
僕の肩を抱きながら、腹からの大声で宣言する英児。
その言葉を聞くうち、本当に今が僕の時代のように思えてくる。
和紗と英児――僕にとって最も大きな存在である2人から、こんなにも評価される日が来るなんて。笑いが止まらない。


この夜僕は、間違いなく幸せの絶頂にいた。



                            続く


04:16:15
※ ここでついに恋仲になります。ここまではまだ非エロ。


鵜久森さんから初めての手紙が届いたのは、住所を教えた翌週だった。
『篠弥 壮介 様』
そう書かれた宛名書きは、意外なほど丁寧だ。
中の便箋に並ぶ文字も、同じく一字一字心を込めて書かれている。
「お久し振りです、鵜久森です。お元気にしていらっしゃいますか」
出だしからして、いきなり文字が小さい。罫線に触れる事を怖がるかのように、どの字も小さく纏まっている。
普段彼女の話す声は、森に響くほど大きいのに。
顔を強張らせ、背筋を伸ばしたままカチカチになって書いている姿が目に浮かぶ。
それはとても微笑ましく、可愛らしい。
手紙には、まだ都会へ行ける日が決まっていない事の謝罪と、向こうでの暮らしぶりが書かれていた。
同封された写真には、畦道で子供とじゃれる彼女の姿が収められていた。
いい笑顔だ。子供が好きなんだな、という事がすごく伝わってくる。将来は間違いなく良い母親になるはずだ。
写真を眺めがらそんな事を考えるうちに、何故か心臓が激しく脈打つ。

 ――彼女をいつか『お母さん』にするのは、一体どこの誰なんだろう。

向こうの高校の同級生? それとも、人生経験豊かな年上の人?
魅力的な彼女の周りには、これまでもこれからも、色々な異性が集まってくるはずだ。
そういう人達を掻き分けて、僕だけが抜きん出るイメージが湧かない。自信がない。
いつもだったら『どうせ僕なんて』と諦めるところなのに、なぜか今回ばかりはそうもいかなかった。
胸が苦しくなってくる。
これが英児だったら、「ライバルが何人いようが、俺がアイツを振り向かせてやる」って自信たっぷりに言い切るんだろう。
やっぱり僕の目指すべきは、フワフワとした僕らしさじゃなく、英児のようなタイプなんじゃないか。
英児のようにグイグイ行かなければ、彼女に存在をアピールできないんじゃないか。
僕は一晩中そんな事を考え、悶々とする。
そして葛藤とはまた別に、鵜久森さんの事を考えるたび、つい“分身”が硬くなってしまうのが嫌だ。
写真に写った、半ズボン姿の鵜久森さん。その健康的な脚を見ているうちに、思春期の衝動が抑えきれなくなる。
違う、違うんだ。僕は彼女を、そういう対象として見てる訳じゃない!
心ではそう思いつつも、手の上下が止まらない。
結局僕は、写真の彼女に見つめられながら呻きを上げ、ひどい罪悪感に苛まれる事になった。

ひと夏の間に、僕らはどれだけの手紙を交換しあっただろう。
メール主体の時代に文通なんて、周りからすれば笑いの種かもしれない。
でも僕は、鵜久森さんの一生懸命に書いた字が好きだ。
僕だけのために書かれた一字一字を追うたびに、自分に価値を見出せるような気がした。
最低でも『彼女の注いでくれた熱意』の分だけは、僕にも存在価値があるんだと。
彼女自身にそんなつもりが無かったとしても、結果として僕は救われた。
だから勝手ながらに恩を返す。
少しでも彼女を笑顔にすること。いつの間にか、それが僕の行動指針になっていた。
手紙の中でも、実際に会っての会話でも、さりげなくやる作業の手伝いでも。とにかく彼女を笑顔にしようと頑張る。
もっとも、そう意識しているのは僕だけで、客観的に見れば相変わらずの控えめな態度なのかもしれないけど。
最悪、彼女の一番になれなくてもいい。便利な道具で終わったっていい。
これが、僕の精一杯の恩返しなんだから。





最初の約束から2ヵ月あまり。
鵜久森さんがとうとう都会に来る事になったのは、9月の初め頃だ。
まだまだ残暑は厳しくて、駅前でただ立っているだけでも汗ばんでしまう。
鵜久森さんはまだ現れない。
『大丈夫大丈夫、1人で行けっがら!』
彼女はそう繰り返していたけど、やっぱり一緒に来たほうが良かったのかな。
そんな事を考えている最中、ホームからの階段を駆け下りてくる女の子が目に入った。
周囲をキョロキョロ見回している所からして、急いでいるというよりは、周りの人間の歩くスピードに翻弄されているんだろう。
肩甲骨辺りまでの三つ編みに、青いタイ付きの白ブラウス、膝丈のサロペットスカート。
その垢抜けない姿は、都会の駅ナカで正直少し浮いている。
僕はその時点で、豆粒ほどにしか見えないその人物の正体に気付いていた。

改札に近づくにつれ、彼女はいよいよ都会の人間のスピードに圧倒される事になる。
人の波に流されるまま、よりにもよってICカード専用改札に押し込まれてしまい、切符を片手にオロオロとしはじめる。
「鵜久森さぁーん!!」
僕は見かねて叫んだけど、人でごった返す週末のターミナル駅で、上手く声が届くはずもない。
スイカ専用改札に恐る恐る切手を押し付け、表情いっぱいに疑問符を浮かべる鵜久森さん。
その顔は、後ろの人間の罵倒でみるみる泣き顔に変わり、見かねた駅員が飛んでくる。
苦笑しながら改札を通す駅員に、お下げ頭が何度も深く下げられた。
「鵜久森さんっ!!」
フラフラと人ごみから抜けた彼女に、僕はもう一度呼びかけた。
さすがに今度は聴こえたみたいで、涙目の顔が上げられる。
そして僕の姿を認識した瞬間、『救いの光を見た』とでも言いたげな表情になって駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなんしょ、遅ぐなっで…………」
小さく肩を竦めながら囁く鵜久森さん。まるで借りてきた猫だ。
あの、森に響くような声で喋っていた子と同じ人物とは思えない。
でも、それも解る。あの昭和のような街から、いきなりこの大繁華街に出てきたら戸惑いもするだろう。
そして、そんな彼女をエスコートできるのは、今この場にいる僕しかいない。
「行こう、鵜久森さん。待ちに待った東京観光だよ」
僕がそう言うと、鵜久森さんは微笑んだ。不安と期待が半分ずつ入り混じったような、柔らかい笑顔で。

そこからいくつか名所を案内したものの、鵜久森さんはあまり喋らない。
驚いたり笑ったりはするけれども、なぜか言葉を発することは避けているみたいだ。
「興奮して方言出たら、恥ずかしいもん……」
僕が理由を尋ねると、鵜久森さんはそう囁いてきた。
今は比較的綺麗な標準語だ。でも確かに、万が一にでも方言を聞かれるのは怖いんだろう。
僕も他人の目を気にしやすい方だから、その気持ちはよく解る。
「そっか」
僕は答えながら、精一杯の優しい表情を意識した。
何一つだって彼女を責める気は無い。少しでも安心して欲しい。

でも実際のところ、現状は安心できる環境とは程遠かった。
何しろ人が多すぎる。大通りは勿論の事、脇道にまで若者であふれているぐらいだ。
「人が多いね。はぐれないようにしなきゃ」
僕は理由を説明しながら、真横を歩く鵜久森さんの方に手を伸ばす。
「そだね。ここで壮介とはぐれたら、戻って来れなくなっちゃう……」
鵜久森さんもそう言いながら、こっちに手を伸ばしてくれる。
でもあまりにも恥ずかしくて、お互いに視線を合わせられない。
それぞれ逆方向に視線を投げ出したまま、片手で空しく宙を掻く。
そのうち一瞬だけ手の甲が触れ合うけれど、2人ともがビクッとして思わず手を引っ込めてしまう。
そしてまた、手がフラフラ。
このままじゃ埒が明かない。ここは男の僕が勇気を出さないと。
僕はそう決心して大きく深呼吸し、ゆっくりと鵜久森さんの方を見る。
でも、間が悪い。ちょうど鵜久森さんもこっちを向くところで、まともに向き合ってしまう。
「………………っ!!」
僕らは数秒見つめあい、堪らずに顔を伏せた。
ゴクッと喉を鳴らす音が響く。音の主は僕か、それとも鵜久森さんか。
バカみたいだ。何を変に意識してるんだ。これはデートでも何でもなく、ただ女友達に観光案内をしてるだけなのに。
そうだ、鵜久森さんは友達なんだ。芳葉谷じゃ、あんなに自然に話をする仲じゃないか。
まずい。息が上がってきた。動悸もひどくて、心臓が口から飛び出してきそうだ。

しばらくの無言。
数十分か、それともほんの数分だけなのか。
さすがに居心地が悪く、僕は何か会話のきっかけを探る。
穴の空くぐらい読み込んだ、『女の子との恋愛マニュアル』には何とあったっけ。
そうだ。こういう場合はまず、女の子の見た目の変化に気付いてあげるのが第一歩らしい。
瞳を真横に動かして、鵜久森さんを観察する。
かろうじて見えるのは、鎖骨辺りに揺れる三つ編み。
初めて会った時は肩までで切り揃えられていたんだから、この数ヶ月で結構伸びている。
「そういえば鵜久森さん、髪長くなったね。伸ばしてるの?」
僕がそう話しかけると、鵜久森さんは弾けるように僕の方を見上げた。
やっぱり見た目の変化を指摘するのは有効なのかな。
「うん。なんでだと思う?」
逆に質問が来た。このパターンへの返しの例もマニュアルにあったけど、この土壇場で思い出せない。
「え? えーっと、うーん…………そういう気分だから?」
とりあえず、当たり障りのなさそうな答えを選ぶ。
ところが、どうも地雷だったみたいだ。鵜久森さんの顔が、見る見る怒りに変わっていく。
ボカッと向こう脛を蹴られた。
「痛い!」
「もーっ、なんでそういう大事な事忘れっがなぁ!!」
若干方言じみたイントネーションで不満を漏らす鵜久森さん。
どうやら怒らせてしまったみたいだ。彼女を少しでも笑顔にするという目標が、早くも雲行き怪しくなってきた。

ただの気まぐれ、とも取れる言い方が癇に障ったのか。それとももっと根本的な違いなんだろうか。
歩くたびジンとくる脛の痛みを感じつつ、僕は悩む。
道端に出ている漬物の試食を2人で摘みつつも、じっくりと。
「私、ナスの浅漬けって好き。壮介は?」
鵜久森さんは、不意にそう言いながら僕を見つめた。
その表情に怒りの色はない。でも軽い質問をしたにしては、目がやけに真剣すぎる。
まるで、何かに気付け気付けと訴えているかのように。
ひょっとして、これも大事な質問なんだろうか。

漬物は何が好き?
…………何が、好き…………?

「あっ!」
僕はそこで、唐突に思い出した。
店の縁側で話している時、鵜久森さんから女の子のタイプを訊かれて、長い黒髪の子って答えた事があったっけ。
いや……いやでも、まさか。あんなのは雑談の中で、ほんの冗談っぽく言われただけじゃないか。
でも今までの流れからすると、どうもこれが臭い。
「ん? 何か気付いた?」
意地悪っぽく顔を覗き込んでくる鵜久森さんに対して、僕は半信半疑ながら口を開く。
「まさか、だけど…………僕が、長い髪の子が好きだ、って言ったから…………?」
心中には不安しかなかった。
もし不正解だったら、こんなに恥ずかしい事はない。
でも、どうやらアウトだ。鵜久森さんは僕を見つめながら口の端を下げ、はーっと溜め息を吐く。
背中にどっと冷や汗が噴き出した。顔が真っ赤になっていくのも解った。
見知らぬ漬物屋のおばちゃん達は、そんな僕の変化を可笑しそうに見守っている。
もう限界だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
手の甲でズレた眼鏡の位置を直しながら、そう観念した時だ。鵜久森さんのピンク色の唇が動いた。
「…………正ー解っ!」
「へっ?」
言葉の意味が理解できない。
何? 正解、だって? 当たってたのか。じゃあ、さっきの溜め息は?
「あらー、オメデト。じゃあこの可愛い彼に、漬物1個プレゼントしちゃおうねぇ!」
おばちゃん達は満面の笑顔で、ビニール袋に茄子の浅漬けを1本入れて渡してくる。
「あ、ありがとうございます……でもあの、意味がわからないんですけど」
僕が言うと、周り中がニタッと笑顔になる。なんだろう、その妙な連帯感は。
そもそもおばちゃん達は、事の発端すら知らないはずなのに。

「まったく、思い出すのに20分もかかってさー。せっかく毎日手入れしてるのに」
三つ編みを弄りながら口を尖らせる鵜久森さん。
確かに、彼女の黒髪はすごく綺麗だ。
ともするとシャンプーのCMに呼ばれるんじゃないかってぐらい艶々で、頭頂部近くには光の輪が揺れている。
初めて会った時は、よく日に焼けて先っぽが茶色っぽくなってたっていうのに。
なるほど、よくよく考えればすごい変化だ。
いくら代謝の高い高校生だからって、そこまで髪質を変えるのが簡単じゃないって事は僕にも解る。
その必死の努力に気付いてもらえなかったのなら、怒って当然だ。
「ごめん、気付くのが遅れて!」
僕は心底から頭を下げる。頭上で、鵜久森さんが息を呑んだ気配がする。
「えっ! えっと、ウソウソ、怒ってないよ。冗談冗談。顔上げて?」
その言葉通りに顔を上げると、両手をヒラヒラとはためかせる焦り顔の彼女がいた。
うーん、コミュニケーションって難しい。怒ってる風だったけど、ここまでやる程でもなかったみたいだ。
「優しい彼氏さんねぇ」
おばちゃんの1人が、鵜久森さんにそう耳打ちしているのが聴こえた。
よく意味が解らないけど、鵜久森さんは、その言葉で照れ顔になってしまう。
「ほ、ほら、行こう!」
そう言いながら鵜久森さんは歩き出した。ごく自然に僕の手を掴んで。
あ、と声を上げそうになったけど、すんでの所で押し殺す。

ようやく繋げた鵜久森さんの手は、やわらかかった。



漬物屋のある通りを抜け、一旦駅前に戻りながら、さぁ次はどこへ行こうかと考えていた時だ。
道の向こうから、一組のカップルが歩いてきた。
男女共に長身でスタイルが良く、ファッションもこの若者の街でなお際立っている。
実際、道行く人達は皆、男女を問わずその彼らを振り返っていた。
そのカップルの男の方を、僕はよく知っている。
彼も僕に気付き、昨日見たばかりの爽やかな笑顔で手を上げる。
でも、その動作が途中で止まった。
僕の横を見て、目を見開いたまま硬直している。
「お……おいおいお前、女連れかよ!?」
通りに響き渡るほどの声で、僕の親友……英児は叫んだ。その快活な感じは、鵜久森さんとの初対面を思い出す。
「い、いや、別に彼女ってワケじゃ…………」
僕は照れながらそう答えた。でも英児の視線の先に気付いて言葉が途切れる。
そうだった。僕と鵜久森さんは今、しっかりと手を繋いでいたんだ。
英児が面白そうに口元を緩める。彼の彫りの深い顔立ちでそれをすると、まるでハリウッドスターのスマイルだ。
「隠すなって、水臭ぇなあ!」
英児は大声でそう言いながら僕に歩みより、ポンと肩を叩いた。
「……可愛い子じゃんか。やったな」
耳元でボソッと囁く口調は、今までの軽口とは打って変わって優しい。
こういう事をさらっとやるから、英児は周り中の男女を骨抜きにしてしまうんだ。
ただ、英児はいつも通り優しくても、連れ合いまでそうとは限らない。

「ちょっとエイジー、何なのそいつ?」
パンプスを鳴らしながら、カップルの女性の方が近づいてくる。
アイドルだと言われればそのまま信じられるぐらい、スタイルも顔立ちも日常離れした人だ。
身に纏ったグリーンのシフォンドレスは、彼女のあらゆる魅力を最大限に引き出していて、ファッションの真髄を見せられた気がする。
視界の端で、鵜久森さんが俯くのが見えた。
「悪ぃ悪ぃ、一番のダチなんだわコイツ」
英児は何も憚ることなくそう言い切り、上手くやれよ、と言い残して歩き去る。
「……あれがダチって、マジ? 何か冴えないヤツ。おまけに、さぁ……」
英児の彼女の声が、徐々に遠ざかりながらも聴こえている。
最後の部分はよく聴き取れなかった。
でも英児がポカッと彼女の頭を叩いたこと、その直後に彼女が鵜久森さんに向けた恨めしそうな視線で、大体の想像はつく。

「やっぱり……変かな、この格好。都会の人には、浮いて見えちゃうのかな」
その声に横を向くと、そこには居心地の悪そうな笑みを浮かべる鵜久森さんがいた。
そして周囲の視線に怯えるように、僕と繋いでいた左手を離す。
僕はそれを見ながら、いけない、と感じた。
確かに鵜久森さんの格好は、この都会では野暮ったい。
でもタイ付きのブラウスにスカートなんて、あの山の中で普段着にする訳がないんだ。
今日の為に、わざわざ買いに行ったんだろう。
都会の知識も碌にない中で、精一杯のお洒落をしようと悩んで、不安になりつつも服を選ぶ彼女。
その姿を想像すると、たまらない。
気付けば僕は、右手で離れかけた鵜久森さんの手を掴み、左手で肩を抱き寄せていた。
「そんな事、あるもんか!」
まっすぐ瞳を覗きこみながら宣言する。
いつもなら周りの視線を気にする所だけど、今は自分の恥より、鵜久森さんの心のケアが最優先だ。
「大丈夫。可愛いよ…………すごく」
僕は説得するように訴えかけた。こんなにハッキリと声を出すのはいつ以来だろう。
鵜久森さんは言葉を失っているみたいだ。
湖のように澄んだ瞳に、必死な僕の顔が映り込んでいる。
気まずい沈黙。
流石にわざとらしすぎたか。というより、多分気持ち悪いな。
僕がそう思い至って手を離そうとした、まさにその瞬間。鵜久森さんの視線が右下に逸れる。
「………………あ、ありがとう…………」
茹ったように顔を赤くさせながら、彼女は小さく呟いた。


気を遣った後っていうのは、どうしてこんなにも照れくさいんだろう。
僕らはしばらく無言のまま、人が少なくなりかけた通りを歩き続けた。
僕が先を歩き、彼女が後ろから少し離れてついてくる。
手は繋げず、声をかけるのはかろうじて自然なぐらいの距離。
「壮介」
ふと、鵜久森さんの声がした。
「ん?」
振り返ってみると、彼女は何故かそ知らぬ顔。
「なんでもない。呼んだだけ」
視線を横向けながらそう言う彼女。不思議だけど、何もないなら別にいいか。
そう思ってまた少しいくと、
「壮介」
また呼ばれる。
「なに?」
「なーんでもない」
デジャヴというには、あまりにも直近すぎる繰り返し。
変なの。僕はそう思いつつも、また歩き出す。
いつの間にか僕らは、自然公園の入り口にまで来ていたみたいだ。
背の高い木々に、土むき出しの道、遠くに流れる沢。僕らが出会った山道を思い出す。
違いといえば、入り口近くに大きな噴水があることぐらいか。
「壮介」
噴水の近くまで行くと、またしても鵜久森さんが呼びかけてくる。
「何だよ、さっきから……」
さすがにしつこいと思っての振り返り際。今度は別の言葉が続く。

「 大好き 」

その言葉が僕の耳に入った次の瞬間、噴水が飛沫を上げながら噴き上がる。
それはまるで、僕の心の高鳴りを象徴しているかのようだった。
頭はまだ言葉の意味を理解していない。でも、先に心が理解してる。こんな事もあるんだ。
僕は想いに応えようと、大きく息を吸い込んだ。
「……………………ぼ、ぼ、僕もでよ!!」
直後、硬直する。
噛んだ。よりによって、今か。
鵜久森さんは、一瞬呆気に取られたような顔をし、徐々に頬を引き攣らせる。
そして2秒後、お腹を抱えて笑い出した。
「ぶっ、あっはっはっはっは!! もー、笑わせないでよ! なんでそこで噛むの!?」
甘味処でよく見せていた、屈託のない笑顔だ。
その顔を前にして、今度は僕が、茹ったように頬を赤らめる番だった。






気付けば僕らは、しっかりと手を繋ぎあって歩いていた。
照れくささはない。ただ、お互いが横にいるだけで、ぞわぞわと弱い電流のようなむず痒さが走るだけだ。
多分、これが『幸せ』っていうものなんだろう。
繋いだ手の中にしっとりと汗を掻く。僕のものか、鵜久森さん……いや、和紗のものか。
どっちでもいい。その汗を馴染ませるかのように、手の握りを強くする。
欲張って指まで絡ませてみるけど、抵抗はなかった。
ただ小指が手の横側をくりくりと引っかくような、小さな悪戯ならあったけれども。

公園を抜ければ、また人通りの多い道に出る。
道の脇には小さなクレープ屋があった。ちょうど小腹も空いてきた頃で、寄る事にする。
「和紗は、何が食べたい?」
さらっと名前呼びをしてみると、和紗は一瞬驚いた顔をして、それから笑う。
「壮介と同じので」
「いいの? ホントに僕の好みでいくよ?」
「オッケー」
合意が得られたので、僕は宣言通り、メニューを見た瞬間から心奪われていた『いちごスペシャル』を注文する。
「いちご好きなの?」
「うん。イチゴ単体だとそうでもないけど、こういうデザートに乗ってると妙に惹かれるんだ」
和紗の質問に、律儀に答えた直後。彼女は意地の悪い笑みを見せる。
「私もでよ」
「うぐっ……!!」
さっきの噛み間違いを思い出して、たちまち顔が赤くなる。
「もしかして、それが言いたいから訊いたの?」
僕がそう訊ねても、鵜久森さんはくつくつと笑い続けるばかりだ。
「あいよ、お待たせ。仲良しのお二人さん!」
クレープ屋の店員が、同じく笑いながら出来立てのクレープを差し出してくる。
それを受け取った和紗は、笑いすぎて余裕がなかったんだろう。
「あんがとなし!!」
あれだけ恐れていた方言を、思いっきり響かせてしまう。
店主も、ちょうど近くを通りかかった女の子達も、キョトンとした顔になる。
その中で、和紗だけが頬を真っ赤に染めていた。
どうやら今日の僕らは、互い違いに茹でダコになる運命らしい。


お互いの好意を確かめ合ったこの日は、僕らにとって生涯忘れられない1日になるはずだ。
そして、幸せはこれから始まる。
僕らはまだ17歳。ようやく、自分自身の未来が拓けはじめる歳なんだから。



                            続く


23:11:11
※NTR連載小説、二話。今回もエロなし。少しずつ恋愛を積み上げていっています


「ソースケお前、女できたのか?」
案の定、週明けの学校で英児はそう言ってきた。
僕からの着信で女の子の声が聴こえてきたんだから、当然といえば当然の反応だ。
「そうじゃないよ。あれはちょっと、知り合った女の人が間違っただけで……」
僕は正直に答える。
彼女扱いなんてとんでもない。僕が彼女……鵜久森さんに一方的な好意を抱いているだけなんだから
でも英児は、その僕の答えに愉快そうな笑みを浮かべる。
「ンな事言って実は、俺の知らねぇとこでイチャついてたんだろ? どこまでいったんだよ、オラ白状しろ!!」
僕の首に腕を回して、絞めるフリをする英児。廊下を通りかかった女子が笑う。
普段通りの日常。でもそれが違って思えるのは、僕自身の心境が変わったせいだろうか。
また鵜久森さんの所に遊びに行こう。
そう思えば、要領の悪さからよく怒鳴られるコンビニでのバイトさえ、それほど苦には感じなかった。
東京から2時間という電車代は、高校生の身にはけして安くない。
それでも僕は必死にバイトをこなし、何とか旅費を捻出しては、芳葉谷に足を運んだ。





夏になったら忙しくなる。
鵜久森さんのその言葉通り、2度目に訪れた6月中旬は、まさに繁忙期という風だった。
閑古鳥の鳴いていたあの甘味処が一転、家族連れや老夫婦でごった返している。
10分ほど時間を潰してようやく、1人分の席に滑り込めるという具合だ。
「はぁっ」
着席と同時に溜め息が漏れた。
木という木でセミがうるさく鳴き、照りつける太陽は何もかもを真っ白に染めていて、喉はもうカラカラだ。
「おわいなはんしょ。よぐ来らったなし」
ふと、聞き覚えのある声が降ってきた。見上げると、割烹着に身を包んだ女の子がいる。
ピンクと薄茶色のちょうど間のような、健康的な肌色。くるくるとした瞳。
鵜久森さんだ。
以前は肩に遊んでいた黒髪が、三角巾から少しはみ出る2つ結びになっていて、これがまたとてつもなく可愛い。
「ご注文は?」
メニューを片手に、にっこりと笑って告げる鵜久森さん。
その笑顔は変に整いすぎていて、明らかに営業スマイルといった風だ。
僕はその笑顔を見た瞬間、ああ、そうかと理解した。彼女にとって僕は、あくまで客の一人に過ぎないんだ。
毎日何十人もの相手をする商売で、一人一人の顔をすべて覚えている筈がない。僕のように凡庸な人間なら尚更だ。
一ヶ月前に少し話をした程度で、特別な一人になれた気でいた僕がバカだったんだ。

「団子セットを……下さい」
僕はせめて気落ちを悟られまいと、なるべくはっきりした口調で注文する。
「あいよ~!」
そう朗らかに返事をして、店の奥へ消える鵜久森さん。僕はその後姿を見送った。
これが彼女の見納めだ。数多の客の一人として通うには、この町は遠すぎる。
淡い恋だった。でも、これで終わり。まったく僕らしい最後じゃないか。
そんな事を考えるうち、涙が出そうになる。僕は無意識に唇を噛んで涙を堪えた。
どうしてだろう。泣きたいなら泣けばいいじゃないか。
僕はいつもこうだ。いつも他人の目ばかり気にして、素直な感情を表に出せない。
悪い感情を溜めれば、その分だけ心が濁っていくと知っているのに。
「はぁっ……」
二度目の溜め息。さっきと違って、今度は深刻だ。
せっかく見えたオアシスが、ただの蜃気楼だったと気付いての溜め息なんだから。
僕がいよいよ沈痛な気持ちになった、その時だ。
カン、という音で、僕のテーブルに白い皿が置かれる。草餅とみたらしの団子セット。
前に見た時と同じく、扇風機の風に煽られて美味しそうな湯気が靡いている。
そうだ、これだけは僕を裏切らない。はるばるこの団子を食べに来たと思って、高い電車賃にも納得しよう。
そう思いながら皿に注意を向けると、何だろう、何か違和感がある。
みたらし団子の餡……それが変に飛び散って、文字のようになっている。
1文字目は、『ひ』だ。
2文字目は間違いなく『さ』、3文字目は多分『し』。
残る2つは、『ぶ』と、――『り』。

ひ  さ  し  ぶ  り  ………… ?

僕は、はっとして再び上を見上げた。
そこには、口の端を吊り上げた、あの屈託のない笑顔がある。
「なじょした?」
ピンクの唇が動いて、音が発された直後。僕の瞳から涙が伝い落ちる。
何だよ、こういう時は我慢するんじゃなかったのか、僕は。
隣にいたおばあちゃんが変に心配して、ハンカチなんて渡してきたじゃないか。
だから嫌なんだ。他人に変に気を遣わせるぐらいなら、僕の中だけにしまいこんでおきたい。
ああ。でも、見知らぬおばあちゃんのこのハンカチは、やけに触り心地がいい。
とても…………気持ちがいい。



昼時を過ぎて人が減り、ようやく人心地ついたという感じの店内。
僕と鵜久森さんは、一ヶ月前と同じように縁側に掛けて茶を啜っていた。
鵜久森さんはさっきから何も話さず、ただニヤニヤと僕の顔を眺めている。
さすがに何なんだ、と言ってみようと思った矢先、ついに鵜久森さんが口を開く。
「さっきは、余所余所しいなーって思ったっぺ?」
まさに核心。僕はギクリとする。
「え、そんな」
「ウソ、顔に書いてあっだ。解ぇやすいなぁ壮介は!」
けらけらと笑う鵜久森さん。しかもさらっと呼び捨てだ。彼女がそこまで踏み込んでくるなら、僕だって。
「そういえば、鵜久森さんって……何歳なんですか?」
女性に年齢を聞くのがタブーとは知っている。でもそれは、ある程度歳がいっている人の場合だ。
この間制服を着ていた鵜久森さん相手に、恐れる必要はない。多分。
「歳? 17だけんじょ?」
ビンゴ。まさかの同い年だ。
「えっ……僕もです」
そう答えると、鵜久森さんは目を輝かせて、まじに、と叫んだ。
「やけに嬉しそうですね」
「はぁー、そりゃあ! まさが都会育ちの同じ年なんで!!」
あまりにも嬉しそうな鵜久森さんを見ていると、僕まで気分が昂ぶってくる。
「ふふ。そういえばそうですね」
「あ。だったら壮介。これからは敬語禁止!」
鵜久森さんは突然、僕に指を突きつけて宣言した。
「……へ?」
「タメ口でいいべ。同い年に敬語なんてされっと、変に気ぃ遣っちまうべ」
「え、えーっと……う、うん」
気を遣う。確かにその通りだ。
敬語からタメ口に切り替えるタイミングをいつも迷う僕だけど、相手が良いというなら断る理由もない。
むしろ、これでぐっと距離が近くなったようで、とても嬉しい。
思わず僕が笑うと、鵜久森さんも輝かんばかりの笑顔をくれた。

「おお、おお、仲がええこっだ」
お爺さんが店の奥から、野菜の入った籠を持って現れる。
野菜籠は、僕と鵜久森さんの座る縁側の椅子へ、白いタオルを敷いた上で乗せられた。
「裏の畑で採れたばっかの野菜だ。遠慮のぅ、おわいなんしょ」
塩の瓶を僕に渡しながら、にこにこと告げるお爺さん。
籠の中の野菜は、形こそ変わっているけれど、どれも色が濃くて美味しそうだ。
実際に齧ってみると、ほのかに甘くて、味にぼやけた所がない。どれもこれも塩だけで十分だ。
こんな野菜をタダで食べられるなんて、都会じゃありえない。
コリリと音を立てて胡瓜を齧りながら、同時に僕は、これでもかという程の幸せを噛みしめる。

それから僕と鵜久森さんは、また何時間か話をした。
前と違うのは、お互いにつっかえながらだという点。
僕は、可愛い女の子と間近で話すとなると、どうしても緊張して敬語が出てしまう。
鵜久森さんは、少しずつではあるけれども、共通語で話そうとする。
その結果のギクシャクだ。
特に鵜久森さんは、僕との会話を通して必死に共通語を学ぼうとしているらしかった。
とにかく顔が近い。
ふと気がつくと、鵜久森さんのくるりとした瞳が僕のすぐ鼻先にまで迫ってきていて、心臓が飛び出しそうになる。
鼻先にかかる鵜久森さんの息は、何故だかほのかに甘く感じた。



受け入れられている。僕という存在が、ちゃんと認められている。
そう判ってからは、電車に揺られる2時間あまりさえ苦にはならなくなった。
3度目に訪れたのは6月最後の週。
季節はもう完全に夏で、圧倒的な質感を持つ入道雲が、駅舎から出た僕を出迎える。
まだ10時前という事もあって、甘味処の客はまばらだった。
僕が姿を現した瞬間、お爺さんは笑いながら裏の畑を指し示す。
どうやら、僕の目当てが鵜久森さんである事はバレているらしい。
忠告通り甘味処の裏に周ると、やはり鵜久森さんはそこにいた。
頭に手拭いを巻きつけ、ジーンズ生地のようなオーバーオールの下に赤いシャツを身につけている。
腰には蚊取り線香がつけ、足元は長靴で、いかにも農作業スタイルという風だ。
「んーー……!」
雑草取りだろうか。彼女は腰を屈め、唸りながら地面から長い草を引き抜こうとしている。
オーバーオール越しにも判る、プリッとしたお尻が魅力的だ。
こうして改めて見ると、鵜久森さんは結構スタイルがいい。
胸やお尻という出るべきところは平均以上に出ているし、一方で腰は細い。
腕は都会でたむろしている女子高生よりは少し太い気もするけど、それでも十分華奢といえる細さで……。
僕がそんな風に見とれていると、急に鵜久森さんの身体が揺れた。
「ひゃっ!!」
草を勢いよく抜きすぎたのか、大いに尻餅をつく鵜久森さん。
「だ、大丈夫?」
僕は心配になって彼女に駆け寄った。爛々と輝く瞳が上を向き、僕を映しだす。
「あー、壮介!」
赤く日に焼けた頬を緩め、鵜久森さんは叫ぶ。もう何度思ったか解らないけど、可愛い。
こんな子から親しげに呼び捨てされる日が来るなんて、数ヶ月前の僕ならまず信じないだろう。

鵜久森さんは僕の手を借りて立ち上がると、頭に巻いていた手拭いを取り去った。
現れるのは、湯上りのような黒髪と、額のしとどな汗。健康的なエロスというのか、見ているだけで妙にアソコに響く。
それに鵜久森さん、前に見た時よりも少し髪が伸びたんじゃないだろうか。
僕は長い黒髪が好きだから、それだけで余計にときめいてしまう。
「ふー、今日はまだ暑ぃねぇ」
鵜久森さんは言いながら、赤いシャツで首元を扇いだ。
ちらりと覗く白い胸元に、思春期真っ盛りである僕の視線は釘付けになる。
しばしの凝視。思わず生唾を呑んだその瞬間、薄く開いた鵜久森さんの視線がこっちを向いた。
疑問符の浮くような顔が僕を見つめる。
どうやら僕の邪な心には気付いてないみたいだ。でも、そうと決まった訳でもない。
「結構、派手なシャツだね」
僕は、さり気なく視線の先をずらして言った。見ていたのはあくまで赤いシャツなんだぞ、と誤魔化すために。
すると鵜久森さんは首元を扇ぐのをやめ、視線を下げてシャツの色を確かめる。
「この服なら黄色系のシャツの方がめごいけんど、明るい色は虫がすこだま寄ってくんだ。
 赤だったらそうでもねぇし、万が一森の中でぶっかえってても、じっき誰か見っけでくれっから」
「ああ、目立つもんね」
「ん。こう暑ぃと、いづ熱中症でぶっかえっか解らんで。
 あたしは若ぇがらまだ平気だげんじょ、じんちゃなんがはもう歳だがら、心配で任せらんねぇんだ」
そういう鵜久森さんは、どこか寂しげに見えた。
確かに、お爺さんばかりに重労働を押し付ける訳にもいかないだろう。となれば、鵜久森さんの背負う負担も小さくはない。
彼女だってまだ僕と同じ、遊び盛りの高校生だっていうのに。

「僕も、手伝おうか?」
気付けば僕はそう言っていた。いや、言わずにはいられなかった、というのが本当のところだ。
僕のその言葉を聞いて、鵜久森さんは文字通り目を丸くする。
「え!? え、良ぇ、良ぇよ、んな心配すねぇで!
 こんなの慣れてっし、もしどうにもなんねくなっだら、近くのちびでも引っ張って来っから!」
「そ、そっか」
大慌てで手を振りながらそう言われては、僕もそれ以上は言えない。
確かに変なことを言った。
軽い気持ちで発言したつもりはない。でも東京に住む高校生に過ぎない僕が、何を手伝うっていうんだ。
中途半端に手を出すなんて、本気でやっている人の迷惑になるに決まってるじゃないか。
まただ。僕はまた、ズレた事をしてる。
「…………ね、壮介」
後悔の只中にいる僕は、その声にビクッと肩を震わせた。
恐る恐る顔を上げると、そこには僕の想定とは真逆の、聖母のような笑顔がある。
「壮介って、本当に優しいね。都会の人は心が冷たいって聞いてたけど、壮介を見てると、そんな事ないって解るよ」
鵜久森さんはそう言った。いつになく自然な標準語で。
彼女は僕と会っていない間も、密かに標準語の勉強を続けていたんだろうか。
「ああー、一度東京っちゃ行ってみでぇなぁ!」
一変して素の方言を出しながら、鵜久森さんは表情を緩める。
東京に行ってみたい。前も聞いた言葉だ。
僕はチャンスだと思った。畑仕事の手伝いはできなくても、上京の案内くらいなら僕にもできる。
いや、多分、今ここにいる僕にしかできない。

「なら、東京に遊びに来る? 案内するよ」
僕が意を決して誘うと、鵜久森さんは虚を突かれたように目を瞬かせる。
「え?」
何を言ってるんだろう。一瞬そんな表情を見せ、直後、その瞳が解りやすいほどに輝きだす。
「あ…………う、うん、うんっ!! しばらくは忙しいから、都合さえつけば!」
僕はその喜びようを嬉しく思いながら、自分の住所を紙に書いて彼女に渡した。
鵜久森さんは携帯もスマートフォンも持っていない。固定電話もどうやら店との共用だ。
だから僕と彼女が個人的な連絡を取り合うには、手紙しかない。
「これが僕の住所だから。都合がついたら……いや、何もなくてもいいよ。また連絡ちょうだい」
「あ、ありがとなし。近いうちきっと、手紙出すがら!」
興奮冷めやらぬ様子で住所の紙を握り締める鵜久森さん。
感情をストレートに外に出す彼女は、僕にとって相変わらず眩しく、そしてひどく愛おしい。
彼女という訳でもないのに、少し不遜な考えかもしれない。
でも今の僕には、それしか彼女への想いを表現できる言葉がなかった。


                             続く


00:07:32
※NTR物注意。久々の連載。第一話はまだエロなしです。
 ヒロインは最初エセ会津弁を話しますが、段々と頻度は低くなります。



都会生まれの都会育ちでも、緑豊かな風景をどこか懐かしく感じるのが不思議だ。
頭をカラッポにして電車に揺られる。都心から北東方面へ、ひたすら自然に満ちた場所へ。
日常を忘れられるなら、行き先はどこでもいい。

僕は昔から、イジメの標的にされやすいタイプだ。
『コイツなら軽く扱っても大丈夫』と皆に思わせるタイプ、と言った方が正確かもしれない。
はっきりとそれを理解したのは小2の時、僕と同じく気弱な子を家に呼んだ日だ。
僕はその子にゲームの順番を抜かされたばかりか、文句を言うなり突き飛ばされて壁にぶつかった。
でも、僕に言い返す勇気はなかった。
普段他人と視線を合わせない彼の、『やり返してみろ』と言わんばかりの目が忘れられない。
当然そんな僕は、イジメっ子のいいターゲットになる。
僕をのび太だとするなら、性格も体格も丁度ジャイアンのような同級生がイジメっ子のボスだ。
名前は石山。柔道で鍛え上げていた為か、喧嘩は滅法強く、常に学校の番長格だった。
僕はその石山から小学校・中学校と狙われ続け、色んな物を奪われた。
現金や漫画本、母親に買って貰ったばかりの万年筆、当時集めていたサッカー選手のシールに、姉のファーストキス。
勿論不満はあったけれど、石山相手にそれを口に出せるはずも無い。
むしろその頃は諦めに近い心境で、このまま搾取される側として一生を終えるんだろうな、と考えるようになっていた。

そんな状況が変わったのは、高校に入ってすぐの事だ。
相変わらず石山からイジメられていた僕を、身を挺して庇ってくれた奴がいる。
後に僕の親友となる須永英児だ。
英児は正義感が強く、石山の僕に対する扱いを見過ごさなかった。
僕を庇う英児と石山との大喧嘩は、当時の学校中、ひょっとすると地域中で噂になったものだ。
喧嘩無敗と恐れられた石山が、初めて土を付けられたんだから。
結果として英児は、高校入学から僅か1ヶ月でヒーローになった。
正義感に溢れ、喧嘩が強い上にルックスもいい。
180近い長身、ギリシャ系寄りの彫りの深い顔立ち、よく日に焼けて引き締まった体。
運動神経も抜群で、中学時代はバスケットの全国大会に出てもいたらしい。
これだけ好条件の揃った男子が、モテない訳がない。
創作ではよく、下駄箱から溢れるほどのバレンタインチョコを貰う男子が出てくるけど、英児はまさしくそれだった。
勿論、女子にばかり人気だった訳でもない。男気があって人当たりもいい英児は、男友達も多い。
いつも人の輪の中心にいる……そんな英児は、僕にとってあまりにも眩しかった。
だからこそ不思議でならない。僕が、その英児と親友になった訳が。

英児が僕と一緒にいた最初の理由は、多分ボディガードとしてだ。
面子を潰された石山とその一派は、しばらく英児のグループと険悪な関係にあった。
そんな中、原因となった僕が1人でいるのは危険すぎる。
だから英児は、休憩時間や登下校時など、事あるごとに僕に声を掛けてくれたんだろう。
でもそれは、石山達からすっかり復讐の気配が消えてからも続いた。
それどころか休みの日には、僕と2人だけで遊びに出かけることさえあった。
傍目にも僕らは仲が良く映ったらしく、たまに『須永はホモ』なんて茶化されてもいたようだ。
でも英児はそれを気に留めず、彼女とデートする傍ら、僕ともよく遊んだ。

僕は悩んだ末、意を決して英児本人に尋ねた事がある。
石山から守る意味で一緒に居てくれた事は解っている。でもそれなら何故、まだ一緒にいてくれるのか、と。
ベンチに腰掛けてそれを聞いた英児は、鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を見せた。
そして直後、腹の底からの大声で笑い始める。
僕なら周りの目を気にしてできない笑い方。でもスカッとした性格の英児には、本当に良く似合う。
「ははははっ!!! バッカだなお前。ンな事考えてたのかよ!?」
そう言って口を閉じ、少し頬を緩めた真顔を作る英児。
彫りの深い顔立ちでやるそれは、女子だったら一発で落ちそうな格好良さがある。
「俺、確かにお人好しなとこもあるけどさ。基本、気に入らない奴とは話さねーし、一緒にもいねぇよ」
英児の言葉が、まず心にズンと来た。そしてその意味を咀嚼した後、僕は首を振る。
「……その、気に入る理由っていうのが、わからない」
「何でだよ?」
「知ってると思うけど、僕は、虐められやすいタイプの人間なんだ。
 普段大人しい奴でも、僕に対してだけは容赦がなくなる。
 ここまでくると、もう自分に理由があるとしか思えない。多分僕の何かが、無意識に他人をイラつかせるんだ」
胸の裡を英児に打ち明けながら、僕は唇を噛んだ。
こういう弱音を吐く事自体が、何より不愉快な行為だと解ってはいる。
これが原因でいよいよ面倒臭い奴だと思われ、唯一親しくしてくれた相手から愛想を尽かされるであろう事も。
でも英児は、急に僕の肩を掴み、目を覗き込みながら言った。
違う、と。

「確かにイジメられる奴の中には、そいつ自身の性格が悪かったり、妙にイラつかせる奴だったりってのもいる。
 …………でも、お前は違う」
予想外の返答に固まる僕を見て、英児は慌てて手を離す。そしてはにかむように笑った。
「お前からは、何つーか、『こいつなら何でも許してくれそう』ってオーラが漂ってんだよ。
 だからっつってイジメんのは最低だが、ある意味、ガキっぽい奴が甘えやすい雰囲気なんだろうな。
 要は、お前には妙な人徳があるって事だ」
トン、と僕の胸を叩いて英児が言う。
その笑顔には屈託がなく、言葉以上に雄弁に好意が伝わってくる。
人徳。心が妙に温かくなる言葉だ。そういう言葉をさらっと言える英児こそ凄い。
英児が人に好かれる理由を改めて感じさせられる。同時に、僕との埋めがたい差も。
「そんな人徳より僕は、英児みたいになれる才能が欲しいよ」
「おっ、何だよ嬉しい事言いやがって。でもやめとけ。俺みたいなタイプは、そこらにいくらでも居んだろ。
 俺は、お前のその感じこそ大事にした方がいいと思うぞ。勿体ねぇし」
「でも、今のままじゃ……」
「心配すんなって、お前はお前だ。それぞれ、自分に向いた生き方でいいんだよ。
 それに、もしお前をイジメるような奴がまた出てきたら、いつでも俺がブッ飛ばしてやる」
わしわしと僕の髪を掴みながら、英児は言う。その笑顔はとても頼もしい。

この本音の晒し合いをきっかけに、僕らはさらに仲を深めた。
お互いを親友と公言しはじめるのに、そう時間は掛からなかった。
僕自身それが嬉しく、誇らしかったのも事実だ。
でも僕は、未熟だった。つい無意識に英児の影を追いかけては、その差に打ちひしがれる。
『須永英児の金魚のフン』
皆の視線がそう言っているように感じて、居たたまれなかった。
僕が自然豊かな場所へ行こうと決めたのは、癒しを求めての事じゃない。
ただ、英児の影のない場所へ――劣等感に苛まれることのない場所へ、逃げ出したいだけなんだ。




都心から2時間も電車に揺られれば、窓に映る風景はほぼ田畑と山しか無くなる。
さすがに座り疲れていた僕は、適当な駅で電車を降りた。
赤錆だらけの看板からは、かろうじて『芳葉谷』という文字が読み取れる。
「にし、どっがら来らった?」
看板から目を離した直後、唐突に声を掛けられた。振り向けば、浅黒い肌の駅員がこっちを怪訝そうに見ている。
「え、えっと……」
言葉を返そうとするが、まず何と言われたのかが解らない。語尾が上がっていた以上、何かを訊かれたんだろうけど。
「何処がら?」
駅員は路線図を指で叩く。どうやら、どこから来たのかを訊ねているらしい。
「あの、東京からです」
僕が答えると、駅員は文字通り目を丸くした。都会から人が来るなんて、とその表情が語っている。
駅を出て少し歩けば、その反応にも納得がいった。
昭和の時代にタイムスリップしたのでは、と錯覚するような町並みだ。
目に映るどの建物もせいぜいが三階建てで、町全体が“低い”。
土埃に塗れた道路沿いには、木造の一軒家や個人店が並び、脇道に逸れれば見渡す限りの沢と水田が広がっている。
駄菓子屋の前には古ぼけたカードゲームの筐体がある。
赤単色の自販機に入っているのは、『ウルトラビタミンフルーツ』という名の毒々しい蛍光色のジュース。
道行く人も疎らだ。
今日が土曜で、ほとんどの商店が閉まっている事を考慮に入れても、活気ある町とは言い難い。
でもそれは、僕にとって都合が良かった。人の多い場所は得意じゃないから。

目的も定まらずに歩いていると、ふと道路脇の周辺地図が目に入った。
この町には、ほぼ東西南北に4つの寺があるようだ。
どれも山の中ではあるものの、一つは今いる場所にほど近い。柳の並ぶ川沿いを南下した先らしい。
他に目ぼしい所もないようなので、ともかく僕はその寺を目指して歩き出す。
ところが、甘かった。僕はその事実を、10分と経たず知ることとなる。
直線距離では近くても、いざ歩くとなれば迂回が続き、実際には山をひとつ越えるほどの距離を踏破する羽目になる。
勿論、実際には地元の人間だけが知る短縮ルートがあるんだろうけど、初見で解ろうはずもない。
勘で適当な山道に逸れ、迷子にでもなったらそれこそ無駄骨というものだ。

アスファルトで舗装された坂道を、ただひたすらに突き進む。
木の葉の影が濃い。5月半ばだというのに陽射しは真夏のそれで、シャツの背中に汗が滲む。
その最中、1人の女の子が自転車で坂を下りてくるのが見えた。
白い服に身を包み、よく日焼けした健康そうな子だ。彼女は僕と目があった瞬間、驚きの表情を見せる。
「こんにちはーーー!!」
大声でそう挨拶をされた。僕としては虚を突かれた形だ。
都会では、見知らぬ子供が挨拶してくるなんて事はまずないから。
「あ、こっ、こんにちは…………」
まごつきながら返事をした直後、横の茂みから羽音が飛び出す。見れば、恐ろしく巨大な蜂がすぐ横にいた。
「う、うわああぁっ!!」
僕は反射的に叫び、よろめきながら前方に走り出す。
後ろから、きゃははっと笑い声がした。振り返れば、さっきの子が僕を見て笑っている。
「…………ふーっ」
かろうじて蜂を振り切ったところで、思わず溜め息が漏れた。
この田舎まで来ても、僕自身の格好悪さは何も変わらない。それをつくづく思い知る。

苦労を重ねてようやく辿り着いた寺は、確かにそれなりの雰囲気があった。
どうやら南のここは、安産祈願の寺らしい。
本堂へと続く石畳の脇には屋台の名残がある。時期が時期なら活気もありそうだ。
ただし、今日は誰もいない。参道でも二組の老夫婦に会っただけで、ひどく閑散としている。
いくら人混みを嫌う僕とはいえ、これでは寂しいというものだ。
落胆と同時に、忘れていた空腹感が襲ってくる。
時刻は昼過ぎ。どこかで何か食べたいと思うものの、寺周りで開いている店は見当たらない。
となれば後は、来た時とは別の道を下りながら探すしかなかった。



それから、どのくらい歩いただろう。
時計の針は1時を回り、いよいよ腹が鳴り始めた。朝から何も食べていないんだから当然だ。
何でもいい。何か食べ物を…………。
その願いが通じたんだろうか。峠のやや開けた場所に、一軒の甘味処が見えた。
赤いフェルトのかけられた縁側には土産物が並び、『商い中』という木の看板も出ている。幸いにも開いているらしい。
「すみません……」
僕は暖簾をくぐりながら、店の奥に向かって声を掛ける。けれども、返事が無い。
「すみませーん!!」
少し声量を大きくして、もう一度。でも、やっぱり返事は無い。そもそも人がいる気配すらない。
ここも駄目か――そう思った瞬間だ。

「あれぇ、お客さんがぁー!?」

突然、背後から大声が響いた。体育館の端と端で会話する時ぐらいにしか聞かない声量だ。
背を丸めながら恐る恐る振り返ると、そこには制服姿の女の子がいた。
制服もやっぱり昭和臭く、スカート丈は膝より長い。顔には化粧っ気もない。
けれども僕は、一目で彼女に魅力を感じた。
小動物のようにくるりとした瞳。控えめな鼻と口。
肩までに自然に伸ばされ、前髪の一部だけが額にかかった、ややボリュームのある黒髪。
その全てが垢抜けない。でも、ひどく可愛い。
「あんつぁ、なじょした?」
ぼんやりと顔を見つめていた僕に対して、さらに言葉が掛けられる。
その声で、僕はふと我に返った。
「あ、その、お腹がすいたので、何か食事をしたいと思ったんですけど…………」
ジェスチャー交じりにそう伝えると、女の子は小首を傾げながら暖簾を押し上げる。

「じんちゃー、お客さん来らったよぉーー!!」

さっきよりもさらに大きな声。鼓膜の奥にまでわんわんと響き渡ってくる。それでも、店の奥からは返事がない。
女の子は大きな動作で肩を竦めた。
「ごめんなんしょ。じんちゃぁ、今いねぇみでぇだ」
独特のアクセントの方言。正確な意味は解らないが、謝罪と、店の主人が不在であるという事実は伝わってくる。
またお預けか。今度は僕が肩を落とす番だった。
「そうですか。じゃあ、仕方ないですね」
僕が一礼して歩き去ろうとした、次の瞬間。
「待ってくなんしょっ!!」
女の子の手が、いきなり僕の腕を掴んだ。
ドクン、と心臓が脈打つ。気弱なせいで、女の子と触れ合う機会なんてほとんどない僕だ。
可愛い女の子が、自分から触れてくる。その予想外の展開への免疫もない。
心拍数が上がり、時間の流れは緩慢に感じる。
制服の半袖から覗く、女の子の腕――今、僕の視界にあるのはそれだけだ。
山育ちらしく、健康的に日焼けした肌。インドア派の僕よりはやや黒く、体育会系の英児よりはずっと白い。
細くて綺麗で、生命力に満ち溢れた手だと思った。
「でっぢがって。じっき支度すっから!」
フェルトの掛かった縁側を叩きながら、女の子は言う。座って待て、という事だろう。
僕はその言葉に従った。拒否する理由なんてない。むしろ、“女の子に誘われた”という高揚感ばかりが強まっていく。



「あんちゃ、何処がら来らっちゃだべな?」
急須に茶葉を入れながら、女の子が言う。駅員が訊いてきた言葉と同じだ。
「えと、東京からです」
「ひぇー、やっぱそうだべが!」
振り返った顔は、満面の笑みだった。澄んだ瞳がくるくるとよく動く。
サッパリしたその感じはひどく眩しい。僕が憧れる親友のように。
『東京から』という僕の言葉に、やっぱり、と彼女は言った。
どういう意味のやっぱり、だろう。色白で覇気のない僕の様子が、都会のイメージにぴったりだったという事だろうか?
そんな事を考えつき、僕は小さく頭を振る。
こういうネガディブ思考が嫌で、ここまで来たんじゃないか。忘れろ。今はただ、この状況を楽しめばいい。
制服を着た同い年ぐらいの女の子が、僕のために何かを作ってくれている。よく考えればこれは、得難い体験なんだから。

「……おわいなんしょ」
その言葉と共に、団子の皿が手渡される。みたらしと草団子の二色だ。
僕はまず、より食いでのありそうな草団子に手を伸ばした。
濃緑色の粒々が入った、色鮮やかな草団子。上に乗っている餡子も美味しそうだ。
空腹から、勢いよく口に放り込む。
団子の弾力を考えて強く噛もうとしたが、その必要はなかった。団子は搗き立ての餅のように柔らかく、歯の間で蕩けてしまう。
草餅の青臭くもしっかりとした味を、餡子の重厚な甘さが包み、えもいわれぬ美味しさだ。
あっという間に2つの草団子が胃に収まり、隣のみたらしへ指が伸びる。
僕のこれまでの人生で、団子といえば一串一串が重く、連続でパクパクいけるような食べ物じゃなかった。
でも、これは違う。後を引く美味しさがありつつも口当たりは軽く、顎にも一切の負担を感じさせない。
僕の指は流れるようにみたらしの串を摘み上げる。
とろっと糸を引く黄金色がたまらなかった。
温かな団子にかぶりついた後、今度はあえて両顎に力を篭めず、歯で挟み込むように齧ってみる。
期待通り、ふわふわの団子はそれだけで十分に噛み切れた。
草餅も絶品だったけど、こっちも相当だ。団子のモチモチした柔らかさと、タレの優しい甘みが抜群によく調和している。
咀嚼すればするほどそれらが引き立ち合い、口の中にはもう幸せしかない。
「あぁ、美味しい~!!」
僕は呑むようにみたらしの玉を平らげ、思わず呟いた。
人目ばかり気にしてしまう普段の僕なら、絶対にしないだろう。この団子さえ食べなければ。
「ふふ、ぇがったあ」
そんな僕を見て、女の子は蕩けるような笑みを見せた。
不思議だ。そして、反則的だ。
生命力に満ちた『動』の表情があんなに魅力的な子なのに、慈母のような『静』の貌まで、こんなに綺麗だなんて。

「……そんじぇ、どっちがうんめかった?」
食後の茶を啜る僕に、女の子が尋ねてくる。目つきが妙に真剣だ。
「うーん」
僕は2つの団子の味を思い返す。甲乙つけがたい、というのが本当の所だ。でもどちらかといえば……。
「こっち、です」
みたらしのタレのついた部分を指さし、僕は言った。その瞬間、女の子が目を見開く。
「ま、まじょ!? まじに!?」
その勢いにやや圧倒されながら、僕は頷いた。すると女の子は、胸元で小さく両手のガッツポーズを作る。
「え、えっ?」
僕が面食らっていると、女の子は我に返ったように照れた。
それから彼女は事情を語る。
二色の団子のうち、草団子は彼女のおじいさんが作ったもので、みたらしは彼女自身が作った物であること。
客はいつも、草団子の方ばかり美味しいと言い、彼女は一度もおじいさんに勝てない事を悔しく思っていたこと。
いくつか理解できない言葉もあったが、恐らくはそんな内容だ。
「…………あんがとなし」
頬を掻きながら恥ずかしそうに言う姿は、何か妙に胸に来る。
「いえ、感謝するのは僕の方です。今まで食べた事がないくらい、美味しいお団子だったから」
僕が思ったままを口にすると、彼女は茹ったように顔を赤らめ、耳を押さえながら、やんだー、やんだーと繰り返していた。



僕らは、横並びに縁側に腰掛け、そこでようやく互いに自己紹介をする。
「篠弥 壮介(しのや そうすけ)です」
「鵜久森 和紗(うぐもり かずさ)……です」
お互いに改まって礼をし合い、可笑しくなって噴きだしてしまう。
鵜久森さんの大きな声につられて腹の底から笑ううち、心まで開放的になっていくのが不思議だった。

「……お客さん、来ませんね」
「こん時期はすげねぇべ。そんじもまた夏になっだら、さぁがしくなんだ」
「すげねぇ、ってどういう意味ですか?」
流石に理解できなかったので、僕はそう訊いてみる。すると鵜久森さんは、やや恥ずかしそうな顔になった。
「え? えーっと……さびしい、でいいんだべが?」
「あ、共通語解るんですね」
僕はついそう口走り、失礼かと思い直して口を押さえる。
でも鵜久森さんが機嫌を損ねた感じはなく、乱れた前髪を指で直しながら笑った。
「……あたしも本当は、いっべん東京っちゃ行ぎっちだ。んでも、素がこった喋り方だがら、こっぱずかすぃて」
なるほど。どうやら方言が気になって、東京に行きたくても行けないという事らしい。
それなら、僕と話をしながら共通語を身につければいい。
どんな言語でも、『実際にその言葉を使う人間と会話する』のが一番だっていうじゃないか。
僕はそう口にしたかった。でも生来の気の弱さが、その一歩を踏み出させない。
言え。今言え、言ってしまえ――。
ゴクリと喉が鳴る。
不思議そうな鵜久森さんと視線が絡み、縁側に妙な沈黙が降りる。
そしてそれを破ったのは、結局、意気地の無い僕の言葉なんかじゃなかった。

「やってー!」

子供の甲高い声が、木々の間から響き渡る。
僕も、目の前の鵜久森さんも、その声で背筋を伸ばした。
直後、茂みを掻き分けて数人の子供が姿を現す。日に焼けて傷だらけの、いかにも腕白そうな子供達だ。
子供達はわらわらと僕の周りに群がり、一様に首を傾げた。
「ん? ……あんちゃ、誰じゃべ?」
どうやら僕のことを訝しがっているようだ。
「えっと、僕は……」
「あー! こんあんちゃ、さっき蜂ィ見ておっかねがってた人だぁ!」
答えようとした僕の声を掻き消すようにして、1人の女の子が叫ぶ。
その白い服と、よく日に焼けた肌には見覚えがある。寺へ向かう途中の坂で、僕に挨拶をくれた子だ。
そして同時に、蜂に恐れ戦く醜態を見られた相手でもある。
女の子があの時の僕を真似てジグザグに駆け、他の子供が笑い始めた。
「蜂がおっがねぐて、和紗姉っちゃんトコにずらがっで来たんだぁー!」
「やーいやぁーい、小便たれー!」
子供達は僕を囲みながら、いよいよ大声で囃し立ててくる。
それにどう対応したものか困っていると、隣の鵜久森さんがすっくと立ち上がった。
そして、近くにいた子供の頭を拳骨で叩く。
「やめっせ、ばがっ!!」
鵜久森さんが一喝すると、子供達は頭を押さえ、『暴力女』という感じの捨て台詞を残して逃げ去っていく。
「まぁず、おんずぐねぇ……!!」
鵜久森さんは腰に手を当て、やや不機嫌そうにしながら僕を見下ろした。
「さすけね?」
「え、ええ。ありがとうございます」
どうやら気遣ってくれているらしいので、問題ない事をアピールする。すると、鵜久森さんの表情が少し和らいだ。

「ああいう子らは、どやしても良がよ?」
「うーん。何だか、そういうのは苦手なんです」
「え……でも、そんだとあんちゃが一方的にやられんべ?」
「慣れてます。いつもの事だから」
そう言う僕は、さぞ自嘲気味な笑みを浮かべている事だろう。
今さらながらに、ハッキリと理解できた。僕という人格は、どこに行こうが何をしようが、容易には変わらないんだと。
片や、子供をぴしゃりと叱り、纏め上げられる鵜久森さん。
片や、同じ子供を相手に反論にさえ踏み切れず、ただ苦笑するばかりの僕。
付き合いの長さの問題じゃない。たとえあの子達と長く暮らしていたって、僕の立場が変わるとは思えない。
そもそものタイプが違うんだ。
意気地なし。強い鵜久森さんの目には、僕がそう映るだろう。当然だ。僕自身、そんな事は泣きたいくらいに解ってる。

「…………優しいんだべな」
ネガティブな思考に陥っていた僕は、最初、鵜久森さんが何を言ったのか理解できなかった。
顔を上げると、団子をご馳走してくれた時と同じ、慈母のように柔らかな笑顔がある。
僕は首を横に振った。
「いえ、そういう訳じゃ。ただ気が弱いだけです」
「そんだべか? 懐の深ぇ人に見えんだげんじょ……。あんちゃには、何か妙な人徳があんべ」
人徳。魅力的な笑みで発されたその言葉が、どくんと僕の胸を沸き立たせた。
英児も使った表現だ。その言葉を聞くと、何故か勇気が湧いてくる。
胸の中で常に渦巻いている何かが、少し柔らかくなる気がする。
「ありがとう」
僕は万感の思いを込めつつ、あえて短く感謝した。あまり長々と語ると、涙が溢れそうだったから。



鵜久森さんの甘味処には、団子の他にも、山菜を利用した佃煮や漬物などの土産物も沢山あった。
僕はそれを少しずつ頂きながら、鵜久森さんにせがまれるままに“都会”の話をする。
鵜久森さんの都会への興味は強かった。
でも言葉遣いの問題があり、それに機械オンチなため、それも都会行きを躊躇わせる原因の一つだそうだ。
数年前に買ってみた炊飯器ですら、全く使える気がせずにお蔵入りしているという。
そんな彼女にスマートフォンを見せると、一気に表情が強張った。
「う、うわぁ…………無理そう」
そう呟きながら、震える手で操作を続ける鵜久森さん。
その最中、唐突にプルルルル、という音がし始める。通話の音だ。どうやら彼女は、間違って電話の操作をしてしまったらしい。
「あっ、あっ!!」
鵜久森さんは焦ってどうにかしようとスマートフォンを振り回すものの、電話の切り方が解らない。
「う、うわっ……とと!!」
僕としても鵜久森さんが暴れるせいで、助け舟の出しようもない。
そしてそんな中、とうとう電話が繋がってしまう。
『よう、ソースケ。どうした?』
聞き慣れた声。電話の相手は英児だ。まぁ僕が通話履歴は彼ばかりだから、当然といえば当然かもしれない。
僕は少し胸を撫で下ろしたけど、鵜久森さんはいよいよ混乱の極みだ。
「あ、ああ、あのっ、すみません間違えました!!」
まさに目を白黒させるといった慌てぶりで、何度も頭を下げながら謝っている。
『へっ!?』
不意を突かれたような英児の声が聴こえてくる。
驚くのも当然だ。僕から掛かってきた電話で、女の子の声がしたんだから。
僕は放心状態の鵜久森さんの手からスマートフォンを抜き取る。
「ごめん英児、また後でかけ直すよ」
『…………ん? お、おう…………』
珍しく困惑気味な英児に内心で謝りながら、僕は通話を終了する。

「ご、ごめんなんしょ…………」
弱弱しいその声に横を向くと、鵜久森さんがフェルトの掛かった縁側に土下座するようにして頭を下げていた。
どこか滑稽な姿。思わず笑いがこみ上げる。
「大丈夫ですよ。今のは、僕の親友ですから」
そう言うと、鵜久森さんは跳ね起きるように頭を上げた。解りやすいぐらいに、救われた、という表情をしている。
「まじに!?」
「まじに」
つられてそう答えると、鵜久森さんは安堵の息を漏らした。
制服のブラウスをやや盛り上げる胸が、大きく上下する。どこか甘く感じる吐息が鼻を舐める。
女の子に免疫のない僕は、それだけでまた動悸が激しくなってしまう。
「そういえば、カメラにもなるんですよ、これ」
僕は動揺を悟られないように話題を変える。すると鵜久森さんの目が丸くなった。
「カメラって、あの写真撮る……?」
「そうです。一枚試しに撮ってみますか?」
僕はさりげなく鵜久森さんに尋ねた。内心では勇気を振り絞った一言だ。
女の子に一緒に写真を撮ろうと誘った事なんて、今までの人生で一度もない。
でも、今は断られないという予感があった。そして実際、鵜久森さんは目を輝かせて何度も頷く。
「じ、じゃあ、行きますよ…………!」
鵜久森さんと横並びになったまま、両手の指でカメラを構えて声を掛ける。
「うん」
鵜久森さんから、やや強張った声が聴こえてきた。明らかに緊張している。でも、それは僕だって同じだ。
「3、2、1」
カメラの角度を確かめながらカウントダウンして、人差し指で撮影ボタンを押し込む。
カシリ、と音がした。
スマートフォンを戻して画像を確認すると、そこには間違いなく僕らの姿が映っている。
想定よりやや下を映す形にはなってしまったものの、かなり綺麗に撮れていた。
眼鏡に光が反射して、少し怪しい感じになっている僕。
その僕の肩に寄りかかるようになり、怯えるように上を見上げている鵜久森さん。
「何か、お化けに遭ったみたいだね」
鵜久森さんがポツリと呟いた一言は的を得ていて、僕は思わず噴き出した。
それにつられて鵜久森さんも笑い始め、2人して大笑いする。
ちょうどその最中だ。

「おんや、お客がぁ!?」

またしても木を揺らすような大声が、僕の背後からぶつけられる。
振り返った先には、昔話でありがちな、『柴刈りに出かけるおじいさん』というイメージぴったりの人がいた。
背中に担いだ木の籠には、山のように山菜が入っている。
「あ、じんちゃー! まぁだ店されがまって!」
鵜久森さんが僕越しにお爺さんを見て叫んだ。
「おぉ、おぉ、すまねがっだ。……おわいなはんしょ」
お爺さんはおどけた様子で鵜久森さんに言った後、僕にも頭を下げる。いらっしゃい、という意味だろう。
「あたしのじんちゃ……あっ、と、お爺ちゃん。この店の主人なんだ」
鵜久森さんは僕にそう耳打ちしてから、勢いよく立ち上がる。
その後のお爺さんとの会話は、方言がきつくて流石に解らない。
けどジェスチャーを見れば、お腹をすかせた僕に団子などをご馳走したと言っていることが読み取れた。
僕はそこでようやく、食べたものの代金を払っていない事に気が付く。
「そうだ、すみません。お代を……」
僕がそう言って財布を片手に立ち上がると、籠を下ろしたお爺さんは笑いながら首を振る。
「ええ、ええ。何でも食いでぇもんを食え」
そう言いながら、ゴマ団子のようなものを差し出してくれた。
鵜久森さんのお爺さんだけあって、魅力的な笑顔を作る人だ。
その後さらりと、山でイノシシに襲われた話をされた時には、こっちの笑顔が引き攣ったけれども。


結局僕は、それから2時間ほど甘味処にお世話になった。
お茶や雑煮を頂きながら、鵜久森さんとお爺さんとで話に花を咲かせる。
どちらも気さくで、気持ちのいい反応を見せてくれるせいだろうか。
普段人と話す事が得意でない僕も、気付けば自然と口数が多くなっていた。
英児以外の相手を何度も笑わせるなんて、いつ以来だろう。
打ち解けている。その事実がひどく心地良かった。

「おっと、もうこったな時間じゃ。にし、東京まで戻るんなら、だんだん帰り始めた方がええな」
「ま、まじょ!? ごめんなんしょ、長ぇこと引き留めて」
時計を見て心配する2人を前に、僕は首を振る。
「いえ、凄く楽しかったです。また機会があったら、寄らせてもらいます」
「おお、おお、のっぺがら来らんしょ」
「また、いつでも来てね?」
容赦なく訛ったお爺さんの言葉を、すかさず鵜久森さんが通訳してくれる。少しぎこちないトーンで。
そんな2人の姿にいつまでも手を振りながら、僕は山道を降りていく。
身も、心も軽かった。
ここでのふれ合いを通して、本当の意味で自分に価値を見出せたような気がする。
「あー、あんちゃ!」
その時、脇道から聞こえてきた子供の声に、僕は一瞬固まった。
覚えのある声だ。視線を向けると、やっぱり、甘味処で鵜久森さんが小突いた子供達がいる。
田んぼの中で何か作業をしているみたいだ。
また絡まれるのか。そう覚悟を決めたものの、子供達はこっちに小さな手を振るばかりだった。
「まだなー!!」
笑いながら、口々にそう叫んでいる。
屈託のない笑顔だ。ひょっとすると僕は、嫌われているという訳でもないのかも。
僕はまた気持ちが楽になり、子供達に大きく手を振り返した。



帰りの電車で見る風景は、行きとはまったく逆になる。
自然豊かな山々が、次第次第に住宅地に変わり、ビル群に成り果てる。
生まれてから17年、飽きるほど見続けたコンクリートの街並みだ。
でも今はなぜか、そこに大した恐怖を感じない。
スマートフォンの画面には、勇気をくれたあの町――『芳葉谷』の検索結果がある。
人口わずか400人余り。北関東の中でも、会津地方の影響を強く受けている地域の一つ。
多分僕が、もう一度訪れるだろう場所。
僕は検索結果を閉じて、カメラロールを立ち上げた。
あの町で撮った写真が並んでいる。
霞がかったような山々を背に、延々と水田が広がり、駅前には昭和を思わせる町並みが続いていて。
そうした思い出に浸っていると、不意に鵜久森さんとのツーショット写真に辿り着く。
ドクン、と心臓が高鳴った。

改めて見ると、本当に可愛い子だ。
上を見上げて怯えを見せる顔は、角度のせいかウサギを思わせる。
海辺が似合う肌も妙に魅力的だ。
おまけに、写真を撮っている間は夢中で気付かなかったけど、制服を盛り上げるくらいの胸が僕の腕に押し付けられている。
腕をさすっても、当然そんな感触は残っていない。でも異常に動悸が早まってしまう。
写真では撮りきれない彼女の魅力は、今でも鮮明に思い出せた。
クルクルと動く瞳が。ハキハキと喋る唇が。屈託のない穏やかな笑顔が……。
苦しい。鵜久森さんと距離が離れていくにつれて、胸が締め付けられるみたいだ。
理由は考えなくてもわかる。

どうやら僕は、彼女にすっかり惚れているらしかった。



                            続く



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プロフィール

Author:燻製ねこ
2chを名無しで彷徨う流浪の物書き。
百合とアナルが主食。
強い女と性拷問も大好き。

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